妖精さんが来た
村の中でニコイチのように扱われる俺とヴィオラだが、実を言うと付き合いはそんなに長くない。
そもそもヴィオラが神父様に弟子入りに来たのが年が暮れる少し前だ。顔を合わせてから精々半年程度しか経ってない。
なのでヴィオラのことをよく知っているなんて間違っても言えないし、意外な面を見て驚くことなんてしょっちゅうだ。
まあヴィオラの性格が、そう簡単には素を見せない警戒心の高い猫みたいに気難しいせいもあるだろうけど。
まあ要するに、ヴィオラの様子がいつもと違うと言われても、祭りでテンションあがって俺たちの知らない部分でも出たんじゃないかと思っていたんだが。
「あー、やっと来た。待ちくたびれちゃった」
「誰だおまえ!?」
俺の家で待機していたらしいヴィオラ(仮)に会った瞬間、確かにこりゃ別人だわと確信した。
いやなんか満面の笑みで手を振ってるし。
いつもの魔法使い風なローブではなく白いドレスのような衣装なのも相まって、むしろ別人だと言われた方が納得するレベル。
「誰ってひどーい。ヴぃ……ヴィオラ? だよ?」
「自分の名前に疑問符つけんなや」
マジで誰だこいつ。
こてんと首を傾げる様子は幼い子供のようで、とてもあのいつもクールで大人びているヴィオラには見えない。
かといって実はそっくりさんですと言われても納得いかない状況なわけで。
「どんな状況でこうなったんだよ」
「各家を周り終えて贈り物を一端置きに来たんだけどね。荷物を置いて立ち上がったと思ったらこうなってたよ」
「うん分からん」
入れ替わる隙がねえ。
かと言って本人がいきなり記憶喪失か何かになったにしても不自然すぎる。
そもそもこいつ自分自身をどう認識してるんだ。
「おまえ自分がどんな状態か分かってるか?」
「えーと、結婚式?」
「どうしてそうなった」
というか誰と誰のだよ。
俺とヴィオラ?
この後ヴィオラにしばき倒される(マイルドな表現)予定だったんだけど家庭内暴力かな?
「だって王様が『アレは私の花嫁だ』って」
「誰だよ王様」
「なるほど」
「なんか理解してる人がいる!?」
ヴィオラ(仮)の意味不明な答えに、何故か納得している様子のロイスさん。
今の何処に納得する要素があった。
「おまえ妖精か」
「うん。……あ、言っちゃった」
「言っちゃったて!?」
ロイスさんの問いに素直に答え、やっちゃったとばかりに目を見開くヴィオラ(妖精)。
つまりどういうことだよ。
「聞いたことくらいはあるだろう。チェンジリングだ」
「チェンジリング?」
※チェンジリング
いわゆる取り替え子。妖精に連れ去られた子供の代わりに置き去りにされた妖精の子供。
「ストック」や「そっくりさん」などと呼ばれる場合も。
取り替えられた妖精は人間と比べて我慢がきかず不愉快な性格であるとされる一方、人間よりも遥かに優れた知能を示す場合もあるとされる。
どちらにせよ成長するにつれて人間との差異からその正体を見破られることが多い。
「あーそれで見た目ヴィオラのまんまで……でもすりかえられるのって赤ん坊じゃないんですか?」
「たまに成人間近な子供でも取り替えられることはある。特に金髪の美しい乙女は妖精に気に入られやすいとかな」
あー確かに今よりまだ子供だった頃に「悪いことしたら妖精に連れていかれるよ」的な脅しをくらったような記憶が。
それに金髪の美しい乙女。
もろにヴィオラじゃん。
え、でも花嫁っていうのは。
「他の地域じゃこの手の祭りで春の女王役をする女子を『春の花嫁』と呼ぶこともある。見立ても春と冬の戦いではなくて、神々の王と豊穣の女神の結婚でな」
「何それ羨ましい」
俺が殺されてる一方で結婚式ごっこやってる地域もあるのかよ。
まあそれは置いといて。
「……ヴィオラ花嫁と勘違いした神様にさらわれた?」
「いや。この妖精の王ってことは妖精たちの王だろう。厄介なことには変わりない。相手が小物だったらあのお嬢ちゃんなら自力で戻って来られるだろうが」
「むしろ妖精が危ないのでは?」
その気になればガーゴイルの群れを半壊させる竜巻発生させるやつだぞ。
いやでも妖精たちの王ならヴィオラより強い可能性も。
「なあヴィオラはどこに連れていかれたんだ」
「言えない。言っちゃダメだって言われたもの」
ヴィオラの姿をした妖精に聞いてみたが、まあ素直に答えるはずがないか。
かと言って他に手がかりもないわけで。
「ちょいと折檻するかい? 取り替え子を取り戻すには取り替えられた妖精を酷い目にあわせればいいって聞いたよ」
「ええ……」
ゲルダ婆の言葉に思わずひく。
いや確かにそんな話は聞いた覚えはあるけど。
かと言って見た目ヴィオラな女の子が酷い目にあってるのとかあまり見たいものじゃないぞ。
そう思いながら改めて妖精を見るが、自分の置かれた立場を分かってないのか相変わらずニコニコと笑っている。
危機感どこに忘れて来た?
「……あら? あなたあの子のお爺ちゃんなのね」
「はい?」
どうしたものかと悩んでいたら、妖精がまた意味の分からないことを言い始めた。
誰が爺ちゃんだって?
俺まだ孫どころか子供も居ねえし成人すらしてねえよ。
「深く考えるな。妖精ってのは時間への知覚が人間と完全に違うんだ。三日前のことを覚えてないと思ったら数年前のことを昨日のことのように話すし、未来の事すら世間話のように漏らす」
「それ未来予知じゃん!? え? 利用しようとかするやついないんですか?」
「妖精自体が気まぐれな上に自分たちでも時系列分かってないから、聞きだしたいことが聞き出せないんだよ」
「ええ……」
じゃあマジでこの妖精俺の孫を知っている可能性もあるのか。
え? 俺ちゃんと結婚できるの? 相手誰?
「どうしよう。困ったわ。私は消えてなくなって、勇敢な子猫は何も知らない」
「凄い。本当に何言ってんだか分からない」
これ詳しく聞き出そうとしても理解不能な単語が飛び出してくるやつだ。
言ってること不穏だし何で猫の話になった。
「ああ。でもあの子が居なくなるのは寂しいわ。分かった。コマドリはツグミの恩を忘れないもの」
「人間にも分かるように言ってくれ」
「案内するから付いて来て」
「せめて会話して?」
一方的にしゃべったかと思えば、突然立ち上がり歩き始めるヴィオラの姿をした妖精。
意味は分からないが協力はしてくれるらしい。
俺の孫とどんな関係なんだよとか、俺誰と結婚するんだよとか気になったが、とりあえずその後を追うことにした。




