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ネタと思っていた人たちが登場したよ

「ボハハハハ!! ジュニア、元気そうやないか!!」


 銅鑼を鳴らす様に響き渡る声であった。

 それは黄金の毛を持つイノシシである。三メートルほどの巨人だ。

 彼の名前はアセロ。食料品や外食産業を一手に引き受けるフレイ商会の二代目会長だ。

 缶詰から乾物、パンや米、麺類などを扱っていた。

 ちなみにフレイとは初代会長だ。番頭だったアセロが跡を継いだのである。


「これはアセロ会長。お元気そうで何よりです」

「ボハハハハ!! もうわては60代や! 棺桶に片足突っ込んどる!!

 いつお迎えが来てもおかしくないわ!!」


 アセロは豪快に笑っている。彼は下半身だけズボンを穿いていた。

 筋肉がムキムキで岩のように硬そうである。正直エスタトゥアは自分が先に死ぬのではと思った。

 

「あらあら、お兄様。そう大声を出さないで。ラタジュニアさんとそちらの小さいお嬢さんが委縮してしまいますよ」

「おう、オロやないか!!」


 優しそうな声をかけるのは黄金の猫であった。白いゆったりしたドレスを着ていた。

 彼女はオロ。鉱石と金券を一手に引き受けるフレイア商会の二代目会長だ。

 初代は彼の夫であり、早くに死別したため彼女が跡を継いだのである。

 側には黄金の髪をたなびかせる女性が護衛として立っていた。

 彼女はオロの孫娘ヴァルキリエだ。ラタジュニアの先輩でもある。

 

「そうか!! そちらのお嬢ちゃんがエスタトゥアはんやな?

 妹から聞いとるで。伝説のアイドルを復活させるというんやろ?

 わても昔は教団の所持する電影活劇を見たけど、なかなかのもんやで。

 がんばってぇな!!」

「あっはい」


 声はあいかわらず大きかった。まるで雷が鳴っているような迫力だ。

 ただ体が大きいだけではない。文字通りどっしりと大地に根付いたような落ち着きがあった。


「おうおうおう! アセロの旦那ぁ!! おいどんにも紹介してほしいでゴワス!!」

「おっ、スサノオやんか。ひさしぶりやなぁ!!」


 新しく声をかけてきたのはニシキヘビの亜人であった。

 頭はつるつるで丸っこい体系の男だ。腹は大きく出っ張っており、お腹がプルプル揺れる。

 彼は水産加工や水産業を扱うスサノオ水産商会初代会長、スサノオであった。

 実はサルティエラの町長イザナミの孫でもある。彼の母親は蛇の亜人の男性と結婚したのだ。


「お初にお目にかかるでゴワス!! おいどんはスサノオ水産の会長を務めるスサノオでゴワス!!

 あんたの歌と踊りは早くお目にかかりたいと願っているでゴワスよ!!」

「あはは、はい」


 スサノオはエスタトゥアに握手を求めた。

 あまりの力強さに彼女の身体は枯れ木のように揺れている。


「やぁれ、やれ。相変わらず乱暴な人ザマスね。ミーはついていけないザマス」

「そうですね。トリスメギストスさん」


 横から声をかけたのは白山羊の亜人であった。黒縁の眼鏡をかけており、ひげを生やしている。

 彼は通信や郵便、新聞をまとめるヘルメス商会三代目会長トリスメギストスだ。

 手にはそろばんを持っている。しゃかしゃかと珠を打っていた。

 彼はヤギの亜人が住むトニー村の出身で、商業奴隷として買われていた過去がある。

 紆余曲折で今の地位を築いた苦労人だ。


「ナイストゥミーチュー、初めまして。ミーはヘルメス商会会長、トリスメギストスザマス。

 ユーの話は聞いているザマス。途方もない冒険、アドベンチャラーな行為ザマスが期待しているザマスよ」


 エスタトゥアは握手した。なんとも個性派ぞろいだと思った。

 彼ら四人が集まるとなんとなく空気が重くなった気がする。

 それは彼らは大手商会の会長という肩書を背負っているからだろう。


「それはそうとジューニア!! あんさんはなんでうちに来ないんや!?

 孫のグリンとブルスティが会いたがっとったぞ!!」

「ははは、正直仕事が忙しくて会うことが難しいですね」

「なにゆうてんねん!! あんさんはせんでもええ行商をしとるやないか!!

 それに二人まとめて相手にしたってもかまへんで!!

 本妻と愛人を囲むのは男の解消やで!!」


 するとアセロはオロに足を踏みつけられた。

 彼女は60代だが若々しさを保っている。

 そして怒り方も上品で優雅さがあった。


「お兄様。ここには年頃の娘さんもいらっしゃるのですよ?

