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訓練が厳しい

「……ぅ……」


 遠くから小鳥の鳴き声や木々のざわめきが聞こえる静かな森の中。

 俺は頭から草を生やしながら息をひそめて周囲の様子を窺っていた。


 いやギャグみたいだけどギャグじゃないんだよこの頭。

 神父様も言っていたように自然物の中に丸いものやら直線の物体があるのは目立つ。

 逆に言えば隠れたいならそこを何とかしなければならないわけだ。


 そこで手っ取り早いのが、ロイスさんがやってたみたいに自然物でそのまま体を覆ってしまう事。

 なのでこの一見間抜けな頭から草生やしているスタイルも偽装として大きな効果を発揮する……らしい。


「……くそっ。全然分からねえ」


 口の中で反芻するように小さく文句を漏らす。

 何故さっき「らしい」と述べたかというと、現在訓練相手となっている神父様相手に効果が全く実感できないからだ。

 逆に神父様はあの黒尽くめ状態なのに全く発見できない。


 何であんな目立つ人が完全に隠れられるんだよ。

 最初に見つけたアレやっぱり加減してたんだな。

 本気を出したらこれほど発見が困難になるとは。


「――そこだ!」


 不意にガサリと派手に草葉の擦れる音が聞こえて、半ば反射的にクロスボウを構えて引鉄をひく。

 さっき危ないから人に向けるなと言われたばかりだが、神父様相手なのでノーカンらしい。


 というか俺が心配して「当たったらどうすんですか」と聞いたら「当たっても死なないので大丈夫ですよ」と言われた。

 そこは「当たらないから大丈夫」じゃないのかよ。というか当たっても死なないって頭や心臓でもですか。

 神父様不老不死説が補強されてしまった。


「残念ハズレです」

「はぶぅっ!?」


 そんなわけで遠慮なくクロスボウの矢を叩き込んだのだが、狙いとは明後日の方向から声がして俺の横っ面に投擲された布の塊が着弾する。


 布と侮るなかれ。

 何せスケルトンを片手で地平線まで殴り飛ばす神父様の腕力で投げられたものだ。

 痛くはないけどなんか当たったとこから衝撃が広がって頭がくらくらする。


 いやどういう技術だよ。

 布で人殺す訓練でもつんでるのか神父様。


「ふーむ。このままでは駄目そうですね」


 そんなわけで布玉くらってノックダウンした俺の所に、何やら考える素振りを見せながら姿を現す神父様。

 確かにさっきから手応えが全くないというか。

 明らかに神父様手加減してるのに一方的に攻撃されてばかりだ。


「レオン。普段から言っていることですがよく考えなさい。私が攻撃しているのは貴方が見当違いの方角を撃ってからですよ。何故そのタイミングで攻撃しているのだと思いますか?」

「えーと……次の矢を装填するので隙だらけだからですか」

「分かっているのなら何故軽率にぽんぽん撃っているんですか貴方は」


 わー、いつも通り優しい口調だけどこれ結構本気で呆れてるときの声だ。

 やべえ。確かに考えなしに撃ちすぎたかもしれない。

 このままでは神父様の扱きがさらにハードになってしまう。


「いえ分かってはいたのですが。貴方は集中力と忍耐力が足りませんね。こういった索敵と射撃戦には一番向かないタイプです」

「嘘ぉ!?」


 まさかの向かない発言。

 いや確かに近寄ってぶん殴る方が分かりやすくていいなとは思うけど。


「ですがそのままにもしておけません。戦場で焦りは禁物です。とりあえずは視認してないのに音にだけ反応して撃つのは控えなさい」

「はい」


 要は確実にいると分かってから撃てと。

 そう自分に言い聞かせ改めて訓練に臨んだものの、今度は慎重になりすぎて判断が遅れることが多数。

 最終的に木の影から少し出ている神父様の黒い頭を見つけ、一瞬「え? マジで本物?」と疑った後に射撃。

 同時に放たれた神父様の布玉で矢を止められ「少し遅いですが、まあ及第点でしょう」と合格をいただいた。


 いや何でクロスボウの矢の勢いを手で投げた布で相殺できんの!?



「さて。付け焼刃とはいえ索敵はそれなりにモノになってきましたが」

「アンタにしては早かったわね」

「どういう意味だコラ」


 場所は変わっていつも勉強を見てもらっている教会の一室。

 ヴィオラに喧嘩を売られたので全力で買おうとしたが、神父様がすっごい笑顔で見てくるのでやめる。

 ヴィオラもやっちまったと思ったのか口を真一文字に結んで背筋を伸ばしている。

 いやこの人ホントに笑顔で怒るから恐いんだよ。


「……レオンに課題を二つ与えます。まず私は最初に今回の敵を単独のゴブリンであると推測しましたが、恐らくそれは間違いです。ではどこが間違いなのか」

「単独じゃない?」


 あれ? でもそれなら弓撃ってるやつ以外のゴブリンが隙をついて接近してくるって言ってたよな。

 まさかゴブリンじゃないとか?


「もう一つ。このまま貴方がクロスボウで戦うなら圧倒的に不利です。その理由は先の理由とも重なりますが、ではどうすれば対等、あるいは有利に戦えるのか。この二つについて考えなさい」

「単独のゴブリンという推測の間違ってる部分と、どうすれば俺がクロスボウで対等に戦えるかですね」

「その二つが分かるまでは挑むのは禁止です」

「え? でもほっといたら危なくないですか?」

「ロイスたちが訓練がてらに監視しながらおちょくっているので大丈夫ですよ」

「ええ……」


 動きが緩慢なスライムやスケルトンと違って、ゴブリンを野放しにするのは危なくないかと聞いたら予想外の答えが。

 これ殺されかけた俺が弱すぎるの?

 村の自警団の練度が異様に高いの?

 どっち?


「まあ仮に分かっても今の訓練は一週間は続けますよ。覚悟しなさい」

「げぇ!?」


 自分でも向いてないと分かってる訓練をしばらくずっと。

 気が滅入るが苦手だからこそ頑張らなければならないだろう。

 そう決意する俺を見てヴィオラが「そういうところは真面目なのね」と見直した感じで言っていた。

 だからおまえは何で年下なのにそんな俺について達観してるんだよ。

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