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初めての恋が終わる。

 苦しくて。

 哀しくて。

 辛くて。

 泣き叫びたいのをいつだって我慢していた。

 感情を露わにすることは、はしたないこと。

 泣いてすがるのは、見苦しいこと。

 愛を乞うのは、やましいこと。

 そうやって教わってきた。

 そうやって生きてきた。

 なのに、そうやって守ってきたことを何よりも否定してほしくなかった人に拒絶された。

「私は、アイナ・グランツェ伯爵令嬢との婚約をここに宣言する」

 高らかに宣べられた言葉は、わたくし以外の名前。

 その目線の先に見つめるのは、はちみつ色の髪をなびかせた乙女。

 憐みの視線が私に突き刺さる。

 だからこそ、私は、私を見失わずに済んでいる。

「皇太子殿下」

 歩み出た私に眉を寄せる貴方。

 でも、私は決して笑みを崩さない。

「この度はご婚約おめでとうございます」

 深々と臣下の礼を取る。

 周りの人々のざわめきが煩わしい。

 だが、それ以上に動揺した雰囲気が目の前から感じる。

「皇太子殿下?」

 私は彼を見上げ首を傾げる。

 驚きに染まる彼の顔。

 そんな顔、長年共にいたのに見たことなどなかった。

 やはり、私ではだめだったのね。

 支えられる存在になりたかった。

 支え合える関係になりたかった。

 でも、それはもう叶わぬ夢。

 二度とは訪れない絵空事。

「どうか、末永き良き世を」

 もう一度頭を垂れ、背を向けた。

 これで、臣下としての義務は果たした。

 溢れ出しそうなものを無理やりせき止め、早足に出口へ向かう。

 焦ったような呼び止める声が聞こえた気がしたが、かまってなどいられない。

 きっと、厳しいマナー教師も今夜だけは許してくれるだろう。

 この日、初めての恋に幕を閉じた。



END


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