美少女と犬と女騎士
ああ…今日は1限からだっけ…やばい…寝坊した…。…。寝よう…。
長い夏休みを終えて大学生活2年目後期。
この俺、一条 和仁は単位が足りなくて留年がかかってるって言うのに寝坊した挙句、焦ることもせず惰眠を貪っている。ああ…クズだなあ俺って。
分かってる。分かってるんだよ?
本当は行かなくちゃいけない…。でも体が動かない。今行っても1限には間に合わないし、じゃあせめて2限から…。こういうところが、ダメなんだろうな…。はあ、クズすぎて、死にたいな…。まあ、死ぬ勇気なんて無いんだけどな…。
寝ぼけた頭で思考回路をゆったりゆったり回しながらネガティヴになりつつ二度寝コースを確定させる。
あ…この眠気は…2限も無理なやつだ…。
☆
☆
鳥のさえずりが聞こえてくる。二度寝したのにまだ朝か…。珍しいな…。
最近ずっと夜勤続きだったから中々昼夜逆転生活から抜け出せずにいた。
こういう時は二度寝すると大体昼は過ぎてるんだけどな…。
草が鼻をくすぐり、鬱陶しく思った俺は体を起こそうとゆっくりと地面に手をついた。
ん?草?地面?はあ!!??
眠気眼が一瞬で冴え、辺りを見渡す。
目の前に広がるのは生い茂る草木。奥の方には薄く山が見える。どこだここは…。モンゴルか?
いや…酔いつぶれて変なところで寝てたか?
…いや、俺酒飲まねえぇぇ…!
待て待て待て…じゃあ一体此処は何処なんだよ。ていうか今何日の何時だ!?バイトは?大学は?
「ひっ!う、動いた…!」
気が動転してる俺の耳に、可愛らしい声が聞こえてきた。
人だ!良かった。安心した。
声の主の方向を向くとそこにはえらい美少女さんがそこには居た。
サラサラの長いシルバーヘアーで、碧眼で、小さくプリッとした唇。10人いたら少なくとも9人が彼女に目を惹かれるだろう。
だが、その格好は白のTシャツ1枚というラフすぎるスタイル。
まるで部屋着のまま外に放られたかのような格好だ。
外に出るにはエロすぎる格好で逆に怖い。だが、不審がってる場合じゃない。
「す、すみません!此処にくるまでの記憶が無くって…此処、どこですか!」
臆せずに端的に事情報告と質問をする。
よく見ると彼女の顔は鬼気迫る表情だ。
恐れと不安…。
「なんで…!なんで『俺』が居るんだよ!!」
彼女は俺の肩を掴みかかって、そう叫ぶ。
俺の質問を全く聞いてくれていない様子だ。
何を言っているんだこいつは…。
いまいち言っている意味が分からないが少なくとも、彼女も此処にいる理由は飲み込めていない…。
「お、落ち着いて下さい!待って!自己紹介しましょう!俺は…」
揺さぶる彼女をなだめるように自分の名を口にしようとすると彼女は俺の言葉を遮るように言葉を挟む。
「一条和仁!」
彼女の言葉に思わず耳を疑う。どうして俺の名前を…。
「どこかでお会いしましたっけ…?」
彼女は俺の顔を真剣に見つめている。というより睨みつけている。
さっきの発言といい、俺の名前を知っている事といい、一体どういう事だ?
「今はこんな姿だが…俺も一条和仁だ。
その様子だと、やっぱり俺に化けてるって訳じゃなさそうだな。」
全く状況が飲み込めない俺を差し置いて一人でどんどん先に行ってしまう自称一条和仁。
「言ってる意味が分からないんですけど…。その…あなたが、俺?」
反応を見る限り、本気っぽいな。
だがそれでも状況は一向に飲み込めない…というか、信じられない。俺があんな美少女に?
というか、あの美少女が俺だとしたら、俺は誰だ?
