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28.5 幕間(Side キャシー)

年末の貴重なお休みに読んでくださってありがとうございます。良いお年をお過ごしください。



キャシーの両手には山ほどの荷物が抱えられている。どれもこれも全てアリスのものだ。

アリス達と別れてから、愛しの彼女に似合いそうなドレスや生地、宝石を探しまくっていた。これぞというものがあれば直ぐさま店主と交渉し、質の良い品をあの手この手で獲得してきたキャシーだったが、ついにその足を止め――


表のめぼしいところは粗方見れたかしらね。

じゃ、次は裏ね。


なかった。


今度は少しばかり治安の悪い裏道にも足を伸ばす。アリスに万が一のことがあってはいけないので、彼女と一緒にいるときは決して入らない場所だ。

奥過ぎると入手経路不明のヤバイものが出回っていることもあるので迂闊に手を出してはいけないが、表に近い場所ならば比較的安全なものが多く、掘り出し物が見つかることもある。


秋冬に向けて今から凝りに凝りまくったドレスとケープを作りたいのよね……って、さっきのお店で諦めたロッククリスタルじゃない!? しかも、えぇ!? 嘘でしょ? この値段なら星空のように散りばめられるじゃないの!! 


キャシーは脳内で財布を開く。


いただいた軍資金はまだ余ってる……わたしの左手の小指も余ってる……いける!


キャシーがカッと目を見開き、勇んで店のドアを開けようとした途端、いきなり誰かにぶつかられた。


「あ~~~~~! クソッたれ!! ふざけんなぁぁぁ! 全額パァじゃねぇぁぁぁ!」


どうやら裏道の奥の方にある食事処から出てきた客のようである。酷く酔っていて、身体中からアルコールの臭いをぷんぷんさせている。キツい臭いにキャシーは鼻を摘まみたかったが、あいにく両手が塞がっていて叶わず、思いっきり顔を顰める羽目になった。


「てっめぇ逃げてんじゃねぇよ! 賭けてた金俺に寄越せや!」


酔っ払いの男を追いかけてきた男も相当飲んでいるらしく、不快な臭いが二倍になる。会話を聞くに、どうやらこの酔っ払い達は剣聖杯の決勝戦で賭け事をしていたようだ。


剣聖杯という王家主催の神聖な試合に対して賭け事をしたとバレたら厳罰ものだが、悲しいかな華やかな王都の裏側では賭け事など日常茶飯事であり、いちいち指摘するような人間もここにはいない。


酔っ払い達は喚きながらどんどん表の通りの方へ向かっていく。ぶつかられたことは不快だったが、関わり合いたくはないし、今はとにかくロッククリスタルを手に入れねばと、キャシーは再びドアに手を伸ばし、気づく。荷物が一つ足りない。


「えっ。嘘でしょ!? 粘りに粘って店主にとっておきの輸入品を出してもらったのが、無い!!」


本日一手強かった店主からもぎ取った戦利品だったので、キャシーの顔色が瞬時に悪くなる。

バッと振り返ると、酔っ払いの片割れの足に引っかかっており、男はそのまま引き摺ってふらふらと歩き続けている。


なんってことしてくれてるのよ!?


キャシーは男を殴り飛ばして昏倒させたい衝動に駆られたが、酔っ払い達はもうすぐ表の通りに出てしまう。人目が多すぎるので、遺憾だが昏倒作戦は却下とした。

代替案として魔法で荷物を外そうと試みるが、千鳥足の男から外すのはなかなか難儀で上手くいかない。そうしているうちに、男達は表通りに出てしまった。


「銀貨一枚だぞ! どこまで逃げる気だ!」

「うるせぇんだよぉ! そんな金持ってるわきゃねぇだろうがぁ!」

「はああ!? 何言ってんだてめぇ!?」


男達はとうとう殴り合いの喧嘩を始めてしまった。なんだなんだと野次馬が集まってくる。ヒートアップする二人の喧嘩に、祭で浮き足立っている野次馬が囃し立て、まともな人間は関わらないように避けるので、誰も止める者はいない。


やっと取れたわ!!


キャシーは十二回の奮闘の末に、やっと男の足から荷物を外すことに成功した。さぁ店に戻ろうと戦利品を小指に引っかけたキャシーは、闘技場から人が流れてくるのが見えた。


あら、試合が終わったの? アリス様と合流しなきゃ。


ファウストから借りた使い魔がアリスの無事を定期的に報告してくれていたが、少し時間がズレたらしい。キャシーが気づくのと同時に、たった今使い魔から連絡が来た。


ああでも、惜しいわロッククリスタル……! 全部こいつらのせいよね!! 腹立つ!


キャシーはこっそりと魔法を使い、男達を転ばせておいた。周りは本人達が足をもつれさせたと思うだろう。キャシーは少しだけ溜飲を下げ、颯爽と闘技場へ向かった。


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