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最弱職のイレギュラー  作者: 華藤丸也近
第2章 俺以外の“転生者”
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第21話 合流

「正直、信じられないが……あいつが言う事だ。信じるしかないな」


 コルトは俺の姿を見つめたまま顎に手を当てて独り言をつぶやいている。

 どうやら、俺が魔物の姿になっている事を信用できないようだ。

 まあ、普通はそういう反応になって当り前だ。


「お前は本当に……その、お前で良いんだよな?」


 え? 何だ? それって……俺が本当に城木セイジなのかって事か?

 コルトが返答を求めているのか不安そうに俺を見つめている。

 でも、喋ったところで同じ魔物以外には通じないからな……動きで返答するしかないな。

 俺はコルトの問いかけに対して二回コクコクと頷いて返答した。


「私の言葉も通じるんだな。良かった。ただ、フゴッフゴッとしか言わないものだから通じていないのかと思ったぞ」


 いやいや、さっきも通信魔法でガッツリ喋ったはずだけど?

 と、ツッコミでも入れようかと思ったがどうせ伝わらないので諦めた。


「まあいい。とりあえず、付いて来い」

「お、おう」


 コルトはそう言い残すと、穴の中へと落ちていった。

 あのモグラが掘った穴なんだが……大丈夫なのか? あれも一応は魔物なんだろう?

 穴を覗き込むと下に、腕を広げたコルトの姿があった。

 穴は大きいけど高さ的には3メートルくらいか。ちょ、ちょっと怖い。


「どうした? 受け止めてやるから下りて来い」

「え?」


 コルトが受け止める? 俺、穴の中とか通ってるから結構泥だらけなんだけど。

 というか、絶対今、獣臭いはずだけど。良いのか?


『何を迷っているのだ? これ以上ない機会ではないか』


 おいコラ。失礼な事を言うなよ。というか、いきなり出て来て茶々入れないでくれ。

 なんか、今まで全然喋らなかったくせにこの姿になった途端に喋るようになったけど……何なんだ一体。

 

『何……今までは様子を見ていたに過ぎない。主たる貴様の人柄を見定めるためだと思ってくれていい』


 うわっ……まるで抜き打ちテストみたいに見られてたって事なのか?

 この悪魔の中で、俺はどんな人間に映っているんだ?


『一言でいうなら……ああ、止そう。言ってしまえば失意のあまり身投げしてしまうかもしれん』


 そこまで酷いのかよ!? もうほぼ言ってるようなものじゃないか!


「何をしてる? 時間がないんだ。早くしろ」


 悪魔とやり取りしていると、そんな俺を不審がったコルトが声を掛けてきた。

 まずいな。言葉が通じないとは言っても、不審な行動をとっていたら怪しまれてしまう。

 けど、胸び込むのはなぁ…………仕方ないか。


『おうおう。小娘の胸の感触を存分に楽しんで来い。感覚共有をしている我にもその感触は伝わってくるからな』


 ああもう、うるさい。というか、お前が感触を楽しみたいだけだろ!

 そんなツッコミを入れつつ、俺は覚悟を決めてコルトの胸に飛び込んだ。

 俺の体を小さな腕でしっかりと受け止めるコルト。甘い香りが鼻を掠める……だが。


 ……硬いな。


『硬いな』


「おい。何だか失礼な事を考えていないか?」


 胸が小さい事を人一倍気にしているコルトは、声にも出していない事にもかかわらず敏感に感じ取ったのか低いトーンでそう言いながら俺の頭にハンドガンを押し付けた。

 お、おいおい!! こんな状態で撃たれたら洒落にならないって!!

 俺は必死に首を振って否定する。

 いいや、事実ではあるけど。死にたくはない!

 というか、悪魔。お前も俺と同じ感想出すなよ。確かに硬いけど、無い訳じゃなかったぞ?


『主よ。そういうフォローがかえって怒りを買うのだぞ? よく覚えておくといい』


 同じようにコルトの胸の感触を硬いと言ったくせに、何で俺がフォローされなきゃならないんだ。

 失礼なのは変わりないだろ……。


「はぁ……今はこうしている場合ではないな。さあ、戻るぞ」


 コルトは持ってきていたランプを手に持って穴を奥へ進んでいった。

 地面を掘り起こしていたモグラは穴の先に戻ったのか、そこにはおらず後に残された巨大な穴は先が見えないほど奥へ続いている。

 しかし、馬鹿でかい穴を掘ったよな。あんなの、どうやって用意したんだろう。

 むっくんはアンデットキングだから、アンデットの使い魔とかを呼び出したんだろうけど……あのモグラ、どう見てもアンデットって感じじゃなかったし。

 俺はコルトの後ろを走りながらコルトに付いていく。

 穴が暗いので見失いそうだが、後ろをチラチラと確認するコルを見るに俺の走る速度に合わせてくれているようだ。


『主よ。あのモグラのような生き物の事だが、どうやらあのアンデットキングと同じ魔波を感じるぞ。使い魔である事は間違いない』


 そ、そうなのか!? というか、そんなところまで分かるなんて……俺はエラい物を持たされたんじゃないのか?

 俺は何も感じないから、もしかするとこの武器は俺にうってつけなのかもしれない。

 でもなぁ……死にかけるたびに魔物になったりするのは嫌だぞ。


『死なないようにするしかないな。精々狙われぬよう注意しろ』


 そんな……他人事みたいに。


「そろそろ着くぞ!」


 穴を走り抜けるコルトがそう叫ぶ。

 先には頭上に出口があるのか、僅かな光が灯っていた。そこから誰かが顔を覗かせているようだ。

 あれは……むっくんだ!


「こっちよ!」


 穴から身を乗り出し呼び掛けるむっくん。

 穴の下まで来ると、コルトは俺を再び抱きかかえ、むっくんへ差し出す。

 そのままむっくんは俺の体を受け取ると、そっと地面に立たせた。

 その後、むっくんはコルトの体を引っ張り上げる。

 ここは……どこなんだろう?

 どこか地下倉庫のような場所っぽいけど、やけに広いし天井も高い。


「連れて来たぞ」

「ええ。苦労を掛けたわね、ありがとう」


 服についた土を払っているコルトにむっくんは礼を言い、俺の前で屈んだ。

 そのまま俺の体に手を触れて、毛を掻き分けるように撫でてくる。

 なんだ? 何か感じるのか?


「凄いわね。完璧なマガリイノシシに変身してるじゃないの。でも変ね、魔波はマガリイノシシ以上のものを感じるけど」


 そんな感心するような声を上げて物珍しそうに見つめるむっくん。

 まあ、本物の魔物を吸収してそれを仮の姿にしてるんだから、そうだよな。


「ああ。私も見た時は驚いたぞ。欠片ほども感じなかった魔波が今の姿ではマガリイノシシ以上の魔波を感じるのだからな」


 やっぱり……グリブ達の言っていた事は本当だったのか。

 本当はマガリイノシシじゃなくてオークリアだ、なんて話したらどんな反応する事やら。

 まあ、あの場所以外で変身は出来ないんだけど。


「さて、事は急を要する。早急にニル(あいつ)を見つけ出して救出しなければならない」

「そうね。アタシも協力できるところは何でもするわ」


 コルトならともかくどうしてむっくんまで……。

 いいや、人数は一人でも多いに越した事はない。

 殺される前にニルを救い出さないと!

 

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