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19.お待ちかねの魔法講義



「じゃー、始めますね。分かんないとこあったら質問受け付けますんで!」


「はいっ。よろしくお願いします!」


先程アルバートに謝罪ができたアリスは、すっきりした気持ちで授業に臨めている。アルバートはわざとこのタイミングで指摘してくれたのだろう。そうでなければ謝るタイミングをずっと逃していたかもしれない。謝れて良かった。


「まず初歩の初歩である“魔力”ですが、これは魔法を使うために必要な力のこと。生物は多かれ少なかれ必ず自身の体内に魔力を保有しています。単純に魔力量が多い人間というのは価値が高いとされ、どこにいっても重宝されます。まあその魔力を使いこなせなけりゃ意味ないんすけど」


思ったよりも真面目にやってくれるんだな、とアリスは耳を傾ける。


「“属性”については知ってます?」


「はい。火・水・風・土・光・闇・無・聖の八属性があり、人は誰しもどれかしらの適性属性を持っていて、自分の適性属性と同じ属性の魔法が一番扱い易く上達も早い。火・水・風・土の四属性適性者が一番多く、光・闇・無は希少、聖属性はその時代に一人いるかいないかというレベル……と記憶してます」


「一個惜しい。無属性だけは、魔法としての分類はあるけど、無属性の適性者ってのはいないんすよ」


ああ~そうだった! 悔しいっ。


「でもすごいっすよお嬢! そこまでスラスラ答えられるとは思ってませんでした」


ファウストはパチパチと拍手して続ける。


「光、水、風、土、火、闇の順に並べて、自分の属性から遠いほど習得が難しくなります。光と闇魔法はそもそもの習得が難しいので、水と火の属性適性者でも風や土魔法よりずっと習得し辛い。聖魔法は唯一、聖属性適性者でないと習得できない特殊な属性で、無属性は単純に個人の得手不得手に委ねられます。

努力で適性属性から遠い属性の上級魔法を習得した人もいなくはないですが、普通はいくら鍛錬したところですぐに頭打ちになって、時間を無駄に消費することになる」


「つまり、魔法を習得するにあたって、伸ばすべき属性を最初に知っておくことが大切ということですか?」


「大正解! お嬢っていくつでしたっけ? 子どもと喋ってる気がしないな。すごく進めやすい」


「え、えへへ……」


人生三回目ですから~と言えるわけもないので、素直に褒められておく。


「次に魔法の種類ですが、攻撃魔法、防御魔法、治療魔法、補助魔法、の四つに分類されます。前者三つは名前のまんまなので説明省きますね。補助魔法はどういうものか分かります?」


「はい。ブーストの役割を担った魔法です。防御魔法で張った結界をより強固なものにするとか」


「お、正解。あとは肉体に直接魔法をかけて、身体能力を向上させることもできますよ」


ファウストの言葉に、アリスの目がキラリと光る。


「そ、それって、例えば女性が使ったとして、男性と同等の腕力や体力を手に入れることもできるのですか?」


「その通りです。優れた補助魔法の使い手なら、同等どころか男なんか目じゃないほどの力を使いこなすことも可能っすよ」


「わあ! 夢がありますね!」


この世界にはない少年漫画――特にバトル漫画好きだったアリスが、はしゃいだ声を上げる。


「お嬢変わってますねぇ。身体強化なんて令嬢には必要ないでしょうに」


ケラケラ笑うファウスト。


「さて、魔法の難易度はSS~Eの七段階のランクに分けられています。SSランクは魔導師団長格じゃないと扱えない超上級魔法なんすよ。一握りの有能な人材じゃないと使いこなせない。たとえば俺とか。俺とかね」


