何かちっちゃくなった
妖精の国。
具体的にどんな場所かなんてさっぱり知らないが、さぞメルヘンな所なんだろうなあと勝手に思ってたわけだが。
「何だコレ」
草の輪を潜って辿り着いたのは、なんてことはない、元の場所とそう大差ない森の中。
ただ夜にしては明るく、何故かと思い見渡せば淡く光る丸い何かが地面から湧きたちふわふわと空へと昇っていた。
大きさは指先程から顔くらいの大きさまで様々で、避けようにも避けきれない程度には次々と出てきている。
なんぞコレ。
地面から出て上昇していくってガスか何かか。
触っても大丈夫なやつかコレ。
「大丈夫だよ。あ、でも人間が吸い過ぎたら死ぬって言ってた」
「ダメなやつじゃねえか!?」
何をもって大丈夫と言いやがった。
というか結局何なんだよこの光ってるの。
そう思いながら妖精の方へと振り向いたのだが。
「……アレ?」
そこには誰もいなかった。
いやでも声は聞こえて。
そう思いながら周囲を見回すが見当たらない。
「何を探してるの?」
「おまえだよって……えー?」
再び声がしたので目を向けると、そこには手の平より少し大きいくらいの体の金髪の少女。
白い布を何枚も重ねたような衣装を纏い、透明の羽を動かしながらふわふわと浮かんでいた。
ああ、うん。小さいし顔つきもさっきまでとは違うけど、ヴィオラに化けてた妖精か。
「それが本来の姿ってことか」
「違うよ?」
「何で?」
「この指輪つけてみて」
「聞いて?」
違うのかよ。
じゃあ本来の姿どんなだよ。
いや聞いてもたまにしか答えてくれないのは慣れて来たけど、指輪がどうしたというのか。
「指輪って。なんでこんなもんを」
妖精が両手でつりさげるように持っていた指輪を受け取るが、つけろと言われてもコレ結構小さいぞ。
とりあえず小指ならギリギリ入るかなと左手につけてみたのだが。
「……は?」
何かいきなり周囲のものが吹っ飛んだように見えたと思ったら、辺りを緑色の何かに囲まれていた。
「え? 何コレ?」
「変化の指輪だよ」
「前もって言えよってでけぇ!?」
文句を言いながら妖精の声がした方へと振り返ったのだが、そこには先ほどまでとは違い人間サイズになった妖精の姿。
いや、待て。変化の指輪とか言ってたな。
それに周りの異様にでかい緑色は草か。
……つまり俺の方が小さくなってると。
「あー人間の姿のままだと目立つとかそういう。でも小さくなっただけで別に羽とか生えてないよな」
「才能ないね」
「何の?」
え。妖精の姿になるのに才能とか要るの?
才能がない俺は今ただの小人さんなの?
「服とか剣まで縮んでるしどういう原理だよコレ」
「知らない!」
「だろうな」
むしろここで流暢に原理の説明とかされたら逆に驚くわ。
魔法的な何かだろうから俺の方も理解できないだろうが。
「でも移動とかどうすんだよコレ。ヴィオラがどこに居るのか知らないけど歩いてたら時間かかるだろ」
「うーん。そうだ! こうすればいいよ!」
「こうってどう……ちょっとまてぇ!?」
良いことを思いついたとばかりに手を打った妖精が俺の背後に回ったかと思うと、一気に体が持ち上がり大きかったはずの草の壁が遥か下へと流れていく。
自分とほぼ同じかそれ以上の相手を持ち上げて飛ぶって意外に力持ちですねってそうじゃなくて!?
「恐えぇぇッ!? もう少しゆっくり!?」
「あはははは!」
多分そんなに速度は出てないんだろうけど、体が小さくなってるので相対的に速いし、体のスレスレを流れていく枝葉すらでかくて恐い。
しかし何故かノリノリな妖精さんは俺の必死の抗議も聞いてくれず、そのまま肝を冷やしながら連行されることになった。