いや、俺は一条和仁本人だ。間違いない。それは俺の記憶が俺の中で証明してくれている。
「信じられないって顔だな。当たり前だ…俺も信じられない。…俺の今月の給料、18万6450円だった。うち3万はパチスロでスッた。うち5万は家賃。親への仕送りに5万。今月の残りは48000円くらい…だったかな。」
彼女の言葉はまさに俺の金銭事情そのものだった。
そうだ。
彼女の言うことはまさに俺の事だ。
そんな個人情報間違いなく俺しか知らない。
どうやら彼女…いや、彼は本当に俺らしい。
「…分かった。信じるよ。お前が俺なんだって事は。」
何も分からない現状、慌てているだけでは何も進まない。ならば少なくとも冷静でいなければ…。
とりあえず、怪しすぎるはするが、俺は和仁(女)の言葉を一応全て信用する事にした。
現状ではそれしか出来る事がない。
「…助かるよ。とりあえず、俺もお前の事は信じる。まずは…お互い、ここにくるまでの経緯を話さないか?俺達が2人いるのかは分からないからともかく、なんで姿が違うのか。分かるかもしれないだろ?」
流石は俺だ。全く同じ事を考えていた。
同じ思考という事は和仁の言葉の信憑性は増してくる。
俺は此処にくるまでの経緯…というほどのものでもないが、来る前までの記憶について語った。
すると意外な事に和仁は眉をひそめ神妙な面持ちで俺の話を聞いていた。
「何か、違う所はあったか?」
悩ましげな可愛い顔の俺に質問をする。
「何か、どころか、全然違う…。俺はその日、1限に向かってる途中で死んだんだ。そんで、神様と会って…。」
その言葉に俺は驚愕する。死んだ?大学に行く途中に?神様だと?そんなもの見た覚えないぞ。
とりあえず、と和仁の話を最後まで聞いて俺は頭を抱えた。
とりあえず、女になった方の一条和仁の話はこうだ。
その日、和仁は本当にたまたま早く起きてしまったらしい。時間は早朝の6時過ぎ。
学校が9時からなのでもう一眠りしようとするも何故か寝付けなくて仕方なく朝ご飯を食べて、学校に行く支度をした。
家を出て、学校に向かう最中、電柱かなんかの工事をしているおっさんの持っていた器具が頭に降ってきてそれが突き刺さり死んだらしい。急な事だったから正確な状況は把握出来なかったようだが、だいたいそんな感じだ。
そして此処からは死んでからの話。
起きるとそこは全く何も見えない真っ暗だったらしい。そして頭の声が聞こえてきたという。
その声は耳に聞こえる感じではなく、脳に直接語りかけられるような感じだったらしい。男性か女性かもはっきりしなかったが不思議と恐怖はなくむしろどこか懐かしいようで安心できる声だったらしい。
その声の主の名前はソピアというらしい。
ソピアは全ての魂の輪廻転生を管理する神様らしい。
そして、ここでかなり重要なワードが出てきた。
神様曰く、和仁は何かの拍子に輪廻の理という魂のサイクルから外れてしまったようで、本来はあの世とこの世をぐるぐると円状に巡るはずが、常に世界を変えて進む螺旋型になってしまったらしい。それを修正するために異世界で過ごしてほしい。という事らしい。
つまり、にわかに信じがたいが俺達が今いる此処は異世界で、俺達が住んでいた日本ではない…らしい。
この世界は魔法が存在する世界らしく、魔物を含めた動植物の生存競争が激しいようだ。
国家があるとはいえ出どころもわからない生身の人間が生き抜くにはあまりに厳しすぎる環境だという。
和仁にはその異世界で神が輪廻の理を直す時間を稼いで欲しいので早急に死なれては困るのだとか。
そのため、和仁にはいくつかの能力が付与されているのだとか。
しかし、和仁は女になると言う事は聞かされておらず、起きた時には美少女になっていて、隣で俺が寝ていたのだそうだ。
これらを踏まえて分かった事は、
①俺達は違う世界線から来た同一人物であるという事。
②ここは異世界で、魔物や魔法が存在する世界だという事。
③国家があるという事は人間、もしくはそれに匹敵する知能を持つ生物が存在するということ。
④あっちの和仁は簡単には死なないように転生されているということ。
そして、そういう取引をしていない俺はそうでない可能性が高いということ。
以下の事を纏めると、今の俺は1人になるとかなり危険が危ない状況だという事。
「ま、まあ俺と一緒に居れば大丈夫…。だろう…多分。」
それは俺である女の和仁も分かっていたようで、一緒に居てくれるようだ。
やだ…惚れちゃう…。俺だけど。
