帰り道を考えた
「さて。契約成立というわけだが、肝心のピザン王国までの旅路が問題だ。まず先ほど言ったように東の山を越えるのは不可能だが」
「南は戦争やってて、北は遠回りになるんだったか」
店員が持ってきた白身魚のパイをつまみながら、今後のことについて吟遊詩人――カムナと話し合う。
うーん。パイならハズレはないかと思ったが、えらいしょっぱいなこの白身魚。
シュバーンの飯はやたら味が薄かったのに、やっぱ味付けにもお国柄とかあるのか。
「南もおススメはできないね。戦に巻き込まれる可能性以上に、治安が悪化しているのが問題だ。女子供だけの旅なんて襲ってくれと言っているようなものさ」
「あー」
誰が子供だと言いたいところだが、実際見た目というのは大事だろう。
シュバーンへのおつかいの途中で馬車に乗せてくれた商人だって、ロイスさんを野盗避けにするために目立つ位置に座らせていた。
俺とカムナだけでは盗賊にだってなめられるに違いない。
「大体私は南から逃げてこの街に来たんだ。わざわざ戻りたくはないね」
「え? そんな慌てて逃げるくらい、いきなり始まったのか戦?」
「ああ。王が突然亡くなってね。第一王位継承者の王子はまだ三つにもならない幼子だが、母の王妃が女だてらに臣下を鼓舞し自ら政務を執り行いなんとか王宮は機能を維持してる。
それが面白くない、王子の後見人になって傀儡にしてやろうと企んでた連中が、余命幾許もない傍系の大公を神輿に担ぎ出して、王位を簒奪しようと企てたわけさ」
「ええ……。んな死にぞこない担ぎ出して死んだ後どうすんだ」
「さあ。王妃を排除して改めて王子の後見人にでもなるんじゃないかい」
そうつまらなそうに言って、固そうなパンをスープにひたして口に運ぶカムナ。
実際吟遊詩人故に話のネタとして知っているだけで、それほど興味はないのかもしれない。
「まあこの手のネタは意外と街の人間は食いつかないね。人気があるのは醜聞でも色恋沙汰か、痛快な勧善懲悪の英雄譚だ」
「ああ。それで」
先ほど広場で歌ったのは白騎士の物語だったわけだ。
というか百年近く経ってるのにまだ人気あるのか。凄いな白騎士。
「というわけで南もなしだ。ゼザ山脈を撫でるように北西に進んで、ジレント共和国に出るのがいいだろう」
「ジレント共和国?」
知らない国の名前が出て来た。
共和国という事は共和制の国なのか。
いや共和制がどんなかイマイチよく知らないが。
「共和国だなんて名乗ってるが、議会の議員の殆どは魔法ギルドの党員が占めている。実質魔法ギルドが支配してる国さ。普通の国なら百人居るかも怪しい魔術師を大量に抱えてるわけだから、わざわざ攻めようなんてもの好きもいない。ある意味この大陸で一番平和な国だよ」
「何それ恐い」
それあれだろ。
下手に攻めたら魔術師の大軍が出迎えて矢の代わりに火だの氷だのが雨みたいに降ってきて、地割れだの嵐だのといった天変地異が次々襲いかかってくるんだろ。
そりゃ誰も攻めんわ。
「魔法ギルドのねえ……あっ」
魔法ギルドと聞いて思い出した。
神父様に魔法ギルドの党首に伝言頼まれてたじゃん。
しかもかなり重要そうなのを。
ならジレント共和国とやらに行くのは丁度いいのか。
神父の名前が党首にさえ伝われば話はすぐ済むって神父様も言ってたし。
「じゃあとりあえずそのジレント共和国目指すのでいいのか」
「ああ。とはいえ旅の準備も必要だろう。お小遣いをあげるから色々揃えておいで少年」
「おまえわざと言ってんだろそれ」
とことん子ども扱いしてくんのは何の嫌がらせだ。
とはいえ金出してくれんのは有難いし、後で何とかして返さないとな。
そうこれからの旅にちょっとわくわくしてる俺は、この時は知らなかった。
神父様がさも簡単そうに言った「魔法ギルドの党首に話を伝える」だけのことが、それこそ王に話を伝えるくらい難易度が高いことを。




