外伝その2 カードグラップラー
いったい何が始まるのだろうか。
エスタトゥアは不思議に思った。今の店内は誰もゲームをする人間はいない。その一方で立ち見の人間がごちゃごちゃと増えているのである。
店内の真ん中あたりに広いテーブルが置かれてあり、ふたりの人間が向かい合って座っていた。
ひとりはカピバラの亜人で、もうひとりは人間の男だ。
カピバラの亜人の背後にはエスタトゥアが立っており、人間の方は人間の女が立っている。
肌は日焼けしており、鍛え抜かれた筋肉は岩山が歩いているように思えた。
テーブルには神のシートが敷かれてあり、赤と青に分かれている。カピバラ、ラタジュニアの方は青だ。シートには白と赤のチップが並んでいる。
赤いチップが双方に20枚ずつ配置されていた。逆に白いチップは5枚配置されているが、その近くに数十枚積んである。
「なぁ、いったい何が始まるんだ?」
「これから俺はサビオとファイティングマジックで勝負するんだよ」
ラタジュニアが答えた。先ほど別の人間が対戦していたが、それを彼らがやるということか。それなのに観客が多いのは何故だろうか。
「ボクとエルの対決は人を呼び寄せちゃうんだよね。なら、家でこもってやるよりも、観客のいる前で遊んだほうが店としてももうかるわけね」
サビオが言った。背後に立つ女性はホビアルといい、先ほどからポーズを取っている。
「さっきからあいつは何をしているんだ?」
「ボディービルのポーズだよ。ホビアルは筋肉を鍛えるのが好きだからな。実際にポーズを取ってもスキルには影響しないけどね。フエルテならポーズを取るたびに筋肉の振動で風を巻き起こすことができる」
「何それ、変態かよ」
エスタトゥアは呆れた。彼女はボディービルを知らないので、ホビアルの行為は奇行に見える。
「意味はあるッスよ! 自分が強い自分を見せることで圧迫感を生み出すッス! そうなればサビオに手を出す人間なんかいないッスよ! もっとも自分は血液を操るのが主ッス」
なんとも暑苦しいしゃべり方をする女性であった。しゃべるたびにポーズを構えている。エスタトゥアには理解できなかった。
さてファイティング・マジックの説明をしよう。まず使うカードは60枚。最初は5枚引いて手札にする。手札は最高で8枚しか持てない。
種類は5種類。
人物カード:主な戦力で様々な効果を持つ。体力、攻撃力、素早さの他に、光か闇の属性を持ち、風、火、水、土の特性を持つ。
そして剣は接近戦、矢は遠距離、五方星は魔法で近距離、遠距離の好きな方が使えるのだ。
人物カードは、前衛は3枚、後衛は2枚出せる。ただし前衛が埋まっていなければ後衛を出すことはできない。
道具カード:一度使ったらそれっきりの効果を持つ。
武具カード:人物カードに装備をする。様々な効果を得られる。
魔法カード:場に影響を与えるカード。敵味方どちらにも影響があり、使い所が難しい。
土地カード:4大精霊をモチーフにしており、このカードがないと人物カードは置けない。火の土地カードがあると、水の土地カードで相殺できる。人物カードによっては様々な効果を得られることが多い。
赤いチップはプレイヤーの体力であり、人物カードによって減らされる。
白いチップは行動力で最初は5枚だけだが、1ターン進む度に一枚ずつ追加される。土地カードを出せば1枚増える。カードには行動力を示す数字があり、その白いチップを消費しなくてはならないのだ。
ターンが終わると一斉に攻撃を開始する。そういうルールだ。
エスタトゥアは説明を聞いてもチンプンカンプンで理解できなかった。もっとも相手は熟知している。自分はただ黙って立っているだけだと思った。
「くぅ~、数か月ぶりの好カードだぜ。果たしてどちらが勝つのかわからねぇ!」
「ラタジュニアもサビオもFMの腕は上級者だ。勝てる相手はそのふたりしかいない!」
「どっちが買っても神の軌跡を見ることに変わりはないんだからな!!」
観客は沸いていた。
「さて先手はどちらかな?」
サビオはコインを投げた。それを両手で押さえる
「裏」
「じゃあ表」
サビオは手を開けると、コインは裏だった。サビオが先行である。
「まずは小手調べと行こうかな」
サビオはカードを一枚出した。
『増加薬』 白チップを一時的に5枚増やせる。
「次に土地カードだ!」
『孤独な墓地 土属性 ゾンビ系の体力を2追加』
「そして、こいつだ!!」
『皮肉な死肉』 闇・土属性。剣。体力10、攻撃力10、素早さ2。孤独な墓場があればゾンビ系のカードを2枚無条件で配置できる。
そしてサビオは二枚人物カードを出した。