「ありがとう。とりあえず、神様は国家があるって言ってたんだろ?ならその国…もしくは村だな。探してみよう。まあそこで…あれだ。食料と資金と…
あと服の調達かな…。」
いくら俺自身であるとはいえ、見た目は美少女だ。
そんな生足を晒されてたらこっちが恥ずかしくなってしまう。
「あー…そうだな…。流石に自分にキモい目向けられるのは精神的にキツイ…」
「うぐっ…。」
「あ…悪い!悪気はなかったんだ…。」
自分の思っていることだけに本気で言ってるのがよく分かる。俺の表情を見て、ハッとした顔で俺に気遣う俺。
悪気がないのは分かってるさ。だから傷つくんだぜ…。
同じ俺でも言う側と言われる側じゃ選ぶ言葉も全然違うんだな、としみじみ思う。
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「さて、どうやって国を探そうかな…。まずどの方向に歩いて行こうか。」
俺が悩ましげに考えているとすぐに和仁が俺の悩みを吹き飛ばしてくれた。
「俺が見つけるから、ちょっと待っててくれ。
…人が集まるところへ。…。こっちだ。」
トントンと自分の頭を指で小突く和仁。
すると今度は人差し指で西の方を指差して俺を導いてくれた。
「どうして分かるんだ?」
「俺のスキルだ。
導く者。
行きたい場所まで道案内してくれる。」
スキルか…。やはりなんて便利な能力だ。神様よ。なぜ俺には一つも与えてくれなかったんですか。
まだ見ぬ神を恨みながら俺達は西へと歩みを進めた。
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☆
☆
さて。俺達はまだ見ぬ国家までの道すがら、お互いの情報交換を深くしていった。
…といっても俺は大した情報は何もなく。本当に何もしていない状態なので、女になった和仁にばかり話をさせていた。
一先ず把握したいのは、和仁の能力だ。
能力は全部で4つ。しかし導く者以外は分かっていないようだ。
①導く者
いかなる場所でも案内してくれる。カーナビのような能力
初期能力という、
最初から自覚して使える初歩的な能力に該当するらしい。
②限界突破
名前からして強化系だろうか?
これは永続能力に入るらしい。
基本的に常時発動しているもので、発動の切り替えが出来ないのだとか。
今のところ効果らしいものは見えないけど…
③転職
これは多分神官とかなしで自分の職業を変えるやつだろうな。
成長能力というのに該当する。
能力レベルがアップする事で進化する能力みたいだけど…。転職が進化するってどういうことだろう。転職先が増えるとかかな。
④武器変換
武器の性質を変えるとか、そんなところだろうか。
固有能力に該当する。
固有能力自体がかなり希少な能力らしく、保有している能力者は世界中でもほんの一握りだとか。同じ能力は一つとしてないという。
なんだかゲームの中みたいで実感わかないが、多分目の前にいるよだれを垂らした犬みたいな2つ首のモンスターを見てたらホントに異世界なんだろうなと自覚してしまう。
って
「あのモンスター絶対俺たちの事狙ってるよな!?」
「ま、間違いないだろうな…。やっべえ…なあ、野犬に遭遇した時の対処法って知ってる?」
「知らないし、あれ野犬なんて可愛いものじゃないけどな…」
距離にして10m。あのワンコロなら一瞬で詰められるであろう距離。悠長に隙を見せている暇ないぞ…。
俺は和仁と2人で黙り込んでワンコロを見つめる。そして慎重にお互い目を配らせる。どうやら考えてることは同じらしいな…。
「恨みっこなしだからな…」
「分かってるよ。いくぞ…せーの…三十六計!」
「「逃げるが勝ち!!」」
声を揃えてお互い反対方向へダッシュ。そして大きく2人で外回りする。犬は混乱してくれると信じているが、どちらかが狙われたら戦う事になる。
さあ…どう来る…。
犬は俺に見向きもせずに反対方向へ走って行った。
つまり女の和仁の方だ。
「ひええん!!」
情けない声で犬から逃げる和仁。やめてくれよそんな声出すの…。俺が情けないみたいじゃないか。
「なんでこっち来るんだよ!行くならあっちの方行けよ!ふざけんな!」
クズだなあ俺。
「なんか、こう…なんか出ろ!オラァ!」
彼女は手をかざすと、犬の足元に魔法陣が浮かび上がる。魔法陣に戸惑った頭2つの犬はその場で立ち止まり、たちまち魔法陣から放たれた炎に焼き殺された。
和仁はペタンとそのまま座り込んで自分の出したであろう力に恐怖する。
「なんかでたぁ…。」
…なんだか女体化してるせいで、性格もしおらしくなってないか?
