壱-②
「ただいまー」
学校から徒歩十五分、ほどほどに近い場所に統志の家はあった。団地の中で周囲の家と変わらないどこにでもある普通の家だが彼の家には普通ではないものがいた。
「あれ?帰ってくるの早いね、てっきり弥黄さんのところでご飯食べて来ると思ってたのに」
「多分、ご飯作ってると思って帰って来たんだけど・・。まあいいや、ただいま葉」
そう言って統志を出迎えてくれたのは着物を着た見た目10代の少女だった、彼女は雨月葉。普段なら艶のある黒髪を短く切り揃え、子供らしいふっくらとした頬にぱっちりとした目付きはみる者の庇護欲を強烈に刺激させるだろう。だが今は徹夜でもしたのか髪は艶を失いボサボサ、目にはくっきりと隈がある。
「おかえり、こういう日は普通は友達と遊びに行くでしょ。だから昨日から徹夜で積みゲーやってたの」
「現代に染まりすぎだろ・・」
「環境に適応することが長生きするコツ、家というモノに縛られる私は特によ。天狗どもみたいな仙人生活なんて真っ平ごめんだし」
葉は見かけこそただの少女だがその正体は統志の何十倍も生きている妖怪である。その正体は"座敷わらし"。家に取り憑きその家に住む者に成功と破滅をもたらすとされる妖怪である。
「天狗近所に住んでるじゃん・・」
「あいつらは別、厳格な仏道修行諦めてるからねー」
話をしつつ気だるそうにしながらも葉は昼食の準備を進め、統志は部屋着へと着替えていく。
「てか何のゲームしてたの」
「fn◯f。盗塁がね・・厳しいんだ・・」
若干哀愁を漂わせながら葉は昨日の夕飯の残りの豚カツの衣を剥いでいく。
「今日の昼飯のお題目は何ですかー?」
「ん?豚天煮、悪いけどパッパと済まさせてもらうよ」
そういうながら葉は鍋にめんつゆを入れ火にかける。一方統志は着替えを済ませ葉を手伝うため台所に入った。
「豚天煮か、なら味噌汁作っておくよ」
「よろしく~」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから10分少々の後、昼食が出来上がっていた。
「それじゃあ、「頂きます!」!」
声とともに二人は豚天煮に箸を入れる、煮込み時間は短時間とは言えもともと調理済みの肉なので出汁を吸うことで柔らかくなっていた。肉の上に乗っている卵がプルッと揺れるのを見ながら自らの口に運んでいく。
「うん、美味い」
「感想うっすいなあ、せっかく作ったのに」
「一学生に食レポ求めんなし」
「あ、そうだそうだ、学生で思い出した。高校受かったの?」
葉のストレートな言い方に統志は一瞬むせてしまう。
「・・お前、これで落ちてたら「じゃあ、受かったんだ!」・・・・まあ、そうだけど・・」
「そっかあ、じゃあ今日はごちそうだ!」
そう言いながら葉は自分のことのように喜び始める。
「統志、合格おめでとう!!」
そう言った葉の表情は先ほどまでの気だるさを感じさせない満面の笑みだった。。統志はいつも見慣れている顔のはずなのに一瞬彼女のその笑みに目を奪われてしまった。
中途半端だけど壱はこれで終了
次の話は鐙子さんの話です
「コドクの中で」の投稿の後投稿します