表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

9 共闘

幸いにも俺は周囲の木々や、その根などで頭や体を打たずに済んだ。

そして、自分がひっくり返っていると理解した俺は、慌てて周囲を確認する。


いた。


見れば胸から短い槍を生やしたウサギが、ふらつきながらも、たって俺を観察していた。

俺の攻撃で、槍がウサギの胸を貫通したのだろうか。


俺は身を起こそうと体を捻る。

何か硬いものが触れた感触があった。

見れば、それは少し短くなって穂先を失った槍だった。


貫通したのではなく、槍が深くつきこまれる前に、処理されたようだ。

おそらくは、首の動きで耳を振り回し、その力で胸に刺さった槍を切り落としたのだろう。そして、その直後に俺に向かって何かの攻撃を仕掛けてきたと思われる。


ウサギは俺を睨みながら、胸に生えた槍を前足で引き抜いた。


「マジか、器用なやつだな」


そして、再び小さく跳ね、体を小刻みに揺らす。

左右の足の前後を素早く入れ替えて、構えも瞬時に左右入れ替わる。

時折、ウサギの膝が跳ねる。

その動きは、まるで何かの格闘術かのようだ。

左目と胸の傷から血を流し、それがウサギの白い体毛を赤く染めていくが、それでもウサギは、飛び跳ね体をゆすり俺を威嚇する。


「耳だけでもとんでもねえのに、格闘技までやるとは、おっそろしいウサギだな。やっぱり魔物なのか」


ウサギが俺に向かって、走りこんでくるが、先程までの動きに比べれば、大した速度ではない。

攻撃は耳か、それとも……。


ウサギの顔が俺の目前に迫る。

耳を除いたウサギの身長は、それほど高くない。なのにウサギの顔が高所にあるという事は、ウサギが俺のすぐ前で飛び上がっていたという事。


耳攻撃?

とっさに頭を下げた俺の顔面に白いものが迫る。


「しま、ぶべらっ」


ウサギの飛び膝蹴りが、俺の顔面に突き刺さり、俺は吹き飛ばされて再び転がされた。


痛い、痛い、痛い、顔面が猛烈に痛い。

その上、鼻が潰れたのか、うまく呼吸できない。

口のなかも切れたらしく、血の味が広がっていく。


「ぶべっ、ひょがぁぁ、あぁあぶ」


俺は口の中に広がる液体を吐き捨て、口から荒く息を吸い込んだ。

そして、どうにか身を捩り、ウサギを探す。


涙で、ぼやけた視界の中、何かが動く。

はっきり確認できなかったが、それでも体は無意識に動いた。

とっさの行動という奴だろう。

俺は迫る物体に向かって、石斧を薙いだ


だが素人の攻撃が、そう都合よくあたるわけもなく、俺は石斧を空振りして転び、ウサギらしき白い影も視界から消えた。

そして、俺の腹を衝撃が襲う。


「ぐあ」


靴の様な硬さはないが、それでも強烈な蹴りが俺の腹にあたり、俺は三度吹き飛ばされた。

鼻がつぶれたせいで、呼吸がままならない。

裸で転がされたせいで、身体中に切り傷ができ痛みがはしる。

満身創痍。

俺は身動きすらできなくなり、自分の死を予感した。




だが、そこでウサギの攻撃が止まった。

ウサギは俺が動けないと判断したのか、俺に構わず先程の野菜を食べ始めた。

俺は唖然としながら、その様子を眺める。


…………。

まさか餌が盗られると思って攻撃された?

理由はわからないが、ウサギの注意がそれたので、俺は急いで包帯を巻く。

鼻と口を包帯で巻くと、多少呼吸が楽になった。


結局ウサギは、腹が減っていただけなのだろうか?

観察していた俺の前で、急にウサギが立ち上がり耳を広げた。

何というか、その姿から物凄い怒りが伝わってくる。


すんません。包帯巻きましたけど、ほんの少し回復しただけです。

もう戦えないので、見逃してください。


あ~短い異世界生活だった。


そんな風に考えていた俺だったが、しかし、ウサギの顔は俺に向けられてはいなかった。

ウサギが見つめる先は、暗い森の先。


やがて森の中から、嫌な気配が伝わってきた。

おかしいなあ、俺には霊感なんてなかったはずなのに、ウサギの怒りとか嫌な気配とか、見えないものが感じられるなんて、俺は異世界で新型人類に目覚めたのかな。



そうやって、俺とウサギが凝視する中、森の中から裸の人間が現れた。


いや、人間といっても体の各パーツの数が同じなので、そう見えただけで人ではない生き物だろう。その生き物は、足に比べて手が長く体形的には、人というより猿に近いだろうか。

