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短編とかその他

出来ない姉と出来る妹

作者: 透坂雨音



 そこはふわふわした空間で、凄くまっしろ。

 私達、双子の姉妹……黎夢と明夢はそんな空間にぷかぷか浮かんでるんだけど、どうしてだろう。


 疑問に思っていると、目の前に一つの影が現れて声を発した。

 その人は、自称神様。たぶん見た目から考えて男の人っぽい姿。

 にっこと笑った後、自称さんは私達にこんな事を言って来た。


「トラックにはねられた君達だけど、その死は予定になかったんだ。だからこの世界に転生させる事ができない。その代わりに、異世界に送って新しい人生を送らせてあげるよ」


 唐突だった。

 だから言われた事が分からずに、多分きょとんとしてると思う。

 きっとそれは妹の明夢も同じははず。


「ねえ、明夢。私、夢を見てるのかな?」

「お姉ちゃん。明夢も、まったくおんなじこと考えちゃった」


 私、黎夢は妹の明夢の手を引きながら自称神様から十歩ぐらい距離をとる。

 あやしそうな知らない人とは、お喋りしちゃダメなんだってお母さんが言ってたから。


 明夢がしっかりし過ぎて普段、あまりいい所を見せられないでいるお姉ちゃんだけど、私はお姉ちゃんなので、こういう時は妹の手を引いて導いてやらなければならないのだ。お姉ちゃんとはそういうもの。


 明夢はびっくりしたままの様子で、穴が開いても大事にしていた私のお気に入り、肩から下げていたピンクのポーチを勝手に外して、怪しい自称さんに投げつけた。自称さんは「わっ」と驚いて避ける。そこら辺に歩いている、親切な近所のお兄さんみたいな反応だった。


 夢かどうか確かめたかったのなら、明夢の綺麗なブルーのポーチを投げれれば良かったのに。「むぅ」でも私はお姉ちゃんだから我慢する。


「弱い神様の一人だから、親しみやすいって言ってくれると嬉しいけどな。それより、とっても大事な問題が一つあるんだ」

「「問題?」」


 私は明夢と仲良く首を傾げる。息ぴったたりだ。双子なのに全然違う所がある姉妹だって良く言われるけど、こういう事があると私は嬉しい。話がずれた、……そうじゃなくて。


 困った顔になった自称さんが気の毒になったので怪しんでいたのは忘れて、私はその内容について「何か大変な事があったの?」と、尋ねていた。


「うん、君達がね」

「私達が?」

「このまま異世界に転生させちゃうと、困った事になるんだ。異世界には君達の大好きな魔法や、不思議な生き物がいるけど、危険だってたくさんあるからね」


 だから、と自称さんは私達にゆっくり、重要な事を話す様に続きを言葉にしていった。


「今も仲良ししかもしれないけど、数日間だけ蘇らせてあげるからその内にもっと仲良くなっておきなさい。異世界で困難に打つ勝つためにも。その為に大切なのは成長する事だ。分かったかい?」


 仲良くなることと成長する事?

 いったいどういう事だろう。

 詳しい事を聞きたかったけど、言葉を口にする事は出来なかった。

 自称さんがそう言ったとたん、目の前が真っ白になって意識が遠のいていったからだ。






 気が付いたら私はトラックにひかれた場所で、手をつないで明夢と倒れていた。

 私達はトラックに乗っていた運転手さんに、無事だった事に凄く驚かれて、たくさんごめんなさいをされた。「良いよ」って許してあげた。その後は、当然救急車に乗せられて病院に運ばれる事になる。ぜんぜん大丈夫だったけど、「念の為に」って言われて。誰だって大きな車どぶつかっちゃったら心配になるし、しょうがないよね。


