決闘
さて。
剣術と言ってもその種類は様々だが、実のところ俺は神父様から型らしい型というのは教わってない。
いや斬ったり突いたりする技術は教わったのだがそこからはほぼ実戦形式というか「隙を見つけて斬れば終わるでしょう」という天才的な一言で片づけられた。
天才的過ぎて凡人の俺にはさっぱり実践できそうにないのはどうすれば。
で、ついでに言われたのが「やむを得ず人間相手に殺すつもりなら突きでいきなさい」ということだ。
何でかというと突きの方が内臓などの人体の奥にある重要な器官を傷つけられる可能性が高いから。
以前ヴィオラが「ゴーレムタイプ相手に点の攻撃は意味がない」と言っていたが、急所がある人間や動物は点の攻撃も脅威となる。
逆に言えば突きで胴体狙ってくるやつは、こちらを殺すつもりだから気をつけろとも言われたのだが。
「ハアッ!」
妖精の王様がこっちを殺す気満々な件。
こちらに対して半身に立ち、細身の剣を持った右手を前に出す姿勢。
こちらから見て狙える面積が減る上に、前で揺れる剣が邪魔で狙いにくいという中々にやりづらい構えだ。
そこから繰り出される突きは得物の剣が細身で軽いせいか片手だというのに速い。
流石妖精でも王様だ。実に理にかなった戦い方だと感心する。
いや感心する余裕とかおまえにあるのかと言われそうだが……。
「この! 避けるな!」
「無理言うな!?」
王様が文句言う程度には案外と避けられてる。
アレ? もしかして王様弱い?
いやでもスケルトンとかよりは間違いなく速いし、下手すりゃユニコーンの突きと同等の速さかもしれない。
でも結構余裕をもって避けられるというか、三十以上の突きを貰ったが少なくとも今の所一度も体には触れていない。
我ながら成長しないなと思っていたが、もしかして俺自分で思ってるより強くなってるのか?
いや相手が一応人型だから、ユニコーンと違って攻撃の予備動作が読みやすいというのもあるんだろうけど。
「やる気あるのか貴様ぁ!?」
「そう言われても!?」
しかしここに来て問題が発生した。
……決闘ってどうやったら終わりなんだ?
ぶった切るのはヤバいよな。下手すりゃ死ぬ。
王様がさっきから明らかに俺の喉やら心臓やら狙ってるからやっちゃってもいいのではとも思うが、そこまでしたら流石に傍観してる妖精の一部も敵対するかもしれない。
……するよな? そこまでノリに従って生きてないよな?
だったら剣じゃなくて拳や足で鎮圧すればとも思ったのだが、蹴ったり殴ったりするのはルール違反というか、決闘の作法としてダメなのでは?
いや決闘に作法とかあるのか知らないが、物語なら剣で挑まれたら剣で応える的なもんだし。
「レオン! そんなつまようじみたいな剣へし折っちゃいなさい!」
「花嫁!?」
「ええ……」
ヴィオラの言葉にショック受けてる王様。
本当にそんなメンタルでよく誘拐しようと思ったな。
しかしへし折れか。
できるか? 折れなくても王様が腕傷めて戦闘続行できなくなるかもしれないし。
「ほっと」
「ガッ!? き、貴様ァッ!」
王様が突き出した剣をこちらへ届く前に横から弾く。
すると王様はそんな返し方をされると思っていなかったのか大きく体勢を崩し、なけなしの冷静さも崩れたのか不自然な態勢のまま突きを繰り返す。
「よっ」
「なあっ!?」
こうなったら後は作業も同然だ。
力が乗らない突きなんて余程油断しなければ当たらない。
しかも冷静さを失った王様は突きを出すことに固執し、徐々に前のめりになっている。
後ろから誰か押せばそのまま倒れるのでは。
「そら!」
「何ぃ!?」
そうして六度ほど王様の突きを弾いたところで、細身の剣はその手から離れてクルクルと宙を舞った。
慌てて剣を取りに行こうとする王様だが、そんなことさせるわけがない。
「ストップ。これで俺の勝ちだ……ですよね?」
「グッ……」
王様の眼前に剣を突き付け勝利を宣言する。
よかった。なんとかなった。
魔法みたいなの使ってたし、剣術はそれほど得意ではなかったのだろうか。
そう怒りのせいか震えてる王様を見ながら考えていたのだが……。
「認めん」
「はい?」
「認めんぞ! この私が敗北したなどと認められるかあ!」
「はあ!?」
王様が手を掲げたと思ったら、四方の地面から蔦が生えて来て獲物を狙う蛇のように周囲を回り始める。
こっちが遠慮して剣しか使わなかったったいうのに、よりによって魔法使うか。
「この場合認めない方がみっともないんじゃ」
「よし。死ね」
思ったことを口に出したら王様が笑顔で死刑宣告してきた。
わあ。どうしようこれ。
蔦が来る前に王様直接狙えばなんとかなるか?
「止まりなさい!」
そんなことを考えていたら、突然頭の中まで響くような不思議な声が辺りに響き渡り、その命令通りに蔦の動きがビタリと止まった。
「お、王妃……」
「え?」
王様が目を見開いてそう呟いたので視線を追えば、そこには今の王様と同じく人間サイズの金髪の妖精。
俺が最初に会ったおっとりとしたあの妖精ではなく、見るからに気の強そうなつり目の少女が空からこちらを見下ろしていた。
「何をしているのですか貴方は!」
「ひぃ!? だ、だって……」
「だってじゃありません!」
そして舞い降りて来た王妃様とやらに叱られ、今までの態度が嘘のように縮こまり言い訳を始める王様。
なんか見覚えのある光景というか、この王妃様ヴィオラに少し似てるような。
もしかして王様がヴィオラさらって花嫁にしようとしたのってそういう。
「あの村には手出し禁止と契約を結んでいたでしょう! よりによってあのお方の居ない隙を狙うなんて、いざとなれば私は貴方の首を差し出しますよ!」
「そ、そんな! 見捨てないで!」
うん。完全に尻にしかれてるわコレ。
というかあのお方ってもしかして神父様のことか。
妖精の王妃様にあのお方と呼ばれ、伴侶の首を差し出す覚悟をさせる神父とは一体。
「昔妖精たちが西の森に引っ越して来た時に、先生が色々契約させたらしいわよ」
「色々とは」
それ絶対普通の人間相手なら結ばないようなものまで含まれてるだろ。
ともあれ妖精の王様の暴走は王妃様によって防がれ、ようやくこの騒動も終わりそうだ。
ヴィオラにボコられるふりをするだけで終わるはずの祭りが、とんでもない騒ぎになったもんだ。