だが、目は蛇か魚の様に眼球が丸見えになっているし、見る限りその体には体毛らしきものが見当たらず、灰色の体を晒していた。

ちなみに股間には、何もぶら下がっていないように見える。


俺は理解した。

おそらくは、この異様な生物が魔物だ。


魔物は口元からよだれを垂れ流しながら、ゆっくりと近づいてくる。

それに対して、ウサギが全身の毛を逆立てて身構える。

ウサギが動物か魔物か、未だ判断つかないが、この魔物は間違いなく、俺にとってもウサギにとっても敵のようだ。


俺はゆっくり身を起こすが、動き回ることは無理そうだ。

俺は弓を取り出して、いつでも射られるよう心掛ける。

まだ魔物に向かって構えはしない。

だって、敵対行動とみなされて襲われたら、確実にやられるから。

それに、幸いにもウサギが戦う気のようだから、上手くすれば共倒れしてくれるかもしれないし、隙をついて魔物を射ることができるかもしれない。

希望的観測ってやつだとはわかっているけど、ウサギが頑張ってくれれば、望みがあると思う。

ウサギが俺を見る。

ウサギが俺の様子に何を思ったかわからないが、特に俺を警戒するわけでもなく、すぐに視線を魔物へと戻す。

そして、例の小刻みに体を動かす動作で、臨戦態勢に入って魔物と対峙する。


「うさ!」


ウサギは一声上げて駆けだし、魔物との距離を一気に詰めて肉薄する。

対して、魔物もまた距離をつめる。


魔物の長い腕が振るわれ、ウサギを薙ぎ払おうとするが、ウサギは跳躍してそれをかわすと、魔物の顔面目掛けて連続踏みつけキックを放つ。


ダダダダダダダ


ウサギが魔物を踏みつける音が、連続して響く。

顔面上で高速の蹴りを繰り出しているようだが、あまりの速さにウサギの足の残像が何本も見えた。

それを見た俺は思わず『漫画かよ!』と叫びかけて、慌てて言葉を飲み込む。

いけないいけない、無駄に声をあげて、魔物のタゲを取ってしまったら大変だ。

悲しいけど俺、戦力外なのよね。

情けないが、今はウサギに頑張ってもらって、俺がタゲを取ることなく、魔物の隙をついて、あわよくば仕留めたい。



だが、負傷して血を流し過ぎたのか、次第にウサギの動きが悪くなっていく。

長引くと、ウサギがやられて、俺が一人であの魔物と戦うことになりかねない。


俺は、石を手に握る。


「ウサギ」


小声で一声かけて、俺は昨夜仕掛けた落とし穴の一つに向けて、石を放る。

ウサギがピクリと耳を動かして、俺の方に視線を向けてきた気がした。

魔物の方は特に反応を示さない。

俺を脅威とは見ていないのだろう。

実にありがたい。


周囲には、既に作動済みの落とし穴があるので、それを理解することができれば、ウサギは俺の意図に気が付いてくれるだろう。

ウサギ相手に何をやっているのかと、思わなくもないが、しかし、俺の思惑を理解できる程度には、あのウサギが賢い気がしたのだ。


幸いにして、ウサギは俺の思惑通り、徐々に戦いの場を移しながら、俺の仕掛けた落とし穴へと近づいてきた。


魔物がウサギに攻撃を仕掛る。

ウサギはそれを避けようとするが、よろけてしまい魔物の一撃を受ける。

魔物の攻撃を受けたウサギは、一旦下がって距離を取るように移動する。

その先には落とし穴。

魔物が追撃をかけるようにウサギに迫り、ウサギが慌てて逃げにかかるが、この動きはフェイクだ。

ウサギは落とし穴を飛び越え、そこで再び身構える。

魔物は構わず突っ込んでくる。


かかった。


そう思った瞬間、魔物は長い腕で地面を突き、落とし穴どころかウサギすら飛び越えると、向き直って背後からウサギに襲いかかる。




が。


ズボチャン


そんな音を立てて魔物の片足が、俺の掘った小さな穴、つまりは水たまりにはまった。

片足が完全に穴にはまった魔物は、勢い余って倒れこみ体を地面に打ち付ける。

それでも、慌てて顔をあげてウサギを確認しようとした。


ここだ!


