さらばユニコーン
「さあ準備はいいですかレオン」
「任せてください!」
明けて翌日。
神父様によりユニコーンへとけしかけられる俺だが、今回は親父の助けにより対策ができているので自信満々だ。
いや実は退治方法知っても「そんなうまくいくか?」と半信半疑だったりするのだが、何も知らずに特攻するよりはいい。
しかしそんな俺を見て何故か無言になる神父様。
……なんぞ?
「さてはルインに助言をもらいましたね」
「何で分かるんですか!?」
ルインというのは俺の親父のことである。
いやさっきまで普通だったのに何故いきなりそんな結論に至った。
もしかして不老不死な上に心まで読めるのか神父様。
「心は読めません」
「いや読んでるじゃん」
「貴方が分かりやすいだけですよ。しかしルインがそんなことをするということは、今回の課題に対する抗議でしょうね。確かに私情混じりでしたが」
「あ、そこは認めるんですね」
そしてもしかして親父はバレるの分かってて抗議のために俺に教えたのか。
それならそうと言ってくれよ。嫌な汗かいたじゃないか。
「ユニコーンが委縮しては意味ないので私は身を隠しますが、危なくなったら助けますのでドンと行きなさい」
「私情混じりなの認めても課題は止めないんですか」
「いい訓練になりそうですからね。人間以外との戦闘経験はつんでおいて損はありません」
「さいで」
まあ確かに魔物の殆どには対人戦技は殆ど通じないからなあ。
この間のゴブリンみたいに逆に人間みたいな戦術使ってくるのも厄介だが。
まあともあれユニコーンがいるであろう村の外に向かうか。
というか村の結界に弾かれるという事はあのユニコーン本当に魔物扱いなんだな。
今までユニコーンと言えば神聖なイメージもあったんだが。
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「なんで私まで行かなきゃいけないのよ」
「だって隠れて出て来ねえし」
意気揚々と外に向かったものの、肝心のユニコーンの姿が見えずあえなく帰還。
神父様に相談したところ少し考えた後に「ではヴィオラを連れていってみてください」とのお言葉を頂いた。
いやアンタヴィオラがユニコーンにセクハラされてんの見てキレてたじゃんと思ったが、それを読んだように「大丈夫です。今回は見張っていますから」と言われた。
つまり俺が突破されてユニコーンがヴィオラに触れた瞬間ユニコーンの死が確定する。
美人局も真っ青なデストラップである。
「お、来た来た……ってえらいゆっくりだな」
「昨日の今日で無警戒に来たら野生動物としての本能死んでるわよ」
ユニコーンは野生動物でいいのか。
魔物だから既存の生態系に組み込まれてる動物ではないはずだが。
「……よし! ヴィオラに触れたかったら俺の屍を越えていけ!」
「何言ってんの」
俺の発言に呆れるヴィオラ。
そしてヴィオラ以外に居るのが俺だけだと気付いたユニコーンも「なんだおまえか警戒して損したぜ」とばかりに鼻を鳴らす。
ほんっとムカつくなこの馬。
それに神父様が昨日瞬間移動してきたのを見てなかったのか。
いやここで怖気づかれたらやりづらいから別にいいけど。
「おっしゃ来いやあ!」
気合を入れて剣を構える。
相手はエロ馬だが昨日手も足も出なかったのは事実だ。
今回はしばらく防戦に徹する必要があるが、それでも油断すればまたスタボロにされるだろう。
「っと、何でこんなに早いんだよこの角!?」
相手の攻撃を防ぎながら、少しずつ目的の場所へと移動する。
しかし相変わらず首振ってるとは思えないほど角が速い。
というかその戦い方視界がブレまくるし頭も揺れまくるだろうに何で平気なんだよ。
実は魔法かなんかで補助でもしてるのか。
「うを!?」
「ちょっと本当に大丈夫!?」
いきなり踏み込んできたユニコーンの角が胸元をかすめた。
やべえ。マジで殺しに来てやがるこの馬。
そんなにヴィオラに触りたいのか。多分触った瞬間死ぬけど。
「ハッ。そんなもん刺さるかよ。それとも人間の心臓の位置知らないのか? ここだぜここ」
しかし突かれるのは予想の範疇というか、それこそが狙いだ。
準備ができたのでわざとらしく挑発してみると、やはり人間の言葉が分かるのか予想以上の速度で一度下がり即座に突進してくる。
「ほわちゃあ!?」
「レオン!?」
自分で誘っといてその勢いが予想以上だったので変な声が出た。
というか予想してなかったら絶対逃げ遅れて刺さってた。
どんな瞬発力してんだこの馬。
しかしこれで俺の勝ちだ。
何故なら。
「!? ヒヒン!?」
俺を追撃しようとしたらしいが、頭が動かず戸惑い嘶くユニコーン。
それもそのはず。その角は大きな楠の幹に半ば以上突き刺さってしまっている。
捩れたような形状のせいで抜くのにも力がいるだろう。
少なくとも自力で抜けない程度には嵌まり込んでいるらしい。
「……これがユニコーンの倒し方?」
「あれ? ヴィオラ知らなかったのか?」
「そもそも乙女を囮にする以外の退治方法なんて知らなかったわよ。神父様も教えてくれなかったし」
あれー?
