ヴォルヴァさんは優秀
とりあえずその辺をウロウロすることにした。
洞窟は薄暗くてやや緑がかっている。見えないことはないが、視界がすごくいいってほどでもない。
墓場は墓石や薄気味悪い柳?のような樹木が生えていたり、なぜが掘っ立て小屋みたいな家があったりする。広さ的に言えばものすごく広い。東京ドーム数個分ぐらいはあるのではないかとおもう。そこに一面の墓地で、遠くの方でウロウロしている人影。
ま、それを見た時点で俺は腰が退けるわけだ。
三流のホラーハウスまがいだが、ものすごく怖いのだよ。
あのトラップです張りに存在感を放つ掘っ立て小屋も絶対近づきたくない。
俺からは怖くて近づけないので一体ぐらいが見つけてくれるのを待って、墓石に腰掛けつつヴォルヴァさんとおしゃべり。墓地に全身タイツ男が座ってるってシュールだよな。
おしゃべりは実りがあった。相変わらずクールだけど。
この世界の魔力というのがどういうものか。魔力は俺の強さにつながるらしいので重要な情報だ。
魔力というのは現象を改変する力なのだが、何もないところに火や水を発生させるのはかなり高純度の魔力がいるらしくウィザードとよばれる稀少な魔術師ぐらいしかいないらしい。まあこの辺は確認だけなので納得できる。
で、その魔力というは生命や無機物も持っていてそれが生命なら生命力、鉱物だと固さといった物性に関わる。生命力に使用されている魔力は気力とか闘気とかいわれ、人間でも訓練次第で強くなることができるらしい。仙人クラスになると、その気力でだけで存在できる化物となったりする。戦士系だとこの気力で魔物と戦うのだ。
魔物について。この魔物とはその気力が異常な状態になり、瘴気になったときに発生する動植物の異常個体。瘴気は大規模な魔法が行使され、自然界の魔力の調和が崩れると発生する。このダンジョンは瘴気に満たされた一種の魔物で、戦場跡という場所柄、大規模な魔術戦闘が行われたのではなかと、ヴォルヴァ先生はおっしゃていた。
魔力は他にも聖気といったものにも変わるそうだ。
読んで字のごとし。聖なる気は自然界の瘴気を中和できる。怪我や病気も肉体の不調和にカウントされるので回復魔術にもなって治る。魔術だけでは傷は治っても流れ出た気力は補えないので、完全な回復魔術にはならないとのこと。魔術による治療は外科的な手術で、聖気による回復魔術は神の奇跡といったところか。
あと、聞くだけだと瘴気を祓って魔物を倒し、回復魔術までつかえる聖気最強だと思うがそうではない。一旦発生した魔物は聖気だけでは倒せず、その体ごと破壊するしかない。聖気でできるのは回復魔術と魔物の発生を抑止する瘴気払い、がんばれば攻撃魔術にも転用できるがかなり高レベル。対人だと意味ないし。
魔力、気力、瘴気、聖気。
これがこの世界の力の分類。色々な側面で名称が異なるけど、結局は魔力になる。
それでもすべてを行使できるのは珍しく、才能が必要となる。
そして、ここからが俺が着ているダサいヒーロースーツのチートっぷりがわかる。
俺のヒーロースーツはこれら四つの力をスーツの機能で変換可能。ダンジョンに満ちている瘴気ですら俺の魔力へ還元できるのだ。変換した魔力を気力に変えて俺の生命維持に代用なんて高性能なことができる。自動的に聖気へ変換し、多少の怪我を治すことも可能だ。
俺、この世界だとかなり強いんじゃないか?
と淡い期待はすぐさまぶち壊された。
スーツの変換効率や変換処理の兼ね合いもあり、戦闘中は大規模な回復、魔力蓄積などができない。吸収変換した魔力を蓄積するバッテリーも容量があって、無尽蔵というわけにはいかなかった。あ、バッテリーというのは俺の魔力量ね。通常状態は満タンだが、戦闘で身体能力向上やスーツの防御機能を維持するためには一定量の魔力を消費し続けることになる。
うまい話はないのだよ。
元々の初期ステータスが低い、なんてヴォルヴァ先生に運動不足を怒られるしまつだし。
ちなみに俺は現在魔術が使えない。
遠距離攻撃ができないってわけだ。近接戦闘でオリハルコンナックルで敵と殴り合うしか方法はない。
魔術を使うには魔術陣というのを潜在意識にインプットしないといけないのだが、こんな墓地のダンジョンで魔術書を見つけられるはずもなく、スーツ自体は近接戦闘に特化していて魔術を覚え込ませることができない。自己進化型ってのがあるので、進化していく内に魔術を使えるようになることも可能だが。
敵が怖くて近づけないのに遠距離攻撃を選択できない俺の絶望ときたら・・・。
ヒットアンドウェイ戦法でちまちま魔術を遠距離で当てながら戦う考えは露と消えた。白兵しか俺の道はないのだ。
まあ、スーツの最適化が済んだ後は俺の動きを最適化するフェーズに入るので、戦闘で勝ち残っていけば望みはある。戦えば戦うほど強くなる仕様。それだけでも上手すぎる話かも知れないな。
――ボコリ。
ん? なんか近くで変な音がしたぞ。土を混ぜ返すような・・・。
あれ?
俺の足、ペロッペロのブーツに白い物が巻き付いている。
気持ち悪――。
ってあかん・・・これ白骨化した手だよ。
次の瞬間、足元の地面から白骨化した人間の死体が這い出た。
俺は叫ぶ間もなく――スケルトンにぶん投げられた。
軽々と吹き飛ぶ俺の体。三メートルほど宙を舞い、地面に落ちた。
痛ぇって・・・痛くない。なんで?
《ダメージの無効化に成功しました。スーツの防御機構起動確認》
あ、すごい。ヴォルヴァ先生のおかげね。
いやいや、ダメだ。初めての戦闘だ。気合いを入れなければ。
俺が立ち上がることろには、魔物スケルトンも地面か這い上がってその体を見せつけてくる。
おお、かなりいい体格をしてる。生前は180センチぐらいあるのか?
もはや骨だけだけど。ブラブラしてる。
というか思ったよりも力があるよーな。俺体重六十キロはるからそれを軽々と片手で投げ飛ばすって何さ? どこにそんな筋肉があるのよ。
《瘴気による魔物は物理法則に制限されません。敵性体の魔力量計測完了。戦闘力21です》
ご丁寧に答えてくれるヴォルヴァ先生。戦闘力ってスカウターかよ・・・。
ちなみに俺の戦闘力は?
《ヒビキ・マサヨシの戦闘力45》
強いんだか強くないんだかさっぱりわからんが、スケルトンの二倍はあるぞ!
俺がビビらなければ倒せるって事だな。よし、行くぞおれ! 倒すぞ!
あ、ダメ。見れば見るほど怖すぎる。人骨だよ。理科室でみた骨格標本が動いている。
動きは遅いが、腕をブラブラさせて俺へ近づいてきた。
ええい、どうにでもなれ!
俺はボクシングのようなポーズを構え、スケルトンに近づきとりあえず右ストレートを肋骨にぶち当てる。
パキパキパキ、と肋骨が気持ちよく折れて、腕がめり込んだ。
意外と簡単に折れ――。
うわっスケルトンのヤツ構わず俺にしがみつき、俺の首に噛みついてきた!
って痛くない。ガシガシとなおも歯を立てて俺の首を千切ろうとするスケルトン。
《ダメージの無効化に成功しました》
あ、余裕だわコレ。
ヴォルヴァ先生優秀すぎるわ。