落ちた
「此度は大変ご迷惑をおかけしました」
「い、いえ」
一通り説教が終わったのか、先ほどまでのつり上がった目が嘘のように穏やかな顔でこちらに謝罪してくる王妃様。
ヴィオラも王妃様によって元のサイズに戻してもらえたのだが、先ほどまでの勢いが忘れられないのか少しひいてる。
ちなみに説教された王様はいじけて草に紛れるように縮こまり体育座りしている。
ガキかよ。
妖精で人間基準でまともな感性してるの王妃様しかいないのか。
それ逆に王妃様がストレスたまるやつじゃないのか。
「ねえねえ。この子あの子のお爺ちゃんなんだよ」
「どの子ですか」
俺の頭に乗りながら言う金髪の妖精の言葉へ、王妃様の常識的過ぎるつっこみ。
やっぱりこの王妃様常識が人間寄りすぎないか。
妖精の中でちゃんとやっていけるのか。
「ああ。なるほど。そういうことですか」
前言撤回。
何か納得してる。
やはり妖精はぶっ飛んでるのか。
「ならば私からは多くを語ることはできませんね。他の子たちとは違って、私の言葉は予言となり得るものなので」
「はあ」
そう少し申し訳なさそうに言う王妃様だが、それ逆に他の妖精の言葉は予言にならないってことか。
何で? もしかして思い込みや嘘情報も混じってるのか。
俺のことを「あの子のお爺ちゃん」という割に「俺の孫は?」と聞いたら「知らない」と答えてたし。
「しかし此度のお詫びはしないといけません。今後いかなる土地においても、私たち妖精は貴方達を一度だけお助けします。そのことを忘れないでください」
「えーと、分かりました」
それ実質予言ですよね。
俺の今後の人生で一回だけ妖精に助けてもらわないとヤバいことが起きるやつですよね。
でも詳細聞いても教えてくれないんだろうなあ。
「レオン。そろそろ帰るわよ。お祭りも途中だったんだし」
「そうだった」
そういやお祭りやってるんだったわ。
主役二人が居なくなったんで他の村人も困惑してるだろうしなあ。
早く帰らないと。
「じゃあ俺たちはこれで」
「ええ。貴方達の今後に幸多からんことを」
王妃様に挨拶をすませ、まずはヴィオラが現世へ繋がる草の輪を潜っていく。
そしてヴィオラが通り切ったのを確認し、俺も這いつくばって草の輪を潜り始めたのだが……。
「馬鹿め! 油断したな人間!」
「は?」
突然尻の方から王様が何か叫ぶのが聞こえたと思ったら「ブチリ」と何かがちぎれる音がして、体が地面を無視したように落下し始めた。
「え? え? 何!?」
「あなた! なんということを!?」
「ぎゃああ!? 待って王妃!? それは流石に死ぬ!? 死んじゃう!?」
とりあえず王様が何かしたらしいのは分かったので、もうそのまま殺されてくれないだろうか。
いやむしろトドメをさしておくべきだったのかあのガキ。
「レオン!?」
「あー!? 落ちる!? 何これ何処に落ちてんの!?」
俺の異常に気付いたヴィオラが手を伸ばしてくるが間に合わない。
必死に伸ばした腕は空を切り、俺は何処とも知れぬ場所へと落ち始めた。
「ああ。でもこれも必然なのでしょうね。大丈夫。あのお方が助けてくれるでしょう」
闇に包まれ何も見えなくなる寸前、そう王妃様が言う声が聞こえた気がした。
・
・
・
落ちる。
落ちる。
落ちる。
何も見えない闇の中へと落ちていく。
上も下も分からない。
自分が落ちているのか浮いているのかすら分からなくなる。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も居ない。
どこまでも続く闇は孤独だった。
いつまでも続く孤独は闇と己の境界を曖昧にした。
俺は「何処」に居る?
「俺」は何処に居る?
そんなことすら分からなくなりかけた時に。
何かが俺を見つめていることに気付いた。




