3 準備
「つまり、俺は健太郎に騙されて、日本で殺された上に異世界に連れてこられたってことか?しかも、一方的な不満が原因で」
健太郎の孤独や、ここでの辛さが想像できなくはないが、それで殺された俺としては何とも言い難い。ただ、ここで繋がった電話で聞いた謝罪の理由だけは理解できた。
理解はできたが、とりあえず一発殴ってやりたい。
健太郎のゾンビ……すでに抜け殻かもしれないけど、奴が迷い出てきたら俺がきっちり引導を渡してやろう。
「さて、状況は理解できたけど、やっぱりここはそれなりに危険なようだから、防衛拠点を構築したいところだけど、今からどれだけの資材を集められるかな」
ラノベのように便利な魔法があれば、ここで土魔法を使って砦をドーンと建てて、防壁をズゴゴゴオと立ち上げていっちょ上がりなんだが、あいにく俺が遊んでいたゲームにはそんなものはない。
俺の遊んでいたゲームにあったスキル的なものを一言でいえば『クラフト』能力だ。
ゲームキャラとしては、運動能力は現実の常人よりは高いかもしれないが、勇者やヒーローのような超絶パワーや魔法などは使えない。あくまでも小器用なサバイバーという常人枠の存在だ。
…たぶん。
「まずは、焚火を複数作りたいが、その前に装備の設定だな。」
俺はBPから取り出した玉石を、GUIに表示された装備品スロットの1番に設定し、続けて石をスロット2に設定して、ナイフをスロット6に設定。
「スロット1…スロット2…で、6っと」
俺のつぶやきに応じて右手に玉石が現れ、それが投石用の石やナイフと入れ替わる。
6番は最後のスロットだが、俺はいつもここにナイフを入れていたので、同様の設定にした
1~5は他の武器が手に入れば、状況に応じて入れ替えるつもりだ。
「確か、かまどの残骸が、草むらにあったはず…」
周囲を軽く探してかまどの残骸を見つける。
そして徐に玉石でかまどの残骸を壊してばらばらにする。
「石材はこれでよいだろう。次は木の枝だな」
俺は玉石を両手で抱え、近くに生えた樹木の幹にたたきつける。
ゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツ
ゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツゴツ
めきめきめき
「た~おれ~るぞ~」
周辺に誰かいるわけでもないが、様式美として声をあげておく。
ドーン
やがて木は倒れ、そこには4本の丸太と、いくつかの枝と木の葉が残された。
「大体30回ぐらい殴って倒れるのか。さすがに玉石だと時間がかかるな」
現実の常識で考えれば、石で30回殴ったからと言って木を切り倒すことはできないし、ましてや倒した木が均等な長さで四つ切になる事はない。そのうえ、枝が全部取り払われた丸太に加工済みというご都合設定だったりするが、まあゲームだったのでそんなものだろう。
これで小器用な常人と言い張るのは無理があるかもしれないけど、他のゲームに比べればどうと言事もないよな。
「便利なのだけど、枝のほとんどが消えてなくなるのは、きついな」
普通なら、樹木一本からはトラックに積む量の、枝が取れるものなのだけど、ゲームの都合上回収率が悪いのが仕様だから、こういう時はちょっと不便だな。
俺はかまどから得た石や、枝と木の葉、丸太を二本拾いBPに入れ、丸太二本を肩に担いで小屋へと戻る。
何故か丸太は軽かった。
かまどの石のかけらは、そこそこ重かったので、俺の筋力というよりゲームで担いでいたという設定に、則した結果なのかもしれない。
「GUIで操作もできるようだけど、ここは異世界。折角だし魔法の呪文っぽくやってみるかな。え~と、焚火の材料は…」
焚火は明かり・松明用の火種・調理用の熱源として利用できる便利なアイテムで、枝6・草4・マッチ1で作成できる。材料としては決して多くはないが、マッチを使い切ってしまうとその作成にひと手間かかるようになるが、今はまだその心配はいらないな。
俺のクラフト宣言に応じて、GUI内に焚火のイメージが表示される。
俺が視点を動かすと、イメージも同じように動くので、設置したい場所へイメージを重ねて設置を念じる。すると接地地点には赤い文様が浮き上がった。あ、この文様俺の右手のみみず腫れと同じだけど、何か意味あるのかな?GUIはゲームとよく似ているけど、この文様はゲームにはなかったものだから、この世界のオリジナルだと思うけど、一体何だろうか。
文様の輝きが消えると、願い通りに焚火が完成する。
