神父様がどっか行く(フラグ)
「どうかお願いいたします神父様!」
「ええ……」
とある日の朝。
いつも通り朝飯食って神父様による午前の授業に出ようと教会に来たのだが、その教会の礼拝堂のど真ん中でなんか中年の神官が土下座していた。
何事だよ。
というか神父様他の神官からも神父様呼びなの?
他に並び立つ神父がいない神父の中の神父なの?
「分かりましたから帰りなさい。生徒が来たでしょう」
そして土下座している頭が寂しくて苦労してそうな神官を
「しっしっ」と野良犬でも追い出すように言う神父様。
本当に我が道を行くなこの人。
いや実年齢は神父様の方が上なんだろうけど。
「頼みましたからね! 約束破ったら腹かっさばきますからね! 私の!」
「何その斬新な脅し方!?」
自分の命を脅迫に使うという神官にあるまじきことを言いながら教会から出ていくおっさん。
というかこんな朝っぱらにどっから来た。
この近くにすぐに来れる町とか村ないぞ。
俺がそう言うと神父様がうんざりとした顔を隠そうともせずに言う。
「昨日から泊まり込んでいたんですよ」
「一晩中いたのに別れ際にもあんなに念押しされるって何頼まれたんですか」
「教皇が亡くなったそうです。そのため次の教皇を決めるために枢機卿は全員集まらなければならないんですよ。まったく面倒な」
「神父様枢機卿だったの!?」
枢機卿ってあれだろ。細かい分類はよく分からんけど教皇を補佐する一番偉い人たちだろ。
何でこんな片田舎で神父やってんだこの人。
「名誉職みたいなものですよ。無駄に長く生きていますからね。本当に私が補佐に入ったら発言力が大きくなりすぎるでしょう」
「ああ」
そりゃそうでしょうねとしか言えない。
というか本当に神父様が不老不死なら教皇にするわけにもいかないし凄い扱い面倒くさいんじゃ。
「レオンでもそう思うでしょう。なのに彼らは私を毎回律儀に呼ぶんですよ。もう忘れてもらっても構わないというのに」
「いや、それはそれでどうなんですか」
というか神父様なら忘れた頃に何かやらかしそう。
もしかして監視もかねて呼ばれてるんじゃ。
「そういうわけで明日には私は発ちますが、何かあれば飛んでくるのでその時は大きな声で助けを呼びなさい」
「それで分かるってどうなってんですか」
そして飛んでくるって比喩じゃなく文字通りなんだろうな。
いや空間越えてるっぽいから飛んでくるというより跳んでくるのかあの瞬間移動は。
「あと貴方のご両親にはもう話してありますが、私がいない間はヴィオラは貴方の家で預かってもらいます」
「なんで?」
いや本当に何で?
どっか預けるにしても別に俺の家じゃなくてもいいだろう。
「貴方が居た方がヴィオラも落ち着くでしょう」
「いやいやいや。同年代の男がいるの嫌でしょ普通」
「いえ。あの子あれでも貴方のことを気に入ってますよ。流石ですねレオン」
「アレで!?」
いや褒められてるのに本気でビビったぞ今。
というか流石って何がだよ。
「むしろアレだからですよ。大抵の同年代の子供はあんな絶対零度の態度と視線を向けられたら怯えるか反発します」
「あー」
確かに今では多少マシになったけど、出会ったばかりの頃のヴィオラの態度は凍土を思わせるそれだった。
まあ都会の子だから田舎者な俺の態度が気に入らないんだろうなあと思ってたんだけど、デフォルトで誰にでもあの態度だったのかよ。
「てっきり俺が馬鹿な事やるからだと」
「それもありますが」
「あるんかい」
というか馬鹿なの否定しないのかよ。
いや自分でも馬鹿だと思うけど。
「まあ上手くいけば一日で終わるのですぐ帰ってきますよ。長くとも一週間程度です」
「え? 意外に早いですね」
「前教皇が亡くなる前から有力な候補者が根回しは済ませていますからね」
「生臭い」
やっぱ神様に仕える神官でも上の方は権力闘争とかあるのか。
ともあれうちにヴィオラが泊まり込むことになりちょっとわくわくするのは否定できない。
しかしそんな上手いことイベントが起きるはずもなく、むしろ歓迎できないイベントが家とは関係ない場所で発生した。