 あまり品のないことを口になさらぬよう」

「わっ、悪かった!! まったく冗談が通じへんなぁ」

「本当に冗談ですか? 信用できません」


 アセロは自分より小さな妹に委縮する。

 エスタトゥアは感心した。


「おうおうおう!! アセロどんはあいかわらず妹に弱いでゴワスなぁ!!

 もっとも女に弱いのはおいどんも同じでゴワス!!

 たまにイザナミばあちゃんに会いに行ったら、ばあちゃんと呼ぶなと顔をへこまされたでゴワス!!」

「あのイザナミ様にそのような口をきいて、生きてるユーもタフザマス」


 スサノオは豪快に笑い飛ばし、トリスメギストスが突っ込んだ。

 ラタジュニアはどこか居心地が悪そうであった。

 早くこの場を去りたいと表情に出ていた。


「あのみなさんは旦那様のお父様にお世話になったのでしょうか?」


 エスタトゥアが訊ねた。今までのパターンならラタの恩返しが絡んでいる。

 だがアセロを中心に首を傾げた。


「あんさんはなにゆうてんねん? なんでラタが関係あるねん?」

「えっと、皆さまはラタさんに恩があるのでしょう?

 だから息子である旦那様に気を遣っているみたいな」

「は? 何寝ぼけたこと抜かしておるねん。親父はまったく関係あらへんで」


 アセロが否定した。これは他の者も同意している。


「わいはなぁ、6年前ジュニアに孫を救われたんや。卑劣な奴らが孫二人を人質にしたんや。

 要求はわいが会長職を退くことや。ほんまは孫のためなら屁でもなかったけどな」


 それをラタジュニアに救われたという。当時はスキルを発現したわけではないが、孫ふたりを鮮やかに救ったのである。

 もっともそれは影の事であり、しばらくは誰が助けたかわからなかった。

 ラタジュニアの仕業と知ったと知ったのはその一年後であった。


「おいどんもラタジュニアどんに救われたでゴワス!

 前に馬車が壊れて荷物が腐りかけたとき、仕入れたパンを使って簡単なハンバーガーを売ったでゴワス!

 あの売り上げで商品が無駄にならずに済んだでゴワス!!」


 こちらは冷凍保存した魚介類が無駄になりかけたのだ。商売敵の仕業である。

 ラタジュニアはすばやく仕入れたパンを利用し、魚をフライにしてハンバーガーとして売ったのだ。

 違約金は取られたものの、魚のおいしさが広まり、スサノオ水産の売り上げが増したのである。


「ミーの場合は事故で郵便物を配達できなかったところを、ジュニアが助けてくれたザマス」


 郵便物を扱う馬車が大破した。街道の真ん中で騎士団は通ってない。

 このままでは郵便配達が滞ってしまう。これもトリスメギストスを嫌う人間の仕業だ。

 11歳のラタジュニアがヤギウマクエレブレと共に郵便配達を終えたのである。

 すべての配達を終え、領収書を提出した後、彼は去った。


 もっともクエレブレという小象ほどの大きさを誇るヤギウマが証人なのですぐ見つかった。


「確かにラタとは商売相手の一人や。けどジュニアは違うで。わいらの恩人や。

 それに商売の才能もある。手助けはせぇへんが、困ったときは助けるつもりや!!」


 アセロがどんと胸を叩いた。

 ラタジュニアの父親は人助けをするのが趣味だった。

 実は息子も父親と同じだったのである。


 もっとも彼はこれを武器にしたくなかった。あくまで恩を着せるのが嫌だった。

 アセロたちもそれを知っており、あまりしつこくする気はない。

 せめていい品物が手に入ったら最優先して売っているくらいだ。


「そろそろ時間ですわ。エスタトゥアさん、出番ですわよ」

「出番? 何の話ですか?」


 オロが言った。エスタトゥアはきょとんとしている。


「何って、今日あなたはステージに上がって歌を披露してもらうのですよ。

 すでに報酬も前払いしているはずです」

「いや、聞いてませんから!!」

「ああ、そういえばブランコさんがおっしゃってらしたわね。

 パーティの当日でないと逃げるからと言われましたわ」


 あの女~~~!! ブランコに軽く殺意を覚えた。

アセロ会長やスサノオ水産、ヘルメス商会の会長を出す気はなかった。

どんな人物かも即興で作りました。

こういうところもなろうならではの楽しみ方ですね。


アセロは神話のフレイが使う黄金のイノシシ、グリンブルスティから取りました。孫がもろにそれです。

スサノオは狂暴なニシキヘビが会うと思いました。イザナミはサルティエラではヨモツ以外肉親はいませんが、コミエンソならいます。ちなみにハンゾウとは無関係です。

トリスメギストスはヘルメス思想から取ったのです。イメージはコメディアンのトニー谷氏です。

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