新教皇について
「そもそもだ。何故神父ともあろうものが君なんかを使いに出す?」
「なんかて」
ジレントの首都とやらへの道中、カムナが思いだしたように話し出したと思ったらナチュラルに喧嘩売ってくる。
病み上がりでいきなり旅とか大丈夫かとも思ったのだが、ジレントは街道が整備されていて頻繁に馬車も行きかうので、徒歩での移動はほぼないらしい。
今もずんぐりと横に太くて頑丈そうな馬に引かれる馬車の中でガタゴトと揺られてる。
しかも前みたいに商人が荷物運ぶついでとかではなくて、ちゃんと座席までついている客を乗せるための馬車だ。
両手を伸ばせば壁につくくらいこじんまりとしているが、俺たち二人以外に客もいないのでそれほど窮屈な感じもしない。
……なんかこの国おかしくね?
魔術師が多いというだけでこんな国全体の水準があがるもんなのか。
「あー事故で飛ばされたって言っただろ。そのついでというか」
少し考えて、カムナの質問に肝心な部分は話さずに濁す。
というか神父様発のあの世界を揺るがせかねない情報を、いくらカムナ相手とはいえぽろっと漏らすわけにもいかない。
新しい教皇が神父様(魔王倒した英雄)を地獄に封印して何か企んでますよとか言えねえ。
……地獄に封印されるってやっぱり神父様が魔王だったのでは?
「ふうん。まあ西の方からきな臭い噂も聞こえて来たしね。何でも新教皇のグエンが神父に喧嘩売ったとか」
「何でおまえそんなことまで知ってんの?」
マジでこいつの情報網どうなってんの。
旅の吟遊詩人とはいえそんな情報集まるもんか。
いやでも一緒に居て不審な行動とかなかったしなあ。
だからこそどこで情報集めてんだよという話に戻るわけだが。
「当たりか。でも少年みたいな不安が残る使いを出すという事は、噂通りに大した騒ぎにはならないということかな」
「噂通りって?」
「相手は生ける伝説の神父だよ? 実力があるだけでなく魔法ギルドやピザン王家など有力者へのコネクションも多い。虎に子猫が噛みついてもじゃれてるとしか思われないだろうっていうのが大半の見解さ」
「ええ……」
神父様は怪獣か何かかよ。
というかまんまと神父様を封印した新教皇とやら、世間の評判以上に「やる」という事じゃないかコレ。
それにしても神父様を封印して何がやりたいんだ。
色々理不尽ではあるけれど、神父様は間違いなく善寄りの人間だし、邪魔になるとしたらあくどいことしか考えられないよなあ。
「そのグエンっていう教皇はどんなやつなんだ?」
「どんなと言われてもね。聞こえてくる噂は貧しい民に施しをしただとか、不正を行っていた連中の罪を暴いただの、神官らしく聖人めいたものばかりだよ。だからこそ胡散臭くもあるんだけど」
「何で?」
「ただのお人好しが教皇になんてなれるかい。教会の運営にだって利権が絡むし、そういう利権に群がってる連中とも上手く付き合わなきゃ潰されるのがオチだよ」
「ええ……。教会がそんなでいいのか」
もしかして神父様が教皇の選出面倒くさがってたの正にそういうところでは。
なんかほっといてほしいみたいなこと言ってたし。
「まあ確かに神父も昔は体制改革に手を付けたこともあったそうだよ。でも現状を見れば結果はお察しさ」
「ああ。神父様にもできないことってあったんだな」
むしろそのせいで「もうどうにでもなれ」と放り投げての今なのでは。
そしてふと思った。
俺の居た村。
あの世間の常識からズレた優しい村は、世界に疲れた神父様を癒すための理想で作られた箱庭なのでは。
そう何となく思った。




