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魔王の娘  作者: とみー
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お母さんの過去

魔王クレネア。


魔族の中でもポピュラーな種族である、黒い髪と角が特徴の、黒山羊族出身の女性だ。


およそ50年ほど前から、大陸各地で傭兵として活動をしていたことが確認されている。

しかし、当時は一介の傭兵としてさして注目はされていなかった。


彼女がその本当の力を世に知らしめたのは、16年前に帝国と法国が衝突した、聖魔戦争の時である。


彼女は圧倒的劣勢であった帝国軍に、傭兵として参加していた。


数でも士気でも劣っていた帝国軍が、聖女が率いていた法国軍に蹴散らされ、あと少しで負けようとしていた時、クレネアは戦場に現れたという。


クレネアは召喚魔法で数多の魔物を呼び出し、それらを率いて聖女達に襲い掛かった。


空と大地を埋め尽くす程の魔物の大軍を率いたクレネアと、圧倒的な量と質と士気を兼ね備えていた法国軍を率いた聖女の戦いは、後世に残る激戦になったという。


最後にはクレネアと聖女が直接戦い、クレネアが聖女を討ち取った。


聖女を討ち取られた法国軍は、士気が崩壊して撤退し、戦争は帝国の辛勝となる。


しかし、それ以上に重大な事実が残った。


たった一人の魔族が、一国の軍隊と正面から戦い、勝利したことである。


このときから、クレネアは魔物達を率いる魔の王、〈魔王〉と呼ばれるようになる。


そして聖魔戦争の後、ぱったりと世間から姿を消した。


噂では故郷に帰っただの、世界の果てを目指して旅だっただの、またどこかで戦争をしようとしているだの言われている。


これが、今の大陸に流れているクレネアの伝説だ。






私のお母さんは、予想を遥かにぶっちぎってヤバい人だった。

開いた口が塞がらない。


サテラスの方を見ると、彼女もポカーンと口を開けていた。


「とまぁ、これが嬢ちゃんのお袋について、大陸で知られている伝説だ。魔王クレネアっていえば、大人はもちろん、小さいガキでも知ってるくらい有名なんだぜ?」


ゴングいわく、これは大陸ではとても有名な話らしい。


「えーと、私達の知る師匠は、訓練は厳しいけど、それ以外は穏やかで優しい方なんですが。それに、いくら師匠でも空と大地を埋め尽くす程の魔物は召喚できないでしょう。その話は、だいぶ脚色されているのでは?」


サテラスは、どうやらこの話をあまり信じていないようだ。


「いや、これは事実だ。俺は騎士になったばかりの時に、聖魔戦争に従軍してたんだぜ。

俺は一部始終をこの目で見たんだ。そこらの吟遊詩人が伝える話よりよっぽど正確なはずだぜ。」


大真面目な顔で言い切るゴング。

嘘をついてる様子はない。


それに、恐らくこの話は真実だろう。

お母さんは、赤子の私を拾い、傭兵から足を洗って隠居したと言っていた。

私は今16歳。

クレネアが姿を消したのは16年前。

辻褄はぴったりとあっている。


まあ、この際この話の真偽はどちらでもいい。少なくとも、この話が大陸では真実として語られているという事実の方が重大である。


「それで、何故私達がお母さんの関係者だと知られるのが不味いの?」


「ああ、それは、クレネアが一部の連中からひどく嫌われているからだ。法国や〈光の神〉の信者がその筆頭だな。」


〈光の神〉は、大陸で崇められている神の一柱で、宗教国家である法国の国教らしい。

幾つかある教義の中に、「魔物や魔族の存在を認めてはいけない」という教義があるらしく、魔族を敵対視しているそうだ。


魔族には宗教というものが無かったので、この感覚はいまひとつ理解できない。


しかし、クレネアが嫌われる理由はよく分かった。

クレネアは魔族で、強大な力を持っていて、しかも法国に一人で喧嘩を売った挙げ句に、法国や〈光の神〉の信者達の英雄であった聖女を殺している。


嫌われるには、充分すぎる理由だった。


「何故知られてはいけないか、理解した。忠告してくれてありがとう。」


私はゴングに、軽く頭を下げる。


ゴングがクレネアのことや、〈光の神〉や法国のことを教えてくれなければ、きっと私達は危ないことになっていただろう。


初めて出会った人間が、初対面の私達にここまで親切な人だったのは、本当に幸運だったと思う。


「いやなに、気にすんな。クレネアは俺たち帝国にとって恩人なんだ。彼女にそのつもりは無くても、結果として帝国は彼女に救われているんだからな。彼女の娘や弟子に、悪い思いはしてほしくねぇ。」


「いえ、本当にありがとうございました。」


サテラスも頭を下げた。


「だから気にすんなって……。そうだ、嬢ちゃん達はまだこの街について、なにも知らないだろ。今日はこれから非番なんだ。よければ街を案内するぜ。」


忠告に続き、さらにありがたい申し出までしてくれるゴング。


私達は彼の好意に甘えて、街を案内してもらうことにした。

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