謝罪と賠償をされた
憎い。
奴が憎い。
彼らが憎い。
この国が憎い。
私はエリートだ。
天才だ。
選ばれし者だ。
うぬぼれではない。
世の中で魔術という力を使える者は限られており、それを使えるというだけで貴族に匹敵する地位と力が約束される。
そんな特別に私はなった。なり得たのだ。
例え取るに足らぬ木っ端魔術と切り捨てられようとも。
だが足りなかった。
認められたい。
その目に映りたい。
私という存在を刻みつけたい。
そう私は認められたかった。
取るに足らぬ有象無象の一人ではなく、ただ一人の私として。
だからその手を取った。
私の存在を示した。
なのに――。
はて。
私の焦がれた人は、こんな悲しそうな瞳をした女性だっただろうか。
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「このたびは私の家の問題に巻き込んでしまい誠に申し訳ありません」
「え、はい。大丈夫です」
幽霊にうっかり魂引っこ抜かれるという貴重な体験をさせていただいた事件の翌日。
流石にしばらく様子を見ようという事で用が済んでも街に留まっていたわけだが、クラウディアさんのお屋敷に呼び出されたと思ったら迫真の謝罪をされた。
これには「わーいクラウディアさんのお菓子だー」と性懲りもなく焼き菓子を貪っていた俺も硬直。
それをヴィオラが咎めないという事は、俺の巻き込まれた事件は割とマジで危ないものだったらしい。
ロイスさんも神妙な顔してるし、もしかして当事者の俺が一番事態を把握してなかったりします?
ちなみにクラウディアさんに助けられ目を覚ました後、そばにいたヴィオラに余程心配をかけたのか涙目でぽかぽかと殴られた。
その様子が珍しくて「おまえそういうとこは可愛いな」といらんこと言ったら腰の入った右で殴られた。
流石神父様の弟子だぜ泣くほど痛かった。
「でも家の問題って、あの幽霊俺を襲うくらい認識ガバガバだったんだし人違いの可能性もあるんじゃ」
「あのレイスの言っていたシュティルフリートというのは祖父が騎士に任じられたときにさるお方から賜った名で、他には存在しないのです」
「すいませんでした」
もしかしたら勘違いかもよと下手な慰めを言ったら確定情報が飛び出してきた。
深く考えずに発言してごめんなさい。
「巻き込んでしまったお詫びと言ってはなんですが杖の方の手配はしておきましたし、ご実家のご両親にも謝罪の文と僅かですが謝罪金を」
「やだ。僅かというのが別の意味で信用できない」
これが普通のよく知らん貴族なら本当に僅かなんだろうが、クラウディアさんの今までの誠実すぎる態度見るに絶対僅かな金額じゃねえ。
しかも謝罪の文って。死にかけたって知ったら母さん怒るだろうなあ。いや心配してくれてるから怒るんだろうけど。
親父? あの人結構放任だから多分「いい経験したな」で終わる。
「しかしなんだったんだその魔術師は。代々馬鹿が付くほど清廉潔白なおまえの家が早々恨まれることなんざないだろう」
「いえ。私の家は割と恨まれていますよ」
ロイスさんの言葉をあっさり否定するクラウディアさん。
何でだ。クラウディアさんが誠実なのは間違いないし、祖父とやらもロイスさんの態度を見るに同じく信用に足る人だったみたいなのに。
「祖父は隠居した後に祖母と共に旅をしていたのですが、どうにもトラブルに巻き込まることが多く。あれこれと手を出すうちに領主の不正を暴くといったことが立て続けにありまして」
「何その骨の髄まで主人公体質」
流石平民から成り上がっただけはあるという事なのか。
しかも立て続けって。どんだけ不正やってる領主居たのこの国。
「他にも現役の時から馬鹿が付くほど実直なために他の貴族の問題に首を突っ込み結果的に不正を正すことが何度も。それ故に陛下からは信頼されていたわけですが」
「要は恨まれてるにしてもほとんどが逆恨みってことだろうが」
クラウディアさんの説明にため息をついてそう結論するロイスさん。
逆恨みって逆にどこで買うか分からないから恐いな。
あの幽霊もクラウディアさんの爺さんに成敗でもされたのかね。
「火の魔術を得意とする魔術師に心当たりはありますが……。まだ存命ですし殺しても死なない糞なので恐らく別人でしょう」
「あ、はい」
何かクラウディアさんから輝くような笑顔で汚い単語が飛び出した。
え? ヴィオラは平然としてるし俺の幻聴?
それともその糞な魔術師に心当たりあるとか?
逆に生かしといて大丈夫かその糞。いや殺したくても死なないらしいけど。
「巻き込んでしまった以上何か新たな事実が分かれば連絡をさせていただきます。念のためしばらくは身辺にお気を付けください」
「わざわざありがとうございます」
まあうちの村世界で一番安全だろうから、そんな心配する必要ないだろうけど。
そう思っていたのだが。
村に帰っても神父様はまだ戻っておらず、ついに祭りが行われる日になっても帰還することはなかった。