剣を手に入れた
スライムと一緒に森を燃やしかけたやらかしについて、神父様からは教会の掃除という罰だけだったわけだが、母さんからは当然長々とお小言をもらったし一発げんこつも貰った。
意外だったのは父さんの方で「まあそういう年ごろだよなあ」と一定の理解を示した上に「魔物と戦いたいならこれくらいは持っていけ」となんか剣までくれた。
もらった瞬間「マジで!? いやっほう!」とはしゃいでしまったが、しばらくして冷静になってから気付く。
何で片田舎の村人な俺の家にこんな明らかに使い込まれてる剣が?
「それはピローソードですね。貴人が枕元などに隠しておく護身用の剣ですよ」
「何でそんなもんがうちにあんの!?」
疑問に思って神父様に聞いてみたら余計に意味が分からなくなった。
というか俺の腕くらいの長さあるけど枕元に隠れるの?
貴人の枕ってどんだけでかいの?
「何でって。貴方の曾お爺さんは元騎士ですよ」
「マジで!?」
曾爺さんというのは二年ほど前に死んだ父方の爺ちゃんだろうけど、あの人普通に畑耕したり家の雨漏り直したりしてたぞ。
何で騎士様がこんな田舎で質素にも程がある生活してんだ。
「貴族の家系とは言え次男坊だったので家は継がなかったんですよ。だからといって騎士を辞めてこんな田舎に移り住んでくるあたりは確かに変わり者でしたが」
「いやそれ神父様もじゃ」
前も言ったがこの神父様はそこらの兵士より剣術の腕がある上に、由緒正しい魔法使いの家系らしいヴィオラが弟子入りにくるくらいの魔法使いでもある。
神官ということで身元もハッキリしてるので身一つでどっかの国に仕官しに行っても間違いなく諸手を挙げて歓迎される。
「というか見てきたように言ってるけど神父様何歳ですか?」
「忘れました」
そういって微笑む神父様は黒髪に黒い肌という他では見ない異国めいた容姿な上に、中性的な顔立ちなのでマジで年齢がよく分からない。
というか物心ついたときからまったく老けた様子がないので俺の中で不老不死説が提唱されている。
「しかし貴方がそれを渡されたというのなら次からは稽古もなるべくその剣を使いましょうか。自分の剣は早く手に馴染ませた方がいいでしょう」
「せんせーい。今の俺がこの剣使ったらスライム倒せますか?」
「無理です」
少し期待を込めて聞いてみたらバッサリ斬られた。
流石神父様そういうところは容赦ないぜ。
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「まあアンタってのど元過ぎたらまた熱さ忘れて突撃するでしょうし。暴走するなら予想できる範囲でしてもらった方がよかったんでしょう」
一人で剣の素振りをしていたところをヴィオラに見つかり、その剣は何だと聞かれて説明したらそんな言葉が返ってきた。
つまり父さんのアレは俺の想いを理解したのもあるが、どうせ暴走するから武器持たせとけという諦めもあったのか。
流石父さんだ俺のことをよく分かっている。
「つっても魔物なんて早々会えるもんじゃないしなあ。スライムだってこの間初めて見たんだし」
「国が定期的に間引きしてるもの。それでもこの村は少なすぎるから神父様が裏で何かしてるんじゃない?」
「マジかよ」
ちなみにスライムについては村の有志により討伐隊が組まれてあっさりと退治された。
新兵数人がかりで倒せるスライムを討伐できる村人とは一体と思ったが、この村の人間の一部は神父様から継続して剣術習っているのでそこらの新兵より強いらしい。
俺は自分を普通の村人だと思っていたが、もしかしてこの村かなりおかしいのでは。
「貴方が才能があるというのは本当ですよ」
「ほあぁっ!?」
急に背後から声が聞こえて飛び上がりながら振り向けば、いつの間にか神父様が立っていた。
というか俺の正面に居たはずのヴィオラまで驚いて目を丸くしている。
どうやって現れた。
「でもスライムも倒せないんですよね?」
「それは単なる経験不足ですね。曾お爺さんもそうでしたが、貴方は実戦で伸びるタイプでしょう」
そう言われてもスライムと戦って成長した気が全然しないわけだが。
というか実戦と言われても。
「魔物なんてそのへんにはいないし」
「西の森にまた魔物が現れたそうですよ。スライムより危険なのですが、退治は少し待つよう指示しています」
何で計ったように魔物が現れてるんですか。
まさか普段この村の周囲に魔物が少ないのって、本当に神父様が何かやってるからなのか。
「まあ魔物というには少し語弊があるのですが、ああいう相手にも免疫をつけておいた方がいいでしょう」
「嫌な予感しかしない!?」
そうして半ば神父様に引きずられるようにして西の森へ。
一体何が出たっていうんだ。
イメージはライフコッドの村