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最弱職のイレギュラー  作者: 華藤丸也近
第2章 俺以外の“転生者”
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第7話 態度が違い過ぎるよ……

「セイジさん!」


 俺の視線に気付いたニルがこちらに振り向いて嬉しそうに手を振っている。

 パイソンと呼ばれた男性も俺の方へ目を向けると柔らかな笑みを浮かべて、こっちに来いと手招きをした。

 男性を取り囲んでいた冒険者達はそれに気付いて、サッと左右に散り、道を開ける。

 なんだろう……この、いやらしくないイケメンのオーラ。

 それに……只者でないのが雰囲気から感じる。


「ど、どうも……」


 そのあまりの気迫に、緊張してしまって上手く声が出せなかった。

 そんな目で見つめないで! 同じ男なのに直視できない!


「こちら、城木セイジさんです! この間オルクスに襲われているところを助けてくれて、それから仲良くなったです」

「そ、そうなの!? ごめんねぇ……ニルちゃんが迷惑かけたみたいで」

「い、いえいえ! そ、そんな事はないですよぉ!!」


 だめだ……緊張し過ぎて声が上擦ってしまったじゃないか。

 変な汗が出ているし……。


「まったく……一人で出回るのは危ないからってあれだけ注意したのに……」

「だって、パイソンさんがいない間にもどんどん依頼が来るですよ? 少しでも早く、パイソンさんのお役に立ちたいですよ!」


 やれやれと呆れるパイソンを見て、ニルは頬を膨らませて不満そうに顔を顰める。

 この二人……本当に仲が良いんだな。

 俺と接している時よりもニルが自然体に見えるし、やっぱり少しは俺の事を警戒しているってところか。


「僕はパイソン。パイソン・ギフトっていうんだ。ニルちゃんと同じ、トレジャーハンターだよ」

「あ、改めまして……おっ…自分は城木セイジっていいます。まあ、その……一応は冒険者なんですが、ランクは最弱でして……魔法もスキルも使えません」

「えぇ!? それはまた、大変な苦労を重ねたんじゃない!?」

「ええ……仲間には呆れられて、とんだ災難ですよ」


 主にこの世界の事情を知らない事に対してだけど。


「そうそう、セイジさんともう一人、コルトさんっていう上級職の方もいるですよ。セイジさんのパーティーメンバーなのです。マスケティアですよ! マスケティア!」

「マスケティア!? 銃火器専門の上級職じゃん! 君、何でそんな子と仲間になれたの!?」


 ま、まあそういう反応になるよね。能力的につり合いは取れないんだし。

 改まって言われると何かこう、グサッとくるな。


「ああっ! ご、ごめん! 悪気があって言ったんじゃないんだ。なんだかこう、何でだろうなーってすごく気になって!! ムカついたかな……」

「……プっ!!」


 パイソンさんは焦りながら身振り手振りでなんとか弁明しようとする。

 その慌てように俺は思わず吹き出してしまった。

 なんだか、凄く高い位置に良そうな存在に見えたけど、思ったよりも抜けてて親近感が湧いてくる。

 なんとなく、ニルと性格が似ている気がするな。


「いえいえ、気にしていませんよ」

「そういえば……セイジさんとコルトさんの馴れ初めを聞いた事なかったですね。どうやって知り合ったですか?」

「ニルちゃん……馴れ初めはそういう意味では使わないよ?」


 目を輝かせてグイグイと近づいてくるニルの肩をツンツンと突いてパイソンさんが制止する。

 というか、顔が近い。


「ええ!? そうなんですか?」

「うん……普通は結婚の時とか、新郎新婦の出会いのきっかけを聞く時に、馴れ初めは? って聞くようなものなんだよ?」

「えっ……セイジさんとコルトさんって結婚するですか?」

「いやいや……しないからね? 逆にするように見える?」

「もしかしてって事もあるですよ。ほら、コルトさん、ドレスとか似合いそうですし」


 ニルに言われて少し想像してみる。

 コルトのウエディングドレス姿か……なんだかそこはかとなくちまーんとした感じが……。

 ていうか、コルトはああいうフリフリした服は嫌いだと思うけどな。

『なんだよこれ、動きにくいな』なんて言いそうだ、絶対。

 ただし、似合わないとは言っていない。


「って、ドレスが似合う事と結婚する事は関係ないでしょ! 別に俺達はそういう関係じゃないからな」

「ちぇ、つまんないです」

「いや、つまんないって……あのねぇ」

「あははは!! 本当、僕がいない間にすっかり仲良くなっちゃってたみたいだね。ニルちゃんが他の人と楽しそうに話してるの、初めて見た気がするよ」


 俺とニルのやり取りを見て、パイソンさんは目に涙を浮かべながらお腹を抱えて大笑いする。

 なるほどな……この人柄の良さもあるから、他の冒険者から人気な訳なのか。

 

「ぼ、ボクだっていつまでもパイソンさんの後ろをついて回っているわけにはいかないですよ。これもボクが成長してる証拠ですね」


 ニルは偉そうに胸を張って踏ん反り返る。

 成長してるかどうかなんてわかん開けど、別にそれは自分で言う事じゃないんじゃ……。


「あはは……」


 パイソンさんもニルの気迫に押されて苦笑いを浮かべていた。

 ああ……この様子じゃ、あんまり成長は出来ていないのかもな。


「ああっ、ところでニルちゃん。これから他の皆と食事に行くんだけど……どう?」

「えっ! そうですか!? ぜひ、行きたいです……あっ……あう」


 パイソンさんのお誘いに二つ返事で了承するニルだったが俺の顔を見るなりあからさまにテンションが下がっていった。まだ、読み書きを教えてもらっていた途中だったし……それを思い出したんだろうな。それにしても……。

 ……めっちゃ俺を睨んでくるんですけどー!! ヒィ!! 年頃の女の子って怖い。


「いいよ。久しぶりに会ったんならそっちを優先しな。読み書きはまた今度教えてもらえればそれでいいから」

「えっ! 良いですか!! ありがとうです!」


 うっわぁ……すんげえ笑顔。

 ニルはあからさまな態度をとって、再び階段を駆け上る。

 程なくして戻ってきたニルは大きなリュックを背負っていた。その手にはさっきの絵本が握られている。


「じゃあ、さっきも言った通り、この絵本を読めるようになるのがセイジさんの課題ですからね!」


 ニルは俺の胸に絵本を強引に押し付けてきた。

 俺はその気迫に押されて本を受け取ってしまう。本当、パイソンさんと会ってからテンション上がりっぱなしだな。


「いやいや、まだ詳しく教えてもらってないから読めないからね?」

「まったく、そそっかしい人ですね。そのうち教えてあげるですから……じゃあ、パイソンさん行くですよ! 今すぐに!」


 ニルはパイソンさんの背中をグイグイと押して急かしていた。

 なんだか、すっかりパイソンさんを信頼しきっているって感じだな。というか、態度が違い過ぎてなんか悲しい。


「あ、う、うん……何だかごめんね……ニルちゃん横取りした感じになっちゃって」

「いえいえ。せっかく久しぶりに会えたんですから、そっちを優先するのも当然ですよ」

「本当にごめんね……」

「もう、セイジさんの事はもう終わったですから、早く行くですよ」


 そろそろキレて良いかな、俺。

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