俺は和仁に駆け寄り、声をかける。
プルプルと震えながらなんとか立ち上がるも明らかに顔色が悪い。まあ、仕方がないとはいえ、動物を自分の力で殺したんだ。無理もない。
だが、この世界に生きていく以上、それは避けては通れぬであろう道。俺もしかと胸に刻みつけよう。
☆
☆
☆
およそ3時間ほどで街らしき影が見えてきた。
先ほどの犬以降、モンスターは見かけていない。そういえば俺たちの歩いている足元もまっすぐ地面の肌が伸びており、明らかに整備された道だ。
街と近い場所だからある程度は管理されているという事なのだろう。
「なあおい!あれ見ろよ!」
声高とウキウキしたような声色で先にポツンと佇む影が見えた。あれは…
「人か!おうい!!」
「おーい!」
俺達は出来るだけ大きな声で相手に呼びかけ、こちらに向かって来る相手さん。街からどこかに旅立つところだったのか。何にしても都合がいい。
あちらの方もこちらに気づいたようで走って近づいてきてくれた。
「ああー。良かった…。とりあえず第一村人発見ってところだな。」
安心しきった俺達も少し駆け足で近づいて行く。
おお。ようやく姿がはっきりしてきたぞ。
なんとなんととても美人な女騎士さんだ。
女騎士さんは俺たちを真っ直ぐに見つめて走って来る。
おや?手元に何か持っているぞ?あれは…剣だな。うん。
「「逃げよう!」」
何故だか分からないが彼女は俺達に殺気を向けている。何をされるか分からないが少なくとも良いことでは無さそうだ。
「待て!貴様ら!」
彼女は俺たちに怒鳴るように静止を促す。
刃物向けられて逃げるなって方が無理な話だ!
こうなったらさっきの方法で…
「三十六計!」
俺が合図をかけると同時に女騎士が俺と和仁の肩を掴んで押し倒した。
こいつ、速い…!
100mくらい距離があったはずなのにほんの一瞬で距離を詰められた。
「大人しくしろ!貴様ら、そのみすぼらしい格好、奴隷区から逃げ出した奴隷だな?先ほどのオルトロスがやられたという情報が入った。やったのはお前達か!」
奴隷?オルトロス?
また訳の分からない事を…。
「俺達は奴隷じゃないし、オルトロスなんて奴も知らん!放せよ!」
押さえ付けられている和仁は女騎士を押しのけた。
凄い。俺達は2人を押さえつけついたとはいえ、俺なんかビクともしなかったのに。
「っ…!貴様、この私の手を振り払う腕力…相当の訓練を積んでいるようだな…。」
積んでません。
「だが、私に会ったのが運の尽きだ。死ねっ…!」
剣を抜き、和仁に距離を詰める。
完全に俺は蚊帳の外だ。
「どぅわ!お、おい!危ないだろう!」
放たれた一太刀を和仁は覚束ないながらもしっかりと避けた。
おーすごい。俺だったら真っ二つだったわ。
「た、助けろよ!俺!あいつやばいって!人殺すことに躊躇ないぞ!」
どう考えても無理だろ。俺は死にたくない。
小動物のようにプルプルと震えながら俺は首を横に振る。
「ほっとに使えないな!俺って!」
「さっさと捕まれ!大人しくすれば命までは奪わん!」
「嘘つけ!完全に殺す気で切りかかってるだろ!」
風さえも切り刻むようなするどい斬撃の応酬を命からがら避け続ける和仁。
全く俺には見向きもしない女騎士。
あれ?これって…。
俺はコソコソとバレないようにその場を離れる。
「なかなかに骨のある奴だな…だが、所詮は奴隷!
