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最弱職のイレギュラー  作者: 華藤丸也近
第2章 俺以外の“転生者”
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第9話 解決の糸口

「ところで……んっ、私が飯を食いにいっ……外に出た時……あっ、なにやら色々と……んっ、騒がしかったが、一体何があったんだ?」


 あっ、とか、んっ、とか……そういう声を出さないでもらえるかな!?

 大体、なんでむっくんに頼まないんだよ。俺がこうしているのギリギリ精一杯なんだぞ。

 まあ、合法的に女の子の体に触れるのはこの上ない喜びなんだけど……何か硬い。

 体の中に鉄板でも入ってるんじゃないかって思えるほど硬い。

 でも、皮膚の柔らかさは感じるし、熱も感じる。

 ただ筋肉が硬いってだけなんだろう。

 銃火器の反動に耐えれるだけの肉体づくりが影響してるんだろうか……コルトは体が小さい事もあるから、反動をかなり受けやすいんだろうと思うし。


「ああ…、そういえば。ニルの知り合いが街に帰って来ているんだよ、かなり有名な冒険者……というか、トレジャーハンターらしいんだ。だからみんな盛り上がっているんだよ」

「ふーん、そういう事か。店であいつが、いけ好かない男の腕にずっとしがみ付ていたが……知り合いだったんだな」

「なんだ、店で会ったのか? ていうか、いけ好かないって……」


 イケメン相手に男が僻みを持つのは分かるけど、コルトがそういう感情を持つのは何か間違っていなか?

 ……はっ!? ま、まさか。こいつ、女の子が好きなのか!?

 なるほど……俺相手にこういう事を平気で頼むくらいだし、多分そうなのだろう。

 

「お前はあの男を見たんだろ? 何か感じなかったか?」

「え? いやいや感じるも何も、あの強者にしか出せないオーラ的なものを感じただけなんだけど」

「そうか……まあ、私の気にし過ぎなのかもしれないな」


 そう意味深な事を言いながら適当にはぐらかしていた。

 何だ? 何か知っているみたいだけど……俺に言わないって事は別に気にするような事でもないのか?


「ところで聞きたいんだが」

「ん?」

「さっき抱き合っていたみたいだが、お前とあいつは、その……デキているのか?」

「んなわけあるか!!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 翌朝。

 今日は珍しく朝からコルトは宿におらず、むっくんはカウンターの奥の部屋に閉じこもったまま出てこない。

 一人でクエストに行くのも危険に感じて、ギルドの受付でベンチに座りながらぼーっと天を仰いでいた。

 朝食も摂ったし、宿に戻ってもする事は何にもない。

 街をぶらぶら歩いてもまた道に迷ったら今度こそ死にたくなる。

 それにニルはパイソンさんにくっ付いたままだし……。

 あれ……て事は俺、今日一日ぼっちって事?


「はぁ……コルトの奴、どこに行ったんだよ」

「あっ、君は昨日の!!」

「ひゃうっ!?」


 後ろから声を掛けられ、俺はあられもない声を上げて飛び上がった。

 振り向くとそこには爽やかな笑顔のパイソンさんが立っていた。


「あっ、どうも……おはようございます」

「おはよう。何かぐてーっとしてたけど、どうしたの?」

「ちょっとパーティーメンバーがどこかに行ってていないので、何もすることがなくてぼーっとしてました」


 本当、昨日あんな事頼んでおいて何も言わずにいなくなるなんて……どれだけ俺の理性がギリギリのところを保っていたか。まるで命綱なしに足幅よりも狭い平均台の上を歩かせられている気分だった。落ちなくて良かったよ、二つの意味で。

 まあ、あいつの事だし俺を置いていったりしないだろうな。今日のうちにひょっこり帰ってくるだろ。


「ねえ、セイジ君。君の名前は……城木セイジ君って言うんだよね?」

「え? ……はい」


 訝しげな顔をして問いかけるパイソンさんを俺は不可解に思いながらも返答する。

 それを聞いてパイソンさんは顎に手を当てて何やら考え始めた。

 そんなに珍しい名前でもない……って、この世界じゃ珍しい名前だったんだ。


「もしかして君、日本から来た人?」

「…………え? どうし……まさか!」


 俺が驚いてパイソンさんを指差すと、意味深な笑みを浮かべながらうんうんと頷いた。

 こ、ここにも日本から来た人がいた!? なにこれ、昨日と言い今日と言い、日本からここに来る人多いんじゃないの!?