『視認する死人闇・土属性。剣。体力4、攻撃力4、素早さ1』
「おお! あっという間に場に三体のカードを出しやがった!!」
「さすがはサビオだぜ。なんてあざやかなコンボなんだ!!」
「コンボってのはカードを連続して使うことさ! 基本中の基本だぜ!!」
観客は沸いている。エスタトゥアはわからないが興奮しているのは感じていた。
「ふむ、なかなかやるな。なら俺も出すとしよう」
ラタジュニアはまず土地カードを出す。
『鳥の砦 風の属性 鳥系のすばやさを2追加』
「次はこれだ」
『格好いいカッコウ 光・風属性。弓。体力2 攻撃力2、素早さ8 相手を庇う』
『硬い盾 一切の攻撃を受け付けない。その代わり攻撃もできない』
「おお! 格好いいカッコウに硬い盾! もうサビオの攻撃は受け付けないぞ!」
「まったく焦らずに冷静に決める。さすがだぜ!!」
「序盤でこれだから、終盤はどうなるかわかんないぞ!!」
もう観客は盛り上がっている。言っちゃ悪いがエスタトゥアは一分も理解していなかった。リバーシならまだわかるのだが。
このターンは格好いいカッコウの硬い盾により、一切の攻撃は受け付けなかった。代わりにこちらもダメージを与えることはできない。サビオの前衛は3枚で、ラタジュニアは1枚だけだ。
サビオはすでに5枚使っており、手持ちはない。
ラタジュニアは2枚だ。
1ターン終わり、新たに手札を1枚引く。戦況としてはサビオが厳しい。
相手を攻撃できないのだ。しかしサビオは慌てない。まったく動じてないのだ。
逆にホビアルは焦っている。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!! サビオがなぜか危機に陥っているッス! ここは基本的にフロントダブルバイセップスから初めて、モストマスキュラ―を見せるッス!!」
そう言ってホビアルは両腕でこぶを作った。次に両腕をわき腹に当てる。ボディービルのポーズだ。エスタトゥアは気が狂ったのかと思った。
「今回のエルのデッキは風と火かな? 鳥系や精霊系で攻めるのかな?」
「答える義理はない。無駄口を叩いてないでさっさと来るがいい」
サビオは両手をあげておどけた。やれやれと首を振ると一枚のカードを出す。
『破壊する墓石 武具カードを一枚破壊する』
「うぉぉぉぉ! 破壊する墓石だぁぁぁぁ!!」
「これで硬い盾は破壊された! 格好いいカッコウでは格好がつかないぞ!!」
「まずいぜ、ラタジュニアの大ピンチだ!!」
しかしラタジュニアは慌てない。場に一枚のカードを出す。
『地獄へ道連れ《バイツザダスト》 ダメージを与えた者を道連れに破壊する』
『賛成の再生 一度破壊されてもすぐその場に復活する』
「おお! こいつはすげえ、地獄へ道連れと賛成の再生だ!!」
「これなら確実に皮肉な死肉を屠れる! やるなぁ!」
「やっぱりラタジュニアは最高だぜ!!」
サビオは皮肉な死肉を引っ込めた。残るは視認する死人の2枚。
ラタジュニアの方は場にはない。さっき倒されたからだ。格好いいカッコウの攻撃力は2しかなく、視認する死人に倒されたのだ。
ラタジュニアは視認する死人の攻撃を受け、4枚減らされた。ラタジュニアのライフは16である。それでもまだましな方である。格好いいカッコウが賛成する再生で復活したからこそ、ダメージを緩和で来たのだ。
「ルララララッ!! サビオは最高ッス!! エルはいとこだけどもう自分はサビオの物ッス!! なので応援のバックダブルバイセップスとバックラットスプレットを見せるッス!!」
ホビアルは背中を向けると両腕を上げ、ちからこぶを作る。ビキニだけなので筋肉のすごさがよくわかった。さらにバックラットスプレットは背中の筋肉が洗濯物を引っ張るようにピンと広がった。エスタトゥアは意味は分からないが不思議な迫力を感じた。
「ホビアル。君の言うことは本当だけどね。あまり人前で公言しないでほしいな。だってボクらのラブラブぶりを見て、嫉妬する人がいるからね」
サビオはさわやかな笑みを浮かべるが、一部の観客からは恨みの声が上がった。
「リア充死ね」
「爆発しろ」と。
エスタトゥアは背筋に寒気を覚えた。
今回のネタはワンダースワンに出た東京魔人学園符咒封録がモデルです。
カードゲームで大体今回と似たようなルールですね。
もっともマジック・ザ・ギャザリングを参考したから、そちらの方に近いかもしれません。
カード名はダジャレ物が多いです。ジョジョの奇妙な冒険の第2部を意識しました。
サンタナのリブス・ブレード露骨な肋骨や、インベイト・ミート憎き肉片などがあったのです。