 明夢はお医者さんの診察がすぐに済んだのに、私はおっちょこちょいだから少しだけ長くかかてしまった。倒れた時にできた擦り傷とかの薬も、ちょっと多かったせいかも。


「成長って、どうすればいいんだろう。明夢は何か良い方法ある?」

「うーん。明夢、分かんないよ」


 今でも十分仲がいいとは思うけど、自称さんが言うにはそれでは駄目ならしい。

 あんまり頭が良くない私だから、明夢に聞いてみるけど、賢い妹ですら思いつかなかった。


 病院にやって来たお母さんに連れられて家に帰っても、いい方法は思いつかない。


 蘇らせるのは数日だけだって言ってたから、急がなきゃいけないんだろうけど。


 半日ぐらいずっと悩み続けていても私は分からなかったのに、やっぱり明夢はかしこい。


「あのねお姉ちゃん、成長する方法分かっちゃった」


 明夢は自信満々に私にその方法を教えてくれる。


「とりあえず、お姉ちゃんが色んな事上手くできる様に明夢がお手本を見せてあげる」






 話は変わるけど。

 私たち姉妹の名前を一文字とってくっつけると黎明と言う言葉になる。

 意味は、夜明けとか、新しい始まり。

 お母さんとお父さんはとっても凄い人だから、私たちも他の人ができないような凄い事ができる人に育ちますようにって、そう思って名付けてくれたんだ。


 だから、一生懸命凄い人になろうと頑張るんだけど、妹の明夢と違って私は賢くないしおっちょこちょいなので、うまくできない。


 よく物を壊したり、何かを間違えたりして失敗しちゃう。

 私は明夢とおなじお母さんとお父さんの子供なのに、どうしてこんななんだろう。


「どうして言われた事をちゃんとできないの」


 ごめんなさい、他の事をしてたからよく聞こえなかったの。


「それはしっかり要件を聞いておかなかったからいけないのよ」

「そうだ、口ごたえするんじゃない。反省しなさい」


 ごめんなさい。お母さん、お父さん。


「私達はこんなにも忙しく動いているのに、玩具で遊んでばっかりなんて気楽ね」


 ごめんなさい。でも、明夢が私のピアノの音を聞いたら元気が出るって言ってたから。


「人のせいにしないの。もう、遊ぶのはやめなさい」


 ごめんなさい。頑張ってって元気づけたかっただけなの。


「他の子と同じ事がどうしてできないの? もっとテキパキ行動できないの? 失敗ばかりで全然ダメな子 いい、これはお仕置きじゃなくて、教育なの。貴方が悪いからなの 欲しい物を買ってほしかったら、もっと頑張って見せなさい。貴方、だめよ、甘やかさないで、甘やかしたらきっと調子に乗るから」


 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


 どうして私は、他のひとみたいに、明夢みたいにできないんだろう。

 双子で見た目はそっくりなのに。


 だから私は、賢い明夢のお手本を参考にしてどうすればいいのか、勉強しようと思った。


 一日だけ、私は妹の明夢になって、明夢は姉の私……黎夢になる。





 

 今日は平日だから学校のある日だ。

 明夢の教科書とノート、そして筆記用具を持って明夢になる。そして、私になった明夢とそして、登校するのだ。

 悪い事してるかもしれないけど、ちょっとだけドキドキしてて、まるで知らない場所を探検するみたいな感じだった。ちょっと楽しい。


 学校に着くと同じクラスに向かう。明夢と私は教室が一緒で、毎日同じ教室で勉強しているのだ。だから、いつもは比べられて悲しくなるけど、今日はお手本が見れるからとっても助かった。


 教室に入るとたくさんの友達に囲まれて驚いた。明夢には数えきれないくらいの友達がいる。いつも見てて凄いなって思ってたけどやっぱり改めて見ると凄かった。


 明夢がいつもしていた事ができなかったり、知ってる事を喋れなかったりしたけれど、私になった明夢の助けで何とか誤魔化せた。反対に私になった明夢は皆に凄いって誉められてた。いつもできない事が、凄く簡単にできるようになったから。


 授業になると、私になった明夢は毎時間ごとに皆を驚かせた。背筋を伸ばしてピンと立つ姿は恰好よくて、難しい問題を堂々と答えていく様子は立派だった。でも、私はそのお手本をどうすれば良いのか分からない。だって、上手になった私じゃなくて、いつもの妹の姿にしか見えなかったから。


 給食の後の午後の時間、音楽の授業の時は今度は私が皆に驚かれた。

 沢山の友達にお願いされて、教室にあったピアノで簡単な曲を弾いて見せると、すごく素敵だってたくさんの拍手をもらって嬉しかった。

 その後の図画工作の時間に、景色のお絵かきをしていると話しかけて来た友だちに驚かれて、あっという間に教室中の生徒達に囲まれてしまった。まるで写真みたいだって先生にも褒められたのが凄くまた嬉しい。


 でも、いつもしてる事なのに、何で今日は皆驚いたんだろう。やっぱり明夢だからかな。いつもはピアノは触らないし、一人でお絵描きしているから、知らなかったのかも。

 結局、お手本についてはよく分からなかったけど。

 楽しい一日だった。良かったな。


「良くないよ、お姉ちゃん、問題解決しなきゃ成長できないよ」

「ごめんね明夢。私、入れ替わっても、よく分かんなかった」


 全部の授業が終わった後に、私になった妹にぷんすか怒られながらそう言われて、やっぱり明夢はしっかりしてるなと思った。


「なるほど、おかしいと思ったけど。そういう事だったのね」


 だけど油断してたから、近くにいた担任の先生にそんな会話を聞かれてしまった。

 優しい声と穏やかな表情で喋る、私の好きな先生だ。


 教室で一人でいても、先生はたまに話しかけてくれるし、道具を失くした時は一緒に探してくれたからとても親切な人なのだ。


「だけど、そんなやり方じゃ上手くいかないはずだわ。黎夢ちゃんは黎夢ちゃんで、明夢ちゃんは明夢ちゃんだもの。誰かのまねっこをするだけじゃ、自分の本当の良さは伸びていったりしないのよ」


