神父様の評判
「吟遊詩人って儲かるんだな」
「なんだい。いきなり」
朝と夕方に酔っぱらいが流されるけったいな街にて。
街についたからには仕事だと適当な広場で歌い始めたカムナ。それに付き合ってまた剣舞をやらされたわけだが、これが何かえらいうけがいい。
広場に転がった硬貨を俺が拾い集め、拾ったそれをカムナが布で拭いてしまっているのだが、相変わらず百枚以上はありそうだ。
カムナの歌はともかく何で俺の素人剣舞を見せて「ひっこんでろクソガキ」とならないのかね。
みんな娯楽に飢えてるのか。
「飢えてるだろうね。何せ私たちのような吟遊詩人や旅芸人の類は、百年前と比べて一割以下に減ったとされているからね」
「うぇ!? そんなに?」
予想以上に少なくて思わず変な声が出た。
というか回収した中に銀貨が一枚あるし。
銀貨って銅貨十枚分だぞ。こんなもん投げてくるってどんだけ暇だったんだ。
「何でそんな激減してんだよ」
「魔物だよ。警戒すればある程度何とかなる獣や野盗と違って、奴らどこでも襲ってくるからね。いざというとき国からの庇護を受けられない私たちなんて格好の獲物さ」
「あー」
そういや魔王なんてもんが出てくる前は、魔物なんて滅多に現れなくてお伽噺同然の扱いだったんだっけか。
その現れ始めた魔物相手に第一線で戦い続けたのがうちの曾爺ちゃんらしいが、やっぱりノウハウがないから大変だったのかね。
「護衛を雇うとかしなかったのか」
「わりに合わないねえ。それに少年には実感が薄いみたいだけど、私たち黒の民への偏見というのは根深いんだよ。そうでなくても国から軽く扱われるからね。足元を見てふっかけてくるやからも多い」
「そんなにかよ」
自嘲するように言うカムナだけど、実際その黒い人たちが差別されてるとかいうのが俺には全く意味が分からん。
神父様はみんなに尊敬されてたしな。
というかあの人を軽く扱ったりしたらどんな報復がくるやら。
「そういう意味で神父に感謝してる人間も多いのさ。私たちの扱いがマシになったのは、間違いなくあの人のおかげだからね」
「……カムナもか?」
「おや? 私かい?」
神父様の話題になったので、以前から気になっていたことを聞いてみる。
するとカムナは硬貨を拭いていた手を止め、人差し指を顔に当てるとしばらく考えるような素振りを見せる。
「……複雑だね。間違いなく尊敬にたる人物だとは思うのだけど、嫉妬してる部分もあるかな」
「ええ……何でだよ」
嫌悪とかならまだしも嫉妬て。
何。安泰なのが羨ましいとか?
「私の師匠が個人的に面識があったらしくてね。いい年こいて恋する乙女みたいな顔で神父のことを話すんだよ。それも毎日」
「ああ。そりゃうざいわ」
それ同じ話が何度もループするやつだろ。
しかもいい年こいてという事は婆さんか。
きつそうだな毎日婆さんの乙女の顔見せられるの。
「だから気になるのさ。我が師を魅了した人間が一体どんな人間なのか。噂によると聖職者のくせに顔はいいらしいけどね」
「あー確かに整ってはいたけど」
顔がいい前に中性的過ぎて男か女か分かんねえ困惑が先に来るんだよな神父様。
というか神父様がいきなり「実は女です」とか言い出しても俺は納得するぞ。
教会って女だと一定以上の位階に上がれないから、性別偽ってる可能性もマジでありそうなのがまた。
「ああ……それは師匠が好みそうなタイプだね」
「何で。中性的なのが好きだったのかお師匠さん」
「美少年が好きだったんだよ」
「……はは」
何も言えなくて笑うしかなかった。
弟子が辟易するくらい美少年が好きな婆さん。
歳考えろや。いや別に手を出すわけでもないから個人の自由ではあるけれども。
「きっと少年も師匠が見れば気に入っただろうね」
「嘘だろ!?」
俺そんな美少年的な、なよなよした要素ないだろ。
体も結構がっちりしてるし、自分で言うのもなんだけど男前とかそういう方向だろ。
そう抗議したら「少年は顔だけ見れば貴公子って感じだよ。顔だけ見れば」と言われた。
何で顔だけの部分強調しやがった。
今日も農家の息子は元気です。
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ちょっとメタな解説。
金貨、銀貨、銅貨の相対的な価値は現実的に考えればかなり細かい比率になりますが、もう面倒くさいので1:10:100だと思っとけ。
実際には金貨と一言に言っても大きさやら質によって価値が結構違います。
現代の価値に換算したらとかも物価との兼ね合いでさらに面倒なのでもう銅貨一枚が百円くらいだと思っとけ。