「先生すごいっ!」


「でしょう」


端から見れば何なんだこの茶番はという感じだが、すこぶる自慢気なファウストに対して、アリスは純粋に褒めている。魔法のこととなると彼のノリについて行けるらしい。


「ランクS、Aを上級魔法、ランクB、Cを中級魔法、ランクD、Eを下級魔法として分類します。お嬢ってもしかして魔導師団に興味あります?」


「魔導師団も興味はあります。でも、騎士団の方が興味あります!」


バトル漫画で、後衛よりも前衛に出て戦うキャラクターが好きだったアリスは、ついついそう答えていた。


「騎士団? えっ、好みの騎士でもいるんです? マセてんな」


「先生。心の声漏れてます。というか興味があるのはそこではないです」


ファウストと話しているうちに、作成途中の淑女の仮面が簡単に取れる。かろうじて敬語、のような砕けた言葉になってしまった。


「……話を脱線させてすみません。授業の方、お願いしますっ」


「いいえ? 息抜きも大事だから全然気にしてないっすよ~。そろそろ疲れてきたし、文字数ばっかり食う説明はこれくらいにしましょうか」


彼は持参した布に包まれた何かをテーブルの上に載せると、ゴホンと一つ咳をして喉の調子を整えた。


「これであなたの魔力丸わかり!? 魔力量鑑定水晶~! あーんど、適性属性鑑定水鏡~!!」


テッテレー! と効果音が聞こえて来そうなテンションでファウストが布を剥ぐと、現れたのは占い師が使っていそうな水晶玉と、水が張った大きなお盆だった。ギリギリまで水が湛えられているのに零れない。不思議だ。


「ちょっとお嬢! ノリ悪いっすよ! もっとこう何か反応ないんすか。きゃー! とか」


お盆の方を食い入るように見ていたアリスは、結果的にファウストをスルーした形になったらしい。ファウストは拗ねたように口を尖らせている。

さっきまで真面目なトーンで説明していたかと思えば急にハイテンションになる彼は、メリハリが効いていると言えば聞こえがいいがマイペースとも取れる。アルバートがアリスに「こんなんだけど」と言う気持ちがちょっと分かった。


「ちぇ。まあ、いいや。じゃあ~まずは魔力量測りましょう。属性と同様に、魔法を習得する前に測っておくのが大事っす。魔力量が多いと暴走する可能性もありますから、現状を把握しておかないといけません。お嬢、ここに手つけてください」


ファウストに促されてアリスが水晶玉に手をつけると、白い煙のようなものが水晶玉の中に浮かんできた。


「水晶玉の中にある煙の色で魔力量を鑑定します。色が変わらなかったらほとんど魔力がない証。次に青、赤、黒の順に魔力量の多さが区切られてます。

正直、魔力量は鍛練次第である程度まで伸ばすことができるんで一概には言えないんすけど、青は下級魔法、赤は中級魔法、黒は上級魔法に必要な魔力量が備わってるっていうのが目安ですね」


「……やっぱりそうなんですか?」


アリスが尋ねる。


「……? はい。そうっすよ? 自分の知識と違いました?」


「そう、ですね。覚え間違っていたみたいです」


ファウストの説明と全く同じことが以前読んだ本に書いてあったので、彼を疑っているわけではないのだが、記憶しているゲームの知識とは異なる点があってアリスは腑に落ちないでいる。


ゲームじゃヒロインの魔力量は普通って設定だったと思うんだよなぁ。

でも、それ治せんの? ってレベルの怪我を聖魔法でガンガン治してたよね。あれって上級魔法じゃなかったのかな。

セルヴァ先生の説明だと、上級魔法が使えるってことは魔力量も多いはずだけど……え、まさか聖魔法が上級魔法じゃないってことある? 


「セルヴァ先生」


「なんでしょう?」


「聖魔法……例えば、斬り落とされた腕を元に戻すような魔法は、上級魔法ではないのですか?」


ヒロインが魔物討伐で傷ついた騎士達を救うために、現場に駆けつけるシーンを思い出しながら質問する。


「そのレベルの怪我を治せるなら、間違いなく上級治療魔法っすね。SSランクの再生魔法に該当します。

ん~そうっすね、ついでに説明しちゃいますと、治療魔法はさらに細かく三つに分類されてます。

あと、光と土魔法も治療魔法はありますが、聖魔法はそれらの上位互換と考えてください」


つまりはこういうことらしい。


病気・怪我を治す治癒魔法……光魔法、聖魔法で治療可能。


毒・麻痺などの状態異常を治す回復魔法……土魔法、聖魔法で治療可能。


身体の欠損を治す再生魔法……聖魔法のみで治療可能。SSランク。


「あまりに重体だったり重病だったりすると、光や土魔法の治療魔法じゃ歯が立ちません。一方、聖魔法で治せないものは死体くらいです。脳か心臓が残っていれば治せるって噂もありますね」


何それ怖っ。聖魔法怖っ! 再生って、もはや治療の域を超えてる気がする。

しっかし、質問してますます分からなくなっちゃった。

再生魔法がSSランクなら、並大抵の魔力量じゃ使えないってことだよね。

並魔力のヒロインが聖魔法を使えたのはなぜ? わたしの記憶違い? 

……あっ、そうか。鍛錬すれば魔力量が上がるらしいし、わざわざ描写がなかっただけでいつの間にか魔力量が増えてたのかも。


アリスが水晶玉を見つめながらつらつらと考えていると、煙がゆらゆらと揺れ、じんわりと色を変え始めた。


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