神父様が破門されかけてる
幽霊に殺されかけてから二日後。
無事に杖も受け取り問題なく村まで帰り、旅の荷物も下ろして家でくつろいでいたのだが。
「神父様が戻らないー?」
いきなりゲルダ婆が「帰って来てるねレオンにヴィオラ!」とでかい声で訪ねて来たと思ったら、こっちはこっちで別の問題が発生していた。
いや神父様が居ないくらいで何を大袈裟にと言われそうだが、少なくとも俺が物心ついてからこんなに長い間居なくなったのは記憶にない。
こんな田舎では噂の類も流れて来ないので、何かあったのではと一部の村人が不安になり始めてるとか。
一部以外?
神父様が死ぬわけないだろと欠片も心配してない。
勿論俺も心配してない。
あの人が本気で困るのとかそれこそ魔王が復活した時くらいでは。
復活しても同類なクラウディアさんとタッグ組んで倒しそうだけど。
……そういえば聖剣なんてもん持ってたし、もしかしてクラウディアさんの祖父と一緒に魔王倒した頭のおかしい集団に混ざってたんじゃないかあの推定不老不死。
「でも不安がってるのがいるのは事実だからね。何とか連絡つけられないかい?」
「実家経由で聞いてみます。あっちの方が聖都に近いから事情も伝わってるかもしれませんし」
「すまないねえ。これ良かったらお食べ」
「……ありがとうございます」
そう言ってゲルダ婆からお駄賃代わりに渡された干し芋を、ちょっと躊躇ってから受け取るヴィオラ。
ヴィオラあんま間食とかしないから貰っても食えないが、かといって断るのも悪いなあと思って受け取ったんだろう。
多分後で俺に押し付けられる。いや好きだから食うけど。
「ついでだから祭りの段取りも説明しとくかね」
「ああ。未成年の男女だけでやるって儀式のこと?」
「まあやることは女の子の方が多いよ。まず女の子は各家を訪ねて贈り物を受け取って回るんだ」
「ほうほう」
「そんで最後に男の子をしばき倒して終わりさね」
「何で?」
いやマジで何で?
女の子は贈り物とか貰ってるのに俺はしばかれるの。
というかもしかして俺の出番はしばき倒されるためだけに存在するの。
「えーと。アレだ。女の子は春の女王という役割でね。だから贈り物あげて歓迎するわけさね」
「俺は?」
「冬の王だからしばき倒して帰ってもらう」
「冬の王が何をしたっていうんだ」
いや言わんとしてることは分かるけども。
要は冬が去って春が来るのを擬人化した儀式ってことか。
でも何で春に直接冬がボコられにゃならんのだ。
「そういうもんなんだから仕方ないさね」
「そっかー」
まあ古い儀式に理由求めても仕方ないわな。
ある意味やることが少なくて楽なのだと前向きに考えておこう。
でも手加減はしてくれとヴィオラに頼んでおくことは忘れない。
先日の容赦ないパンチといい、魔法使いのくせに物理も結構強いんだよこの娘っ子。
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そして夜は明けて。
神父様がいないので、相変わらず俺たちは教会の一室で自習しているわけだが。
「返事が来たわ」
「どこから!?」
何か急に懐から紙切れ取り出したヴィオラにつっこみながら周囲を見渡す。
何?
魔法の道具とかかその紙。
「ペアになってる紙同士で書いた内容が離れていても伝わるの。それなりに高価なものだから普段は使わないんだけど」
「そんなもんほいほい使っていいのか」
育ちが良さそうなヴィオラの言う高価って、干し芋じゃ到底釣り合わないやつだろそれ。
まあヴィオラ自身も気になってるから使ったんだろうけど。
「それで何だって?」
「神父様が破門されかけてるんですって」
「何だって?」
あの神父様が破門されるようなことなんて……。
大量にやってそうだ。
戒律より自分の意思優先するタイプだよな間違いなく。
「でも逆に言えば今まで見逃されてたわけだろ。何で今更」
「新しい教皇が就任するなりいきなり言い出したらしいわよ。神父様の影響力が目障りなんじゃないかしら」
「いっそ清々しいな」
何その聖職者にあるまじきドロドロした理由。
というか当の神父様は何やってんだ。
「『それもいいかもしれませんね』って傍観してるらしいわよ」
「何がいいんだよ」
何?
もしかして神父様実は神父でいることに疲れてたの。
というか神父じゃなくなったらあの人どういう立場になるんだ。
聖職という名の拘束具なくして野に放っても大丈夫かあの人。
「破門されても魔法ギルドや冒険者ギルドに商人ギルドも後ろ盾になるでしょうし、神父様自身は何も困らないでしょうね。むしろ困るの神父様が居なくなる教会じゃないかしら」
「もしかして新しい教皇は阿呆なのか?」
「阿呆じゃなきゃ神父様に喧嘩売らないでしょう」
教会内から神父様の影響力なくしても他の勢力が厄介になるやつじゃん。
特に魔法使いって基本的に探究心が優先で信仰とか知ったこっちゃねえから教会と仲悪いらしいし。
「余裕そうだし、むしろ状況を楽しんでるんじゃないかしら神父様」
「それでいいのか神父」
下手すりゃもうすぐ神父じゃなくなるけど。
ともあれ本来なら大騒ぎになる破門も神父様にとってはわくわくする程度で済むらしい。
何でそんな理不尽に喧嘩売ったんだろう新教皇。
自業自得だが、ちょっと新教皇が可哀想になってきた。