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最弱職のイレギュラー  作者: 華藤丸也近
第2章 俺以外の“転生者”
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第19話 不可解な現象

「そういえばお前、名前は何て言うんだよ?」

「ああ。俺は城――」


 武器製作の作業中ったスラングは手を動かしながらもこちらに目を向けて問い掛けてくる。

 急な問いかけに何も考えず応えようとしたが、途中で俺は言葉を詰まらせた。

 城木セイジって、名乗って良いのだろうか?

 4体の名前を聞く限りじゃ、名字があるようには思えないし……。


「ん? シロ? なんだ? シロって名前か?」

「え? あ、ああ」


 都合よく勘違いしてくれているみたいだから、乗っかっておこう。

 むっくんにもシロちゃんって呼ばれている訳だし。


「あんなところに倒れていたみたいみたいですけど、一体何があったんですか?」

「それは……えっと」


 カインズの問いかけに、再び考え込んでしまう。

 どういうのが正解だろうか? ニルに殺された……何て言ったところで伝わる訳ないし、人間に襲われた……なんて言っても信じてもらえるかどうか。

 あんまり、怪しまれるような言動はしたくない。どうにも慎重になってしまう。


「どうしました?」

「いえいえ! その……人間に襲われたんですが、それで気を失ってしまったようで」


 心配そうに見つめるカインズ。

 俺は思いつく限り、怪しまれないような返答をする。

 なるべく、嘘はついていないつもりだ。ニルに襲われて気を失っていた訳だから。大丈夫、大丈夫なはず。


「そうなんですか。大変でしたね……生きていて良かったです」

「本当ですよ。絶対死んだと思っていましたから」


『ふん。我の存在があったからだな。さあ称えよ。そして敬え』


 ……うるさい。まあ、助かった事は助かったけど。


「とにかく、疲れているでしょうから今は体をゆっくり休めてください。僕のベッドがそこにあるので使っても構いませんよ」


 カインズは部屋の隅の方を指差してそう告げた。そこには、スラングが座っている場所と同じように藁が敷き詰められている。

 あれがベッドなのか。不自然に藁が積まれていると思ったらどうりで……じゃあ、スラングが座っているところもベッドって事なのか。

 断るのも気が引けるし、ここは好意を素直に受け取っておこう。


「あ、はい。すみません。ありがとうございます」

「いえいえ」


 カインズは優しく朗らかな笑みを浮かべて、俺から離れていった。

 スラングの傍に座って、作業をまじまじと見つめている。

 

「そういえば、狩りはいつ行くんだっけ?」

「あ? えっと……まあ、しばらくしたら行くんじゃねぇの? アニキがこっちに来るはずだろ? その時じゃね?」

「そっか。狩りは苦手なんだよね」

「仕方ないだろ? 俺達のような若い男連中が狩りを担当してんだから。お前もさっさと慣れた方が良いぞ」

「それが難しいの!」


 カインズのベッドに寝転がり、俺は2人の会話を盗み聞きしていた。

 やっぱり魔物も、人間のように同じ種族同士で助け合って生きているんだな。

 なんだかこういうのを見ていると、報酬のために魔物を討伐するのを躊躇ってしまいそうだ。

 人間の姿に戻れるまではこの姿で過ごさなきゃいけない訳だし、今のうちに魔物の生活を経験しておくのも良いのかもしれない。

 こんな経験、普通じゃ味わえないだろうし。

 俺は寝返りを打って天井を見つめる。

 色々と自分の中で整理が付いてくると、今度は不安や心配事が一気に押し寄せてきた。

 コルトやむっくん、モニカ、ライム、アルさん、ヴェルガさん、イルさん、リーザスさん……そして、ニル。

 みんな、あの街で知り合った人ばかりだ。

 全員が心配しているだなんて思ってはいないけど……少なくともコルトやむっくんは心配しているんじゃないか?

 探して……くれているだろうか?

 俺がニルに殺された事、知られていないだろうか?

 ……事実ではあるけど、それはなんだか嫌だ。

 でも、どうしてニルは、村を襲った犯人とパイソンさんを殺した犯人が俺だと勘違いしていたんだろう?

 それも余程の確信があったようだ。俺の武器から禍々しい魔力を感じたって言ってたけど……何か関係しているのか?


『主よ』


 考え込んでいると頭の中で声が聞こえた。

 さっきに比べて、やや控えめに呼び掛けるように話しかけてくれている。

 ……何? 今、考えているところなんだけど?


『あの小娘が感じ取った禍々しい魔力とは神器の事ではないか?』


 神器? それって武器の事? 普通の武器と違うのか?


『悪魔を宿した武器は魔器を呼ぶのだが、天使を宿した武器は神器と呼ぶのだ。通常、そんなものが出回る事は絶対にないのだが……小娘が感じたその魔力は魔器も神器にも宿っておるのだ』


 そうなのか? でも、ニルの村を襲った魔族狩りの中に魔器を所有している奴らもいた可能性だってあるだろ?


『確信がある訳ではない。そういう事もあるのではないか、という話だ。何にせよ、主が関係していない以上、あの小娘が勘違いを起こしている事は明白だろう』


 ……じゃあ、ニルの中で俺がパイソンさんを殺したって事になっているのは? 俺がパイソンさんを殺す動機は無いだろ? なのに何でニルは俺が殺したと確信していたんだ?


『真実は我にも分からんが……主よ。この二つの不可解な現象、意味があるように思えるのだが』


 そんな事、言われなくても分かっているよ。でも、どう考えてもそれを証明する根拠がないんだ。実際パイソンさんは殺されていた訳だし……ニルはそれを俺が犯人だと思って殺しに来た。どうして俺だと思ったのか、そこも謎なんだよ。


『主よ。そのパイソンとやらの殺害現場、我にも見せてもらえぬか?』


 ……はぁ!? 何言ってんの! 無理に決まってるでしょ! 今は魔物なんだから、こんな姿で街中に入れば大混乱を招くでしょ!


『なに、案ずるな。我ほどの力があれば、認識疎外の術さえ使えば造作もない』


 悪魔って凄いのな……でも、俺はあんたの名前をまだ聞きだせていないんだけど……何でそんなに協力的なんだ?


『本来の力を開放するには我の名を呼ぶことは必須条件であるが、それ以外であれば名前を呼ばすとも主の支援を行う事は可能だ。契約したであろう? 血と残酷の契約に』


 契約? そういえば、クローディアとの戦いの時にそんな契約を交わしたような……。


『我が求むは血と残酷。主があの小娘に刺され、腹を裂かれ、背を何度も貫かれたあれこそ、残酷と呼ぶにふさわしい! ああ、最高に美味であった』


 残酷って……そういう事なのかよ。悪魔だな。


『悪魔であるが?』


 うわっ……顔は見えないけど、ドヤ顔が目に浮かぶな。まあ、今は考えてもキリがないし休む事にするよ。


『そうか。ゆっくり休むといい。また声を掛ける』


 それ以降は悪魔の声が頭に響く事はなかった。

 また声を掛けるって……何か頻繁に俺の考え事に割って入って来たけど、かまってちゃんなのか?

 悪魔って怖いイメージがあったけど、なんか自然に親しい感じになっているし。

 変な感じだ。

 俺はそう思いながら、眠りに落ちていった。

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