再会(ロケットダッシュ)
神父様から魔法ギルドの党首に伝言がある。
俺がそう言うとクラウディアさんは詳しいことは聞きもせずに納得してくれて、湖の上に浮かぶ中心街へと連れていってくれることになった。
何でクラウディアさんが中心街に入れるのかと疑問に思ったが、何でも白騎士の家系は魔法ギルドとも縁が深いらしい。
そういえばヴィオラとも以前から面識あったみたいだしなあ。
というかそのヴィオラだよ。
「ちょっと心配かけたかなー」程度に思っていたのだが、クラウディアさんによるとちょっとどころか軽く情緒不安定になる程度にはショックを受けていたらしい。
あの大人びてクールな態度がデフォルトなヴィオラが。
あれ、これ殴られるどころか殺られるのでは?
でも同じ街に居たのに連絡しなかったことについては、ヴィオラの実家がどこかなんて知らなかったので仕方なかったのだと納得してほしい。
というかなんでそんな重要なこと黙ってたんだよ!?
「恐らくは敬遠されると思ったのでは? 立場故か媚びを売られたり逆に分不相応だと侮られたりと、まだ子供だというのに苦労なさったそうですから」
「ええ……魔術師って性格悪い奴が多いんですか?」
中心街へ続く橋の上。
それなりに長い道のりの中で軽く情報交換しながら歩いているのだが、本当に長いなコレ。
しかもそろそろ暗くなり始めてるのに灯りの類はないみたいだし、夜に橋渡ろうとしてうっかり落ちる人とか居ないのか。
「レオンさんは魔術師は嫌いですか?」
「嫌いというか」
いい印象がない。
この国に来たときに思いっきり軽く扱われたし。
カムナの話を聞くにプライドが高くて一般人見下してる魔術師が多いみたいだしなあ。
しかし……。
「なんかえらい頭下げられてるような」
なんかすれ違う魔術師らしき人間たちが、こちらを見るなり驚いたように目を見開き頭を下げていく。
何事だ。
もしかして中心街にいる魔術師は謙虚で礼儀正しい魔術師ばかりなのか。
「この街ランライミアは白騎士伝説の舞台の一つだからね。彼の孫となれば敬意もはらうだろうさ」
「ええ……他国でまで活躍してんの白騎士」
いや、そういえば白騎士は魔法ギルドと縁が深いとさっき聞いたばかりだな。
もしかしてその伝説とやらがきっかけなのか。
「ええなんでも……私が語るよりも専門の方にお任せしましょうか」
「任せたまえ」
クラウディアさんにふられて何かドヤ顔で答えるカムナ。
なんかいつもよりイキイキしてるというか、クラウディアさんが自己紹介した時も両手で握手してたし、もしかしてファンなのか。
白騎士にえらい詳しいの吟遊詩人だからじゃなくて好きだからなのか。
「不可侵の領域と言っていいランライミアだが、かつて一度だけ外敵の侵入を許したことがある。約百年前、魔王配下の魔物たちが突然湧き出て街の中で暴れはじめたのさ」
「襲撃してきたんじゃなくて中からわいたのかよ」
元首都のシュバーンに直接乗り込んできたのといい、物語のセオリー守らねえ魔王だな。
いやそんだけ攻撃としては効果的だったんだろうけど。
「しかし仮にも魔法ギルドの総本山だ。魔術師たちの手で大半の魔物は片付けられた。しかし勝利を確信した魔術師たちの前に山を思わせる巨大なドラゴンが現れたらしい」
「おお、ドラゴン!」
強敵のお約束だな。
……いや総本山にドラゴン現れたって大ピンチでは?
「実際魔術師たちの魔術をことごとく無効化してしまったらしい。もうダメだと絶望する魔術師たち。そんな魔術師たちを尻目に、ドラゴンに挑みかかる三人の英雄が現れた」
「三人?」
白騎士だけじゃないのか。
いやいくら白騎士でもドラゴン単独で倒せるわけ……神父様の同類なら倒せそうだな!
「一人は置いといてもう一人は少年も知ってるよ。神父の姉の魔女さ」
「ああ。あの」
気に入らない人間は氷漬けにするとかいう。
……それ英雄枠でいいのか?
「魔女の強さは言わずもがな。しかし白騎士ともう一人も凄かった。なにせ山ほどもあるドラゴンを生身で殴り飛ばし、地に叩き伏せたらしい」
「ええ……」
それ物理的に可能なのか。というかもしかしてクラウディアさんも?
そう思いながら視線を向けると、クラウディアさんは「ふふふ」と口元に手を当てながら微笑んで見せる。
それ肯定? 否定? どっち?
「そうやって二人でドラゴンを叩きのめしてる間に、魔女が大魔術を発動させてジ・エンド。魔術師たちすら手も足も出なかったドラゴン相手に生身で戦って見せた白騎士は、魔術師たちの間でも敬意をもたれるようになったわけさ」
「あーそりゃ度肝抜かされただろうな」
というか人間かそれ。
神父様みたいに人外にはみ出してないか。
「ちゃんと老衰で死んだので普通の人間だったはずですよ」
「はずですて」
孫でも断言できないのか。
「レオン!」
「え?」
話しながら歩いている内に橋も終わりに近付き、街の入口が見えて来たのだが、突然名前を呼ばれて思わず聞こえてきた方を凝視する。
「……ヴィオラ?」
懐かしい顔が、見たこともない表情をしてこちらに走って来ていた。
今にも泣きだしそうな、寂しくて心細くて、親を見失った迷子の子供みたいな。
そんな俺が知ってるヴィオラなら見せない表情。
呆気にとられるこちらへと、矢のような速度で走ってくる。
そう、矢のような速さで。
「レオン!」
「ぐほぉ!?」
そしてそのまま飛びついてくるヴィオラだが、ちょっと思いだしてほしい。
普通に女子らしい身体能力のカムナと違って、ヴィオラは魔術師でありながら神父様仕込みの武闘派でもある。
そんなのが全力で飛びついてきたらどうなるか。
「ガハッ!?」
狙ったように鳩尾にヒットするヴィオラの頭。
そのままの勢いで後ろ向きに倒れる体と、一瞬呼吸と共に停止する意識。
見事に受け身を取るのに失敗し、仰向けに叩きつけられた俺は意識を刈り取られた。