親父は結構有名みたいなことを言っていたが、都会っ子で俺より本読みまくってるヴィオラが知らないって実はマイナーなんじゃないのか。
そういえば情報元の本も屋根裏部屋にしまい込んであった古いもんだしなあ。
もしかしてアレ実は貴重な本なのでは。
「ふむ。やはり情報元はあの本でしたか」
そしてユニコーンの動きを封じて勝負ありと見たのか、またしても瞬間移動でやってくる神父様。
そしてその神父様を見て自分の終わりを悟ったのかぐったりとして動かなくなるユニコーン。
まるで処刑台に立たされた罪人のようだ。
「神父様。ヴィオラが知らないってことはあの本あんまり出回ってないんですか?」
「出回ってないでしょうね。アレは物語風にしていますが、殆どは貴方の曾お爺さんの経験談ですから」
「はい?」
まさかの曾爺ちゃん。
何? あの人元騎士なだけじゃなくてまだびっくり情報飛び出してくんの?
「そもそも貴方の曾お爺さんは凪の時代が終わり魔物が世に出始めた、時代の節目を生きた世代ですからね。いまだ未知が多い魔物たちを相手に最前線で戦い続けた第一人者ですよ」
「何でそんなもんが本になってうちの屋根裏部屋に!?」
俺の曾爺ちゃんが実は凄い人だというのは分かった。
分かったけど何でその経験が物語風な本にされちゃってんの。
「この村の家には大体ありますよ。何せ田舎で娯楽が少ないですからね。貴方の曾お爺さんの話は人気でしたが、流石に何度も同じことを話すのは辛いのでいっそ本にできないかと言われ、私も若さ故に悪ノリで筆がのってしまいあんなものが」
「神父様が書いたの!?」
というか若さ故って神父様に若い頃あったの。
いや今も見た目は若いけれども。
「行商人が本も仕入れてくれるようになってからは人気もなくなってしまいましたが。やはり素人コンビが作った本ではプロのものには勝てませんね」
「ええ……」
もしかして曾爺ちゃん神父様と仲良かったのか。
神父様……は肝心な所をぼかしそうだし、親父に聞いてみるか。
「ともあれユニコーン退治は見事でした。後は私がやっておきます」
「え? もしかして売り払うとか?」
ユニコーンは角が万能薬になるだとかいう伝承がある上に、貞淑の象徴なんかにもなってるので需要はありそうだ。
だから売り払うのかと思ったのだが。
「レオン。ユニコーンは人に懐かず飼おうとしても暴れ回って最後には自殺してしまうとされています。かといって野放しにしても人里に被害を出すこともある。可哀想ですが一度捕らえたのならば殺してあげるのも慈悲なのです」
「いやめっちゃ大人しくなってますけど」
樹の幹に角が刺さっているせいで、頭を少しひねった変な態勢で腹を見せているユニコーン。
いや神父様が規格外だから命乞いしてるだけで、居なくなったら死ぬまで暴れまわるのかもしれないが。
あと最初に抹殺しようとした神父様が可哀想とか言っても説得力がない。
「でもまあ仕方ないですよね」
「あっさり諦めたわね」
「だって害獣駆除するようなもんだろ」
最近はあまりないが、動物が田畑を荒らしたり、狼あたりが家畜を襲うので駆除しなければならないことも結構ある。
ユニコーンがこの先も村の近くに居座って迷惑かけるなら殺すのもやむ無しだろう。
「それともユニコーン助けたいのかヴィオラ」
「それはないわね」
「ヒン!?」
ヴィオラの言葉を聞いてショックを受けたように目を見開きながら鳴くユニコーン。
むしろおまえ何でヴィオラが自分を擁護してくれると思った。
「じゃあ。天国行けよ馬」
「魔物って天国や地獄に行くのかしら」
「ヒヒーン!?」
そうして突然やってきたユニコーンは、孫娘(らしい)へのセクハラに激怒した神父様によって処理された。
しかし神父様はユニコーンは人に懐かないと言っていたけど、逆に人に懐く魔物っているのかな。
そこがちょっと気になった。