「で、でも……パイソンって」

「ああ……こっちでの名前だよ。でも不思議だよね、君は向こうでの名前をそのまま引き継いでるなんて。神様に名前を授からなかった?」


 何!? 神様的な存在がいたのか!? しかも、名前を授かるって……そんな事を何もしてくれなかったのはどういう事!? 職務怠慢か!? 


「いえいえ、そもそもそんな存在がいる事すら知らなかったです。俺なんて、いきなりこんな世界に飛ばされたわけですから」

「僕も驚いたよ。まさか死んだら、天国でも地獄でもなくこんな世界に来るなんてね。しかも死んだときの姿形はそのまんま。輪廻転生なんてよく言ったものだよ。こっちの神様からはこっちで生活するための名前とか能力とか授かったし……」

「ええ!? 能力も!?」


 更に衝撃の一言。

 どうしよう、俺の前に現れなかった神様は一体何をしていたんだ。

 能力さえ貰えていたらこんなに苦労する事なかったのに。


「え……。もしかして、神様に会わなかったの!?」

「はい。少なくともそんな記憶はないですね」


 パイソンさんは目を見開いて驚いた様子だった。

 あのラーメン屋の店主ももしかしたら神様に出会っていたかもしれないけれど……あの人はそんな事言わなかったし、第一チート武器を投げ捨ててラーメン作りに精を出すくらいだから問題はなさそうだけど。

 俺に何もくれなかった神様にはぜひともその意図を問いただしたいものだ。


「へぇ……そんな人もいたんだね。じゃあ、今まで苦労したんじゃない?」

「本当、その通りなんです! 魔法も使えないしスキルもない、持てる武器は魔物を一撃で倒せるこの刀だけ。おまけにこの刀、なんか悪魔が封印されてるとかなんとか言われて……」

「悪魔!? そりゃまた大層な……というか、魔物をワンパン出来るのは十分チートじゃない?」

「そんな事ないですよ。必ず斬らないとそうならないですし、そのためには接近しなきゃいけないんですから。もっとこう……安全に魔物を駆逐して楽にお金儲けしたいんですよ」


 我ながら緩い事を言っているのは分かっているけども、異世界なんだから色々と活躍したいわけで……反則級のチート能力だとか強大な魔法の力を持っているだとか、チート武器でいくらでも無双したいっていうのは誰だって感じる事だろうし……俺だけがそうなれなかったのは癪だ。


「ちょっと刀を見せてもらって良いかな? ちょっと懐かしくって」

「あっ、はい! 良いですよ」


 刀を興味深そうに眺めるパイソンさんは申し訳無さそうにそう言った。

 俺は快く引き受け、刀をパイソンさんに渡す。


「へぇ……この刀、鍔がないんだね。異世界で作られたとは思えないなぁ……ん?」


 そう言いながら鑑定士のように刀をくまなく調べている。鞘から刀を半分ほど引き抜いたところでパイソンさんが訝しげな声を上げた。


「この文字……なんて書いてあるんだろう。なんか凄く嫌な感じがするんだけど」

「知り合いにも言われたんですよね。でも、文字が結構古いものみたいで、読めなくって」


 と言うよりも今のこの国の言語さえ読めないんだけど。


「うーん。なるほどね。あっ!」


 パイソンさんは首を傾げ、なにやらじっと文字を見ながら唸っていると、急に何かを思いついたように目を見開いた。


「ニルちゃんなら知ってるんじゃない?」

「…………あっ」

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