俺は続けて言葉を紡ぐ。
「着火」
地球の常識なら新聞紙などで火種を作らないと、マッチが何本あっても足りないものだが、このクラフトではマッチを擦る必要がない。ただ着火という工程を経ればマッチが一本消費されて、焚火に火が付くという結果が残る。そして火のついた焚火は一定量の攻撃を受けない限り、放置していても決められた時間燃え続ける。
続けて木の枝5とかまどで手に入れた石2を消費して、武器を作成する。
「クラフト 石斧」
再び材料が発光して、そこに武骨な石斧が一つ現れる。
石と柄がどうやってつながっているかといえば、つるはしやトンカチのような貫通方式なのだが、現実ではこの貫通穴を石にあけるだけでも一苦労なだけに、一瞬で完成するのは大変ありがたい仕様といえる。
「おっし、石斧でゴンゴン行くぜ」
コーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーンコーン
めきめきめき
うん、石に比べてかなり早いね。
「この調子であと10本ぐらいやって、次はあの辺の雑草をむしるか」
畑の跡地にはイネ科の植物の様に背の高い雑草が生えていたので、それも材料にするつもりだ。
そうして最低限の材料を集めた俺は、防衛のためのトラップを作り始めた。
「似た世界っていうけど、実際にはどんな感じかなあ。走れる系ゾンビとかバイオなミュータントとか出てこられると嫌だな」
この世界は環境がゲームに似ているだけで、ゲーム世界ではないし、俺が遊んでいたゲームキャラクターの能力が、この世界でどこまで通用するのかもわからない。
その上VRじゃなくて、リアルに俺自身が戦うわけなので果てしなく不安だ。
「よし、弓を作ろう。遠距離なら少しは楽だろうからな」
「クラフト 棒(小)」
俺の集めた枝の小山がひかり、その頂上から棒が一本転がり落ちてきた。
うん。枝一本消費して棒が一本できた。
「クラフト 棒(大)」
さらに棒(小)を三本消費して棒(大)を作る。
「クラフト 紐」
先ほどむしり集めた稲っぽい雑草がひかり、園芸用の麻縄のようなものが出来上がる。
そして棒(大)と紐で。
「クラフト 弓」
ワークベンチがあれば、もっと高品質な弓を作成できるが、残念ながらワークベンチを作る材料がないので、今はこの弓しか作れない。
「クラフト 棒の矢」
棒の矢は棒(小)一本で、棒の矢一本を作れるが、文字通り棒でしかない。
一応先端は尖っているけどそれだけだ。
「クラフト 石の矢じり…おお、一度に六個できた」
矢や矢じりは消耗品なので、玉石ほどの大きさのかまどの石で、石の矢じりが六個作成できたのはありがたい。
「クラフト 石に矢……あ、矢羽に使う羽がない。棒の矢はダメージ量がなあ~」
石の矢じりや骨の矢じりは石器時代にはあったようだから、裏を返せば何の工夫もない棒の矢は、古代人にもしょぼいとわかる代物といえる。
「無いものは仕方ないか。できるものを作ろう」
枝を使って作れるだけ棒の矢を作って、次の物を作ることにする。
途中チョコバーをかじり、少しだけ水を飲んで作業を続ける。
「クラフト 丸太防壁」
焚火同様GUIに表示されたイメージをもとに、防壁を立てていく。
丸太防壁は、その名の通り丸太だけで作られている防壁で、丸太を地面に隙間なく一列に並べて突き立てたものとなっている。一セットで四本消費するが、これはさすがに一瞬とはいかず、イメージの場所に丸太を運んで、組み立てていく必要があるのだが。
BPから出してイメージに向かって投げるだけで、防壁が出来上がっていく。しかも四本で丸太七本一組の壁になるという謎仕様。
「……一瞬で防壁が出来ていると、言えなくもないけど地味だな」
「クラフト 丸太防壁」
「クラフト 丸太防壁」
「クラフト 丸太防壁」
「クラフト 丸太防壁ドア付き」
ドア付きにすることで、防壁に入り口を作ることができる。
ドアの開閉もスイングと押戸引き戸の三種類を設定することができる。
「クラフト 丸太防壁」
「クラフト 丸太防壁」
「クラフト 櫓」
櫓は監視台のようなもので、防壁より一段高いところに監視用のスペースが設けられている。
「クラフト 丸太防壁ドア付き」
「クラフト 防御扉」
防御扉は日本の城などにある丈夫な二枚扉と緊急用の落とし戸が選べるが、ここでは落とし戸を選択
「クラフト 焚火」
「クラフト 焚火」
「クラフト 焚火」
「クラフト……」
俺は防壁で囲った空間の中に、焚火を大量に設置していった。