妖精の王様が後ろから刺されそう
妖精の国というくらいだから人間の世界とは違って長閑で平和なんだろうなあ。
そう呑気に思ってた数分前の俺を殴りたい。
「し、死ぬかと思った」
「楽しかったー」
俺を死ぬ目にあわせておきながら、笑顔で周りを飛び回ってる妖精さん。
え、妖精ってこんなやつばっかりなの。
いやそりゃ時には無邪気に命にかかわるレベルの悪戯してくるのが妖精だけれども。
「あの光にぶつかって幾つか吸っちゃったし。吸い過ぎたら死ぬって結局何なんだよアレ」
「マナだよ」
「マナ?」
マナというとアレか。
神父様とヴィオラが魔法について話してる時にたまに出て来た単語のような。
魔力的な何かのはずだが何で光って地面から湧き出てんだ。
ここが妖精の国だからか。
「じゃあ吸い過ぎたら死ぬっていうのは?」
「あ、あそこに王様いるよ」
「わざとやってんのかおまえ……って王様?」
もしかして重要なことは言わないようにしているのではと疑ったものの、王様と言われ妖精さんの視線を追いかける。
その先には高く茎の伸びたデージーのような花。
周りから浮いた赤い舞台衣装のような派手な装いの、見た目は俺とそう変わらない歳の少年。
その少年がカップ代わりらしい鈴のような形の花に口をつけながら、大きなクッションにでも座るように花の上に腰かけていた。
肝心なのはその隣。
白い衣装を纏った金髪の少女が、嫌そうな顔を隠そうともせず同じ花の上に座っている。
というかヴィオラ。
どう見てもヴィオラ。
どうやらヴィオラも妖精さんサイズにされてしまったらしい。
というか殺気隠そうともせず駄々漏れなんだが、隣で得意げな顔をしている王様とやらは正気か。
カップ持ってない方の手でヴィオラの肩に手を回してるけど、その場にフォークかナイフがあったら間違いなくぶっ刺してる顔だぞアレは。
逆に言えばそこまで殺す気満々なのにヴィオラが動いてない。
妖精サイズにされているのといい、魔法を封じられてるとかだろうか。
だとすればあの妖精の王はヴィオラの魔法を封じる程度の力はあるということで。
あれ? 俺に勝ち目なくない?
「はじまるよー」
「もうすぐ式がはじまるよー」
「うを!?」
どうしたものかと考えていたら、いつの間にか俺たちの周りに色とりどりな衣装を纏った何人かの妖精たちが集まっており、歌うように話しかけて来た。
「誰が神官の役をするの?」
「それは私。私が神官のように二人の誓いを聞くの」
「誰が仲人をするの?」
「それは私。私が二人の馴れ初めを親友のように紡ぎあげるの」
というかまんま歌ってた。
あれ。でもこの歌どっかで聞いたような。
あ、アレだ。マザーグースの一つに似てるんだ。
神父様に幼い頃に聞かされたような記憶が。
でもそれ元の歌詞葬式じゃなかったか。それでいいのか妖精。
もしかして結婚は人生の墓場的な皮肉か。
「って式まで時間がないってことか。戻って助け呼んでる暇あるかこれ」
何せ妖精のやる結婚式だ。
成就したら逃げられないとかそんな制約ついてもおかしくない。
かと言って俺で止められるか?
正面から行っても王様どころか他の妖精たちに袋叩きにあうだろうし。
いや、俺の孫とやらが恩売ってる範囲によってはワンチャン?
「……なあ。俺が花嫁さらって逃げるって言ったらどうする?」
「何それ面白そう」
「王様が悔しがるね」
「でも王妃様は笑うかも」
「なら困るのは王様だけだね」
「やっちゃえやっちゃえ」
試しで言ってみたら俺の孫とか関係なく乗り気だった。
人望ないな王様。というか王妃様も居るってことは既婚かよ。
浮気じゃねえか。そりゃ邪魔したら王妃様笑うわ。
「あーじゃあちょっと聞きたいんだけど」
「なあに?」
とりあえず勝機はありそうなので、作戦を立てるためにもここまで運んでくれた金髪の妖精に話しかける。
さて。聞きたいことを聞き出すまでにどれくらいかかるだろうか。