大体囲んで殴るのが最適解
「とりあえず基本は遊撃という名の囮だ。とにかく狙いをヴィオラからそらすために当たらなくてもいいから矢を放て。石を投げろ。そんでヤバいと思ったら結界の中に逃げろ」
村の外の結界との境目にて。
十人ほど集まった村の男衆を前にして、淡々と作戦を説明するロイスさん。
どうやら最初から自警団員は戦力に数えられておらず囮扱いらしい。
あとのこのこと俺が戻ってきたことについては全く触れられなかった。
どうも親父に連れられて帰ってくるのを予想していたらしい。
ならなんで追い返しやがった。
いや素直に尻まくって逃げた俺も俺だけど。
「ヴィオラの前衛には俺とルインが立つ。ロナルドとグラッパはヴィオラの横だ。ヤバいと思ったらヴィオラ抱えて結界の中に逃げろ」
「了解」
そしてロイスさんに指名されてヴィオラの守りになる親父。
しかしそれも納得してしまうというか。
他の村人の装備が精々革製の鎧とか金属製でも胸当て程度なのに、親父だけ全身鎧にアイロンみたいな形の盾まで装備ときている。
一人だけ浮きすぎだろ。
確かに防御力は断トツだろうが。
あとロイスさんは鎧自体は使い込んでそうな傷だらけの胴鎧だが、両手に両刃のバトルアクスというイカレた武器を持っている。
それもしかして予備とかじゃなくて同時に使うの?
斧は片手で振り回す物じゃないよ?
「よし行くぞ! レオン。そこから動くなよ!」
「分かりました」
流石にヴィオラがヤバそうなら飛び出す自信があるが、多分俺が動く前にロナルドさんたちが結界の中に引っ込めるだろう。
あと新婚さんで最近幸せ太りしているフーゴさんが囮役の中に居るのは大丈夫なのだろうか。
うっかり捕まったりしないのか。
「来たな!」
そんな俺の心配をよそに、ヴィオラと自警団員たちが結界の外に出ていき、同時にガーゴイルの何体かが急降下してきたのだが……。
――メシャァっ。
「は?」
その内の一体がロイスさんのバトルアクスに殴られて空へと送還され、もう一体は振り下ろした腕を親父の盾で阻まれたかと思えば、もう片方の手に持っていたメイスで殴られ地面へと叩き伏せられていた。
「……」
そしてその地面に落ちたガーゴイルへと無言でメイスを振り下ろし続ける親父。
ガーゴイルの方も腕で防ごうとしているがその上からお構いなしに殴りまくり、徐々に体が砕かれ削げていっている。
騎士の戦い方とは一体。
「うしろ行ったぞ!」
「分かった!」
他の自警団員たちは、二人一組になってお互いの死角を補っているらしい。
ガーゴイルが襲来すれば手にした武器で応戦するが、とにかく距離を取ることに専念しているように見える。
それを見て「え、後ろからの奇襲は殺気や気配で察知するものでは?」と思ってしまった俺は、大分神父様の人外戦法に毒されていると自覚した方がいいのかもしれない。
いやでも森の中での訓練とか神父様奇襲しまくってくるから、嫌でも一人での対応法覚えるしかなかったし。
「――風の精霊よ。古の契約に従い我が声に応えよ」
そして他の団員はともかく、魔術なくてもガーゴイル倒せるんじゃないかという二人に反応もせず、呪文を唱え始めるヴィオラ。
もしかして親父たち程度の人間は世界にゴロゴロいるのか。
地獄か。
「――流れ落ちる雫。泫然と降りしだく禍階は空を裂き、暗涙の調は地維を砕く」
「うをっ」
ヴィオラが呪文の詠唱を続けるのに合わせるように、風が渦巻き草をなびかせ、遥か彼方の森の木々まで揺らし始める。
それは次第に紡ぎ合わされるように一点へと集まっていき、気が付けば砂埃を巻きあげながら竜巻を形成していた。
結界越しなので俺にはそよ風程度しか感じられないが、空を飛んでいたガーゴイルたちが体勢を崩し次々と飲み込まれていっている。
「ええ……」
何アレ。
もしかしなくてもヴィオラの魔法の効果なのか。
人間が引き起こしていい現象なのかコレ。
神父様?
あの人は人間じゃないから。
「――汝、天と地の狭間を蕩揺する者。謡え、高らかに」
続いてヴィオラが唱えた呪文が最後だったのだろう。
荒れ狂っていた竜巻が突然収まったと思ったら、ヴィオラが付きだした手から空間が歪んで見えるほどの、恐らく空気の塊のようなものが射出される。
それは俺が瞬きをする間に竜巻に巻き込まれていたガーゴイルたちへと迫り、火薬でも炸裂したみたいな音を立てて衝突した。
「……」
そして後に残ったのは、粉々に砕かれて地面へと落下していくガーゴイルたちと、僅かな生き残り。
そいつらも腕なり足なりがもがれていて、中には翼を失い地面でもがいてるやつもいる。
いやその羽本当に飛行能力あるのかよ。
どう考えてもその羽で飛ぶのは物理的に無理があるだろう。
そんなこと言い出したらドラゴンとかが飛べるのもおかしいんだろうけど。
「よっしゃ仕上げだ! 落ちたやつらを狩っていけ! まだ飛んでる奴らへの警戒も怠るな!」
そして好機と見たのか、ロイスさんの号令で一転攻勢に出る自警団。
地面で動けなくなっているガーゴイルを複数人で囲み、手にした棍棒やらメイスやらでぼっこぼこに殴りまくる。
それを見た他のガーゴイルが飛来しても、何人かが防御に回り邪魔をさせない。
なんという数の暴力。
でも普通は魔物の相手をするならそうやって対処するもんなんだろうなあ。
そもそも凡人の俺が一人で魔物を倒そうと思うこと自体が無理があったのかもしれない。
「――風よ!」
そしてまだ空を飛んでいる奴らは、先ほどよりも詠唱が短く範囲も狭いらしいヴィオラの魔法で狙い撃ちにされていく。
そうして突然襲来したガーゴイルの群れは、綺麗さっぱり全滅した。