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4.前世①

ヒロイン=アリスの前世

アリスの前世の記憶は、学級委員長を務める男子生徒の爽やかな笑みから始まった。


「初めまして。君が転入生の○○嬢だな。僕は学級委員長の○○。初めてのことばかりだろ? 何でも頼っていい」


握手のために手を差し出してきた委員長を見て、転入生の女子生徒が真っ先に思ったことは、「なんでこの人動いてるんだろう……」であった。


「……?」


いつまで経っても握り返してこない女子生徒に委員長が戸惑っている気配を感じ、「あ、はい。ありがとうございます」と彼女は慌てて答える。


そのまま校内を案内してくれるというので、ありがたくその申し出を受け、委員長について行く。普段使う教室や図書館、食堂、実験室、運動場……主要な施設を順々に回って行く度に、女子生徒は既視感を覚えていた。

なんで初めて来たはずなのに見覚えがあるんだろう、と首をかしげる回数も増えていく。


女子生徒の疑問は膨らむばかりだったが、ある生徒に遭遇したことで一挙に解決する。


「ここは上級生専用の寮なんだ。下級生は許可がないと入れない。って、おお! 見てみろ。騎士団長子息の○○様だぞ!」


委員長が、まるでアイドルにあったようなテンションではしゃぐ。どんな人かと目線を向けた女子生徒は、目が零れ落ちそうなくらいに見開いた。

懐かしい声が頭の中で響く。


『○○様が私の推しメンなの! 頼れる兄貴分で、最初はヒロインを妹みたいに思ってるんだけど、だんだん異性として意識していくようになってね。ほら、このスチル見て!! 集めるのにすっごく苦労したんだけど、その甲斐がある神スチル!! あ、でもこっちも良くって。こっちも――』


女子生徒――もといヒロインは、膝から崩れ落ちそうになるのを何とか耐えた。

既視感があるわけだと、騎士団長子息を睨むように見つめながら息を吐く。


「ゲームの世界……? まさかね……」

「え? 何か言ったか?」

「……いいえ。何でもないです」


委員長にヒロインの呟きが聞こえていたらしい。彼女はぎこちなく微笑んで首を振った。

お礼を言って寮の自室まで戻る頃には、ヒロインは果てしなく疲れていた。



*****



結論から言うと、この世界は親友がハマっていた乙女ゲームの世界で間違いないようだった。

あのあと、校内案内が進むたびに見覚えのある攻略対象に遭遇したのだが、委員長が説明してくれる彼らの情報は、かつての親友が目を輝かせて語っていた内容と同じだったので、もう認めざるを得ない。


しかし、自分が頼み込まれてやったあのゲームではなく、散々スチルだけを見せつけられた他のゲームの一つだったのは意外だった。

静止画であるスチルしか見たことがなかったから、「なぜ動いているのか」と訳の分からない疑問が浮かんだのかと納得する一方、やったことのないゲームを思い出せるくらい親友に見せられていたんだな、と遠い目になる。


まあ、この世界が乙女ゲームで、自分がヒロインだと分かったところで何ができるわけでもない。スチルを散々見せられると同時にストーリーも散々語られたが、ストーリーに関しては上手く聞き流していたので、ほぼ覚えていないのだ。

攻略する気なんてさらさらないし、分からないことを考えたって意味がない。


そんなことより、ヒロインは友達が一人もいない問題の方が深刻だった。

せっかく学校に通うなら、友達と楽しい学校生活を送れた方が良いに決まっている――が、正直不安しかない。

なぜなら、平民としてごく普通の生活を送っていたヒロインが、膨大な魔力を有していることが明らかになり、貴族である男爵家に引き取られて魔法学校に転入した、という設定を思い出したからだ。


委員長と話していて分かったことだが、魔力持ちはたいがい貴族であり、平民は非常に珍しいということだ。委員長に連れられて物珍しそうに校内を見学していたヒロインは、ときどき他生徒からの冷たい視線を浴びたような気がしたが、あれは気のせいじゃなかった。

元平民という、にわか貴族であるヒロインの存在が気に喰わない者達がいるのだ。


「友達作り、最初っからハードモードだなぁ」と、ヒロインは溜息をついてベッドに寝転がる。前世も今世も庶民として生きてきたのに、貴族ばかりの学校で気の合う人間なんて見つかるのだろうか。


陰気くさくなりながら、しばらくゴロゴロと転がっていると、ふと思いついた。


スチルを見ただけの自分が乙女ゲームの世界に転生してるのだから、やり込んでいた彼女も転生しているかもしれない。


もしかしたら再会できるのではないか、また友達になれるのではないか。


ヒロインの沈んでいた気持ちが浮上する。

可能性はゼロではない、くらいの低さだろうが、彼女の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

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