 身を屈めて、先生は私と明夢とそれぞれ目線を合わせながら続きを喋る。


「人にはそれぞれの得意不得意があって、出来る事とできない事があるのよ。他の人が当たり前の様にしてる事が出来ないからと言って、自分を卑下する……低く見る事なんてないの。だって、他の人が当たり前の様にできない事でも、自分にできる事がきっとあるはずだから」

「自分にできる事……?」


 先生は明夢ちゃんも、と続ける。


「明夢ちゃんはお勉強が上手で色んなことができるけど、黎夢ちゃんはお絵描きしたろピアノを弾いて皆を楽しませる事が出来るでしょう。明夢ちゃんには明夢ちゃんにしかできない事、黎夢ちゃんには黎夢ちゃんにしかできない事がある」


 反対に、黎夢ちゃんがお勉強ですらすら問題を解いたり、明夢ちゃんが上手にお絵描きをしてピアノを弾いたりする事はできる? ……と、そう聞かれれば私たちは「ううん」と首を振るしかない。


「自分が当たり前の様にできる事を、同じように他の人ができない事もあるんだってそう知っておいて。だってそう言う違いがあるから、女の人や男の人、お年寄りや子供みたいに世界には色んな人がいるのよ。二人は全く同じ顔をしてても、同じ一人として生まれて来ずに、別々の人間として別々の名前を付けられたでしょう。人が同じでない事は当たり前の事なの」

「同じじゃないのは当たり前の事……?」


 今までずっと同じ事が出来ないのは、駄目な事だと思ってたけど、そうじゃないのかな?





 そんな事があった数日後、事故の後遺症かなにかで私たちは死んじゃって、また自称さんと会う事になった。


 事故に遭った事も、一度死んだ事も、自称さんに会った事も夢かもって今までは思ってたけど、いざそうなると本当だったみたいで、凄く悲しくなった。


「もっと、色んな事したかったな」

「明夢は、友達と遊びたかった」


 美味しい物も食べたかったし、行きたい所もたくさんあった。

 けど、それももうできないんだ。


「よく頑張ったね二人共、ちゃんと言われた通りに成長した様で偉いよ」


 自称さんは私たちの頭を撫でてくれたけど、気分はちっとも晴れる気配がしなかった。


「これならきっと、生まれ変わっても二人で生きていけるはずだよ。きっとこれから行く世界では困ってる人達がたくさんいるはずだ。その人たちを助けてあげて欲しい。君達二人に、黎明の名に恥じない働きを期待してるよ」


 私はどうしても気になった事があったので自称さんに尋ねた。


「神様から見た私達は……人間はどんな風に見えるの? 皆、違うように見える?」

「うーん、皆肌色で手足が二本ずつあるから、見た目には同じようにしか見えないだんよね。正直言うと」


 私は明夢と顔を見合わせる。やっぱり神様は私たち人間とは凄く考え方が違う。

 私は、同じ顔とか似てる顔とかで、同じみたいって考えてたのに。


「人間だって、他の動物の見分けなんてほとんどつかないだろう? でも、長く生きてるとやっぱりそれぞれ皆違うんだって思うよ。出来る事、出来ない事が色々あるんだ。皆が皆同じでいなければならない世界があるなら、その世界は平和だろうけど、きっと何も起きない、分かりやすく言い換えればつまらない世界だろうね」


 世界が正しく世界である為には、違う事は必要なんだ。と自称さんはそんな風に話を締めくくった。

 難しくて、よく分からないかったけど、違う事はそれでいい事なんだって自称さんは思ってるみたい。


「いつかきっと、君達にも分かる時が来るさ。さあそろそろ時間だ。準備はいいかい」

「明夢」

「お姉ちゃん」


 私たちは最初に死んだ時と同じように固く手を握り合う。

 眩しい光が周囲に満ちて言った。


 そういえば、あの時も車のヘッドライトを眩しいと感じたなと思い出す。


「どうかあの世界を変えて欲しい。優れた者と劣ったもの、二分された世界に……、新し価値観をもたらしてくれることを祈ってるよ」













「お姉ちゃん、お姉ちゃんってば。危ないから下がってってさっき言ったでしょ、もうっ。支援魔法しか使えないんだから、魔物に攻撃されたら貧弱なお姉ちゃんじゃ、きっと一撃で死んじゃうよ」

「ごめんごめん、でも私おねえちゃんだから。妹が危なくなったら守ってあげなくちゃ」

「気持ちだけで十分だから。ほら下がってて。あー、安全な町にはまだ着かないのかなあ? 早く行かなきゃ皆が困るのに」

「そうだね、魔人族と人族の対立を終わらせるために、和平の使者さんを助けたり、仲良くさせたりしなくちゃいけないもんね」

「やる事沢山過ぎて、過労死しちゃうよ!」

「大丈夫だよ。お姉ちゃんも手伝ってあげるから。町まであと少し、一緒に頑張ろう」

「はぁ、分かったよー。でも無茶しないでよ、なんかほんわかのんびりした感じのお姉ちゃんがいないと、あの険悪な人たちの会話がちっとも進まないんだから。ほんとに無茶しないでよ」




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