親父出撃
「……ちくしょう」
自宅にて。
ロイスさんに戦力外通告を受けた俺は、リビングの椅子に体育座りしてやさぐれていた。
いや実際今の俺では役立たずなのは分かる。
でもなんかやれることがあるんじゃないかと期待するのは仕方ないというか、ああもハッキリいない方がマシ扱いされると。
「……ヴィオラはいいよなあ」
俺より歳は一つ下なのに、魔法が使えるだけで元傭兵で歴戦の猛者であるロイスさん相手でも対等。いやむしろ頼られていた。
普段から魔法ってズルいとは思っていたが、こうも決定的に立場の差を思い知らされたのは久しぶりだ。
なお最初の一回は初対面で売られた喧嘩を買った結果ボロ負けした時である。
……なんか今更落ち込んでるのが馬鹿らしくなってきた。
「お、どうしたレオン。ガーゴイル見に行かないのか」
「ロイスさんに遠回しに邪魔だって言われ……なんだその恰好!?」
なんか親父の声と一緒にガチャガチャ金属音がすると思ったら、重そうな全身鎧が階段を降りて来ていた。
何その背景のボロ家とは不釣り合いな高そうな鎧。
うちにそんなものあったのかよ。
「ああ。元騎士な曾爺ちゃんの甲冑だよ。おまえが悪戯しないように隠してたんだが」
「ええ……それ結構な年代物じゃん」
「いや貴族様でも甲冑は代々受け継ぐものらしいぞ。体格が合わないと動き辛いから仕立て直すけどな」
え。鎧って仕立て直せるの。
小さい人に合わせた後に大きい人に合わせるとかどうやるんだ。
「あれ? 今戦う準備してるってことは、親父ってガーゴイル相手にできるほど強かったのか?」
「ふっ。あれはヴィオラちゃんのお母さんが去ってから数日したころ。俺は好きな子に告白もできない自分の不甲斐なさを変えたいと思い曾爺ちゃんに相談し……」
「その話長くなる?」
何か語り始めた親父だが、親の恋愛絡みの話なんぞ聞きたくねえ。
「しかし邪魔だと言われて不貞腐れてたのか。仕方ないやつだな」
「ぐ……」
そうハッキリ言われると改めて自分が情けなくなるというか。
意地でも留まってやるべきだっただろうか。
「なあレオン。おまえは何のために強くなりたい」
「何のためって……」
冒険者になりたい。
それが先にあって強くなるなんてのは手段としか思ってなかった。
そう俺が言うと、親父は馬鹿にせずうんうんと頷く。
「自分の身を守るだけなら今のおまえでもなんとかなると思うぞ。でも仲間を守るとなると難しいだろう」
「えーそれこそ自分の身は自分で守れば……」
「ヴィオラちゃんにもそれ言えるか」
「え?」
ヴィオラ?
あいつはそれこそ俺なんかより強いし身も守れ……ないからガーゴイル相手に慎重になってるんだった。
「人にはそれぞれ役割ってもんがある。ほらついてこい」
「え? でも俺いらないって」
「戦わなくてもいいから俺たちの戦い方を見ていろ。それこそ一対一なら今のおまえと大差ないやつもいるんだ。規格外な神父様相手じゃ分からないこともあるだろう」
「確かに」
戦い方を教えてくれる神父様だが、神父様自体は動きが人外一歩手前どころか完全にはみ出してるのでまったく参考にならないという問題がある。
なので自分に近いレベルの奴がどうやって戦ってるか参考にしろと。
「それに神父様の戦い方はある意味邪道だからな。俺が騎士の戦いというのを見せてやろう」
「騎士の戦い(農民)」
そういえばさっき相談したのは神父様じゃなくて曾爺ちゃん相手だと言ってたな。
なら親父の戦い方は元騎士な曾爺ちゃん仕込みなのか。確かにそれは見てみたい。
そうさっきまで落ち込んでたのも忘れてわくわくする自分の単純さに自分で呆れながら、ガチャガチャ音を立てながら歩く親父の後に続いた。