決闘が始まった
「よーし。準備はいいなおまえら」
「がってんだー」
「任せとけー」
俺の声にそれぞれ返事する悪ガキもとい妖精たち。
みんなそれぞれ手に筒のようなモノを構えて草の影に待機中だ。
いや少し話して分かったけど、こいつら本当に悪ガキのそれだ。
お願いという形ではさっぱり話が進まなかったのに「王様驚かせてやろうぜ!」という方向に持っていったらあっさり乗ってきた。
本当に人望とか大丈夫か妖精の王様。
いやいきなりヴィオラさらったわけだし、王様も同じようなノリなのか。
それ王国として機能してるの?
あれか。一番強いから王様とかその程度の扱いなのか。
「よし。じゃあいちにのさんで行くぞ。いち……」
「どっかーん!」
「かくごー!」
「しねー」
「ですよねー」
俺の合図も待たずにそれぞれのタイミングで勝手に出ていく妖精たち。
うん。もういいや。
というか一人「死ね」とか言ってるんだが本当に王様大丈夫か。
次々と妖精たちが持っていた筒から放たれる光の帯。
それらが王様たちの近くまで飛んでいくと、一斉に花開くように閃光と破裂音が鳴り響いた。
「な、なんだ。敵襲か!?」
突然の光と音に驚いて立ち上がる王様。
まあ要は今回の結婚式のお祝い用に用意していたらしい花火なのだが、間近で見たらそりゃ驚くだろう。
一番話の通じる金髪の妖精によると、一応火傷などはしないように調整してるらしいが。
※危険なので良い子も悪い子もマネしないでください。
「なっ!? うわあ!」
「やった命中だ!」
「ざまあみろ!」
「よっし。今だ!」
そうこうしてるうちに、妖精の一人が放った花火が王様の至近距離で炸裂し、驚いて飛ぶことも忘れたのか落ちていく王様。
その隙にヴィオラを助けるために走り出すが、やはり一人過激な発言してる妖精が居るのは気のせいか。
何やりやがった王様。
しかしヴィオラが居るのは高く茎の伸びた花の上。
羽も生えてない小人状態の俺では届かない。
なら元に戻ればいい。走りながら左手にはめた指輪を手探りに指先でつまみ、一気に引き抜いた。
「うをっ!?」
するとつけた時とは反対に、集束するように景色が縮んでいき、頭の上にあった草の壁が膝の下くらいの見下ろす位置まで低くなる。
「ヴィオラ!」
「レオン!? アンタ一人で来たの!?」
「仕方ないだろ俺しか通れなかったんだから!」
俺を見るなり咎めるようなことを言って来るヴィオラに反論しながら、その小さな体を慎重に包み込むように両手で抱え上げ、すぐさま反転してその場から逃げる。
後は出たとこ勝負だが仕方ない。
俺にこんな短時間で綿密な計画とか立てられるか。
「というかおまえも元に戻れないのか? なんか指輪とかはめられたんじゃないのか?」
「それなら自分で外してるわよ! 呪いをかけられたからあのガキより強い魔力を持つ人に強引に解呪してもらうしかないわ!」
ガキて。
いやよりによって呪いのせいで縮んだらしいし、これヴィオラマジで怒ってるな。
魔法使えなくても隙があれば素手で殴りかかっていたのでは。
しかし仮にも妖精の王様より強い魔力を持つ人間ねえ。
「神父様ならいけるのか」
「余裕よ。あのガキとは比べ物にならないわ」
そう言って俺の手の中で「ふふん」と悪そうな笑みを浮かべるヴィオラ。
おまえ本当に神父様好きだな。
「ならさっさとォッ!?」
「きゃあ!?」
逃げようと言いかけたところで、突然足に何かが絡みつき前のめりに倒れ込む。
もちろんそのまま倒れたらヴィオラが潰れてしまうので咄嗟に両手を掲げて衝突は避けたが、おかげで受け身はとれず体を地面で強か打ち付けた。
何だ。草の輪っかの悪戯でもあったのか。
「そこまでだ人間」
「げっ」
声のした方へ振り向けば、遥か上方からこちらを見下ろした妖精の王が剣先をこちらに向けていた。
その剣に指揮されるように、植物の蔦が伸びてこちらを囲んでいる。
よく見れば倒れる原因になった足に絡みついたのも蔦。
なんだこれ。魔法の一種か。
でも呪文とか唱えた気配なかったぞ。
いや妖精だし、もしかして呪文無しでも魔法と似たようなことができるのか。
「無礼打ちにしてやりたいところだが、我が花嫁を大人しく返すのならば見逃してやろう。とくと去ね」
「……ふざけんなよ」
強引にさらって呪いまでかけておいて何が「我が花嫁」だ。
妖精のやることだからと少し呑気に見ていたが、こいつは違う。他の妖精と違って人間並みの知性を持っている。
にもかかわらずこんなことをしでかしたってことは、人間基準で言えば性根が腐ってるんだろう。
そう思うとなんだか腹が立ってきた。
「れ、レオン?」
不安そうにこちらを見てくるヴィオラをそっと地面に下ろすと、剣を抜いて足に絡みついていた蔦を切り落とす。
「ほう抗うか。ならば死ね!」
それを宣戦布告と見做したのか、王様が剣を振ると周りを囲んでいた蔦が一斉にこちらへと伸びてくる。
さて。二、三本くらいまでなら何とかなりそうだが、残りはどうするか。
「卑怯者!」
そう半ば自棄になって考えていたのだが、突然ヴィオラの声が響いたかと思えば、こちらへ今にも襲いかかろうとしていた蔦の動きがビタッと止まった。
「魔術も使えない子供相手に安全圏から得意になってみっともない! その手に持った剣は飾りなの!?」
振り返ればヴィオラが肩を怒らせて、王様に非難をあびせていた。
いや。おまえ。そこは俺が囮になってる間に逃げるとこだろ。
「ひ、卑怯者……」
「ええ……」
そしてヴィオラの一言が効いたらしく項垂れる王様。
マジかよ。この程度の罵倒で凹むメンタルでよく誘拐とかできたな。
もしかしてヴィオラ今まで反抗的な態度は控えてたのか。あんな怒気を隠そうともしない顔しといて。
「ふ、ふふ。いいだろう。我が花嫁に免じて剣で決着をつけよう!」
「いや……」
剣で決着も何もサイズ差が。
そう言おうと思ったら王様の体が光り輝き、その眩しさに一瞬目をそらす。そして再び目を向けた先には、俺とほぼ同じ身長の少年が居た。
なるほど流石王様。人間サイズにもなれるのかって、感心してる場合でもなく。
「どうすんだよヴィオラ!? 負けたらどうすんだ!?」
「大丈夫よ」
「何が!?」
何をもって大丈夫と言ってるのか。
もしかしてこの王様剣術は素人なのか。
いや構えからして心得はあるみたいだし。
「我が名はオールズ! 妖精たちの王である! 我が前で名乗る名誉をくれてやろう人間!」
「えー俺はレオン……」
ただの農民の息子で……と言おうとしたが、それだとさらに侮られそうだし気に食わない。
「……我が名はレオンハルト! 誇り高き騎士の血をひく者!」
なのでなめられないように盛る。
大丈夫だ。嘘は言ってない。
そうして他の妖精たちが「やれー」だの「ころせー」だのメルヘンの欠片もない煽りをする中で、妖精の王様との決闘が始まった。