三級騎士であるこの私ミハエル・フォン・アイリスには敵わな…ごっは!」
なんか名乗ってるうちに手頃な石を見つけて殴りつけてやった。
結構なダメージが入ったようで彼女はその場に倒れ込んでしまった。
「でかした俺!」
アイリスと名乗る女の体をまさぐり(2人でおっぱいを触ったがとても柔らかかった。)捕縛用と思われる縄でぐるぐる巻きにしておいた。
街に入る前に色々と情報を聞き出したかったのだ。
しかし、女の人を気絶するほど強く殴ってしまったのは申し訳ない気がする。
脳震盪とか起こして後遺症が残ったらどうしよう。
そんな事を考えていたがどうやら杞憂だったようで、すぐに目を覚ました。
「はっ…!くそっ!私とした事が油断した…!」
完全に俺の事を戦力外として見てたもんね君。
「くっ…!殺せ…!」
ぐへへ…。
「ぐへへ…。…じゃなくて。殺すつもりなんてないよ。」
「何!?まさか貴様ら…私を陵辱するつもりか!おのれ!野蛮な奴隷め!」
口を開けば罵倒を始めるなこの女。
「何もしないっての!俺達は奴隷じゃねえ。なんていうか…旅人だ。」
「旅人だと…?布1枚で荷物1つ持たない貴様らがか?笑わせるな。」
ごもっともです。
「えーと…それは…あれだ。盗賊に囲まれて全部奪われた!」
俺がアイリスと名乗る女の反論に詰まっていると和仁が救いの手を差し伸べてくれた。
しかし、和仁も苦し紛れの嘘に声はうわずっていた。
「そんな嘘信じられるか!」
ですよねー…。
ここで俺は、彼女に質問した。
「じゃあどうしたら信じてくれるんだよ。」
ふん…と彼女は鼻を鳴らして和仁を睨みつける。
「女。服を脱げ。」
…なぜ?俺達は2人して疑問符を頭に思い浮かべる。
とりあえず、ボーッとしている和仁を小突いてお前のことだ。と教えてやる。
「あっ。え…?お、俺!?な、なんで!?」
自分が女になっている事を自覚し切れないこいつは女と言われても反応しきれないみたいだ。
急に脱げと言われた彼女は少し考えてから顔を赤くして驚いた顔をしている。
俺のくせに、可愛いな…。
「奴隷のお前達の身体にはどこかに刻印があるはずだ。そして奴隷の刻印は魔法によって付けられるもの…いくら皮膚をえぐろうと魔法で上書きしようと、それを消せるのは刻印を刻んだ者だけ。つまり、必ずお前達の体には刻印があるはずだ!」
なるほどね。だから脱げ…と。
俺としては大歓迎だが、女の和仁が納得していない様子。
「理由は分かったけどなんで俺なんだよ!こいつでいいだろ!」
そういうと俺を指差す和仁。
おいおい。すぐそうやって俺に汚れ役をかわせようとする。全く俺の悪い癖だぜ。
「な、何を言うかふしだらな!お、おおおとこ…その…裸など…!み、見れるか!!」
おやおや…これはこれは…。
ここで和仁の裸も見てみたかったが俺も気が変わった訳だ。和仁が俺に合図をする。
「おい。やれ。」
「はふん!」
俺は勢いよく自分のシャツとパンツを脱いだ。全裸でアイリスに近付く
「ひいい!?き、貴様!!な、なにを!!??や、やめろぉ!近付くなあ!」
「ほらほら。刻印なんてどこにもないだろう?よーくみるんだ。まだ疑うならけつの穴まで見せてやろうか?ええ?」
顔を真っ赤にして逸らすアイリスの顔を追いかけて俺は右へ左へ行ったり来たりする。
アイリスは後ろでケラケラ笑う和仁を恨めしそうに見つめてから俺のイチモツが目の前に現れると可愛らしい悲鳴を上げた。そして…
「分かった!分かったから!お前達は身ぐるみを剥がれた旅人なんだな!?わ、私が街へ入る手続きをしてやるから!だからもうしまってくれぇ!!」
此処に俺たちの完全勝利、アイリスの完全降伏が宣言された。
和仁によって縄を解かれるアイリスは半泣き…というより完全に泣いている。
和仁は苦笑いしながらアイリスを抱きしめる。悪かったよ。やり過ぎた。なんて言いながら。
お前、女になったからってずるいぞ。この野郎。
だがまあ、なにがともあれ、これでようやく街に入ることが出来る。
しかもアイリスのおかげで身の安全も保証される。
これはなんとも幸先が良い。
街に入ることになった俺達。
此処まで結構早かったな。もっと何日かかかるものかと思ってた。
なにがともあれ、ここからようやくスタート出来るな。異世界生活。
そうだ。俺達はなにか目的がある訳じゃない。
さあて、どうやって暮らそうか。