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スケルトンが倒せない

 唐突だがアンデッドが日の光に弱いというのは誤解であり事実ではないらしい。

 何でそんな誤解が正されなかったのかというと、アンデッドを含む魔物の類が世界に現れ始めたのが五十年ほど前と人類の歴史からすれば最近のことだから。


 いや厳密にはもっと昔には普通に魔物が居たらしいのだが、五十年前までは何故か魔物が出現しなかった。そのため魔物が居なかった期間を指して「凪の時代」と呼ぶらしい。

 そのためその凪の時代には魔物はお伽噺の中だけの存在であり、間違った知識も結構広まって一般人には定着してしまっているのだとか。


 で、何でいきなりそんなことを考えているのかというと、現在真昼間だというのに人骨が勝手に動いて空中をノックしているから。

 緩慢な動きだが力は強いらしく、拳を振り下ろすたびに空中から「ゴンっ」と鈍い音がしている。


「おや。ここまで来てしまいましたか。やはりアンデッドは執念深いですね」

「いや何でそんなに落ち着いてるの!?」


 西の森に行こうと思ったら何やら変な音が聞こえて来て、何事かと近付けばそこにいたのは所謂スケルトンだった。

 幸い武装はしていないようだが生者を憎むというのは本当らしく、こちらを視認した瞬間体の向きを変えて再び空中を叩き始める。


「というかさっきから何もない場所殴ってんのにゴンゴン鳴ってんのは何でですか?」

「私が村を囲うように魔物の類が通れない結界をはっているからですよ。心配しなくてもドラゴンでもないと破れません」

「なあヴィオラ。魔法使いって誰でも村一つ覆うでかさの結界ずっとはり続けられるのか?」

「んなわけないでしょうが。先生含めて世界に片手の指で数えられる程度しかいないわよ」


 またしても神父様が規格外であることが判明した。

 もしかしてこの村世界で一番安全なんじゃなかろうか。


「さてレオン。貴方はスライムに苦戦したのには貴方が弱いというだけでなく別の理由もあります」

「弱いと断言された!?」

「剣術というのは基本的に対人を想定しています。そして対人剣術というのは主に上半身を狙い狙われることを想定しているので、スライムのような膝くらいの高さしかない敵は想定されていないのです」


 俺の叫びを無視して説明を続ける神父様。

 でも言われていることには納得というか、神父様相手に手合わせもしていたがそれと同じものがスライムに通じるわけがない。

 ならスケルトンには通じるのかというと……。


「……」


 相変わらずゴンゴン結界殴ってるスケルトンに目を向ける。

 しかしそれはどう見たって人骨なわけで、恐怖やら何やらいろんな感情が出て来て上手く処理できない。

 そんな俺の様子に気付いたのか、神父様が肩を叩きながら言う。


「レオン。確かにスケルトンは元は人間だったものです。ですが生前の意識などなくただひたすら生きている者を害する哀れな亡者でもあります。地獄に叩き返してあげることも慈悲なのです」

「行先天国じゃないの!?」


 そこは嘘でも神官なら天国って言おうよ。

 生前知り合いでもない死体相手に「地獄へ帰れ!」とか逆に言いづらいよ。


「まあ危なくなったら助けるので気軽にやっちゃいなさい」

「軽!?」


 ともあれ深く考えても仕方ないと割り切り、父さんからもらった剣を抜いて結界から出るとスケルトンに向き直る。


「……」


 こちらに気付いたスケルトンも結界を殴るのをやめる。

 そして酔っ払いのような安定しない足取りで近づいて来て腕を振り上げたのだが、やはりそれは緩慢で稽古中の神父様の鬼のような攻めに比べればお遊びみたいなものだ。


「――ハアッ!」


 なので振り下ろされた腕を回避しながら横に回り込み、無防備なスケルトン目がけて剣を振り下ろしたのだが……。


 ――ゴン。


 スケルトンの頭に当たった剣は、ちょっと表面削っただけで虚しく止まった。


「ああ。頭蓋骨は人体の中でも特に硬い部分ですから狙うのはお勧めできませんよ」

「先に言って!?」


 こちらに向き直りもせずに振るわれるスケルトンの腕を避けながら文句を言うが、神父様は相変わらずの微笑みを浮かべていて気にした様子もない。

 しかし頭蓋骨が硬いというのなら、えーと、とりあえず腕を狙って!


 ――ゴス。


「先生。今のは何で切れなかったんですか?」

「斬るのではなく殴る状態になってしまっているからですね。いわゆる棒振り状態です」

「うおおおおおお!?」


 ヴィオラの質問に神父様が解説をしているがそれを気にしている余裕がない。

 両腕をブンブン振り回すスケルトンの攻撃を避けながら剣を振るが、焦っているせいかまともに刃が入らず弾き返される。

 それでも何とかまともな一太刀が入り右腕を切断することができたのだが。


 ――カタカタカタカタ。


「気持ち悪!?」


 斬り飛ばした腕がその場ですんごいガタガタ動き出した。

 何でそんなトカゲのしっぽみたいな機能有してんの?

 実はこれ人骨じゃないの?


「アンデッドというのは魔力や霊的な力で動いていますからね。切り離されても動きますし頭がなくなろうが四肢バラバラにされようが個々に動き続けますよ」

「じゃあどう倒せと!?」


 心臓とかもうないし頭潰してもダメならどうすりゃ停止するんだ。

 まさか粉微塵になるまで粉砕しろとでも?


「まあ一撃は入れられたようですし、一度仕切り直しましょうか」

「何を……てぇッ!?」


 そう神父様が言うや否や、結界から躍り出てきたと思ったらスケルトンの頭部を拳で殴りつけた。

 瞬間、大砲で発射されたみたいに吹っ飛びもんどりうちながら西の森の方へと転がっていくスケルトン。

 ……待って。俺こんな人間投石器相手に稽古してたの!?


「少し魔力を込めておきましたからしばらくは動かないでしょう」


 そしてこっちの混乱も気にせず落ちていたスケルトンの腕を拾って西の森へとポーンと投げる神父様。

 ヤベエよ。この人絶対そこらの兵士より強いってレベルじゃねえよ。

 もう神父の皮をかぶった魔王だよ。


「さてレオン。課題です。今の貴方でどうすれば効率よくスケルトンの戦闘能力を奪えるか」

「今の俺で?」


 それはつまり修行して倒せという意味ではなく現状のまま工夫をして倒せということだろうか。

 まったく方法が浮かばないんだが。


「ヴィオラに助言を求めてもいいですが直接の助力は禁止です。よーく考えなさい。魔物の中には未だに対処法が確立していないものもいますし、考えることは大事です」


 そういって村の中へと戻っていく神父様。

 何となくスケルトンが転がって行った方を見るが、しばらく動かないというのは本当らしく再び現れる様子はない。

 さて。一体どうしたものか。

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異世界召喚が多すぎて女神様がぶちギレました
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