俺は、弾かれたように弓を構えて、魔物に向けて矢を射た。


「ギャアアアアアア」


それは、狙い違わず魔物の大きな眼球を貫き、魔物の叫び声を森に響かせた。

魔物が俺を睨みつける。

眼球を射抜いた俺へと、強い怒りと殺意が向けられてくるが、それは、ウサギへ注意が疎かになった瞬間であり、決定的な隙となった。


ザシュン


直後そんな音を立てて、ウサギの耳が魔物の首を跳ね飛ばした。


「た、助かった」


俺の漏らしたつぶやきを、ウサギの耳が拾い、ウサギが俺へと顔を向けるが、その雰囲気は穏やかなものに感じられた。


俺は野菜の缶詰を取り出すと、ゆっくりとした動作で木の器に野菜を盛り、ウサギへと向き直る。

ウサギへの警戒もあるが、それ以上に体がふらつくので、ゆっくりと移動する。


「助かった。食ってくれ」


もしウサギが逃げていれば、俺はどうすることもできずに、あの魔物によって殺された。

成り行きとは言え、ウサギのおかげで生き延びたようなものだから、礼の気持ちを込めて野菜を提供させてもらった。


そして俺は、小屋へと入り寝台に倒れこんだ。




それから、どれほど経ったのだろう。

俺が寝ていると、何者かに肩を叩かれた気がした。


本来この異世界で、俺を起こす存在など居ないのだが、連日の戦闘で疲弊した寝起きの俺は、本当に思考力がなかったのだろう。

寝ぼけた俺の目前に、突き出されたそれを見て、俺は缶詰めを取り出し乗せた。

おそらく『ああ、餌がないのか』と思ったのだろう。

昔飼っていた猫も、寝ていると良く起こしに来たので、その時と同じ反応をしたのかもしれない。


そうして、木の器に缶詰をのせ、そして再び意識を手放した。


「…………ん~? ………………あれ、何か変なことがあったような?」


眠りから覚めた俺は、何か妙な引っ掛かりを覚えて、寝る前の事を思い出し考える。

酷く衝撃的で、濃い体験だったけど異常な事は…いや、異常といえば全てが異常だけど、そうではなく…。


考えこむ俺の目に、粗末な木製家具と白と赤黒の二色の塊がうつる。


「う、ウサギ!何故俺の寝台で寝ている?!」


よくよくあたりを見渡せば、俺は床で寝ころび寝台はウサギに占領されていた。


「……うさ?」


「うさじゃねえ、ウサギ、何でここにいる?」


ウサギはしばし俺を見つめ、首をかしげる。

あ、こいつも寝ぼけているな。


「…! うさ」


そして、ウサギは何かに気が付いたように叫び、自分の前に木の器をおいて、寝台をタシタシ叩く。


木の皿には、缶詰がのっていた。

未開封のまま…だけど、ちょっと缶に歯形が付いて、汁が浮いていた。


そして、ウサギは缶のパッケージを俺に見せ、タシタシ缶詰を叩く。

その缶には、非常に肉肉しい絵が描かれていた。


「あ~すまん。寝ぼけていたから確認しなかった。わかった、違うのを出すから許せ」


そして俺は別の器を用意して、野菜を盛りつけてウサギに出してやる。

肉は…もったいないから食うか。

ウサギが齧った缶だというのはちょっと気になるけど、捨てられるほど余裕はないからな。


「つーか、お前よく食べるな。燃費悪すぎじゃないか?」


確かに草食動物には凄く食うやつもいるが、この調子で食われたら俺の飯が無くなる。

というか、俺は何でこいつにそこまでしているのだろうか?

でも何故か食わせることに、抵抗を感じないのだよな。

命の恩人補正か?





マルス大陸生物図鑑:ボールドエイプ


かつて混沌の種から生まれたとされる邪なモノの一種。

強靭な指と爪を持ち、人や動物を引き裂くのが趣味という魔物。

雄のみ存在するが、通常は生殖器を体内に収容している。

体毛はなく、体色は灰色をしており、一見瞼がなく眼球が露出して居るように見えるが、これは露出して居るのではなく、透明な膜に覆われているからで、地球の地上生物では、蛇の瞼が最も近いだろう。

それなりに知能は高いが、野生動物にはない加虐趣味を持つため、食欲に関係なく生物を見れば襲わずにはいられないという、非常に危険な魔物。

なお、肉は食用に適さない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