移動開始
アルフ爺さんを追って辿り着いたのは、酒場の裏口だった。
そこから外に出てもしかすればと思ったのだが、生憎と案の定そこは水につかったせまい道。
ただ表よりも道との間の段差が高く、フーハンもそう簡単に登ってこられそういはないが、だから何だという話で。
「何処を見とる。こっちだこっち」
「はい?」
アルフ爺さんの声がしたのでふりかえれば、その体が宙に浮いていた。
一瞬この爺さん魔法使えたのかと思ったが、暗い中目をこらしてみれば、単に梯子を登っているだけだった。
というか説明なしにガンガン行くなこの爺。
いや大体何がやりたいのかは分かったけど。
「……どうする?」
「手伝えるならと言ったのは君だろう。それにいつまでもここにいるわけにもいかない」
「そりゃそうだ」
カムナに話をふれば、こっちはこっちでもう覚悟を決めてるみたいだった。
まあ屋根の上の方が万が一の時は家の中より安全そうだしなあ。
そう思いながら梯子を登ってみたが、降り立った屋根は俺が予想していたよりも歩きやすかった。
所違えばというか、俺が知ってる屋根瓦は丸みを帯びた凸型なのだが、ここの屋根は緩やかに波をうつように凸凹している。
おかげで凹んでいる部分に足を置いてしまえば、傾斜のついた屋根の上でも踏ん張りやすい。
その代わり気をつけないと足引っかけて転びそうだけれども。
「来たか。よし行くぞ」
「いや。説明しろよ爺さん」
俺が協力するのは話を聞いてからだっつってんのに、淡々とことを進めやがるこの爺。
しかしその文句を聞いても返事は「時間がないから話しながらじゃ」ときた。
またこけて流されないかなこの爺。
「酒場の店主から屋根の修理を依頼されておってな。それ自体は終わって報酬もたんまり貰いそのまま祝い酒としゃれこんでおったんだが」
「ああ、それで梯子があそこに」
というか仕事終わったのに片付けずに酒飲んでたのかよ。
いいのかそれ。
「屋根に上っちまえば話は早い。このまま屋根伝いに神殿まで一気に行っちまおうってわけじゃ」
「行っちまおうって。そんな都合よくいくか? 道幅的に飛び越すの無理なところとかあるだろ」
さっき夕飯食ってる時にカムナが言っていたように、この街は急な勾配に加えて本通りすら馬車が入れないくらい道幅が狭い。
とはいえ比較的だ。軽く見て回った感じでは、走って飛んだ程度ではどうにもならないところもあったが。
「安心しろ。いざという時の逃走経路を確保するため街の構造は頭に叩き込んでおる。神殿までのルートもバッチリよ」
「いや逃走経路て」
マジで何があって何から逃げてんだこの爺さん。
こうして話している間にも、家と家のちょっとした間をジャンプして移動しているが、年齢に似合わない軽快さだ。
何をどうして川を流されることになった。
「途中まではそれでいいとして、肝心の神殿まではどうするんだい? あの周りには家なんてないだろう」
「ああ」
カムナの言葉にそういえばと声が出る。
それこそ道幅なんぞ些細な問題なくらいの距離があるだろう。
「神殿から水を無造作に垂れ流しているわけじゃないのでな。ちゃんと最寄りの道までは水路になっておって神殿の周りは水浸しにはなっておらんはずじゃ」
「ああ。なるほど。それなら……」
「にもかかわらず未だに水が止まらんという事は、フーハンどもは水の中から出てきて神殿内部を制圧しているということじゃろうが」
「ダメじゃねえか」
希望持たせといて一瞬で粉砕しやがった。
いやでも少し考えれば確かにそうだよ。神殿の中が無事ならさっさと管理してる人たちが水止めてるよ。
「だから坊主に声をかけたんじゃ。流石にわし一人で、どれくらいいるかも分からんフーハンを蹴散らして、神殿の奥に踏み込むのは危険じゃからな」
「ええ……。それ俺一人が居たくらいで何とかなるのか」
「坊主は腕の割に本当に実戦経験が少ないようだなぁ。お互いの死角を補うだけでも生存率は段違いじゃぞ」
「そんなもんなのか」
確かに俺は基本的に一人で魔物にけしかけられてたから、連携して戦ったことはほぼないが。
というか爺さん戦えるのか。いや足取りからしてその手の心得があるのは分かるが、爺なのに大丈夫か。
「なに。引退した爺と見習い坊主。二人足せば一人前程度にはなるじゃろう」
「要するにダメだって事じゃねえか」
もうここまで来たらやめるとは言わないが、不安だ。
いやでも水の中から出てきてるなら、カムナの音楽魔法で一網打尽にできるか?
ともあれ現場を見てみないと対策も考えられないだろう。
そう考えなおしながら、軽快に屋根を跳び移っていくアルフ爺さんの後を追った。




