ボスケが来たらあの人が来るのは必然でしょう
「まあ! それではボスケ様はかの闘神王国にあるコロシアムでも歌を披露されたのですね!!」
「ええ~~~!! 5年前にハンニバル商会から依頼を受けました~~~!!
もうすごかったですね~~~!! あんなに広いのは初めて見ました~~~!!
それにギルガメッシュ様の圧倒的な存在感もすばらしいです~~~!!
向こうの人は大人はおろか子供も獲物を狙う狩人の様な鋭さでした~~~!!」
「なんてことでしょう!! ちょうどわたくしはエル様に会いに行って気づきませんでした!!
ああ、わたくしはなんという不幸な女の子でございましょうか!!」
「おほほほほ~~~!! 代わりに今の私を堪能してくださいな~~~!!
大切なのは今なのですから~~~!!」
山小屋の前でカンネとボスケはテーブルの前で食事をしていた。
近くにはカンネが狩った獣の皮と骨が積まれている。
食事はエスタトゥアが用意した。ハンゾウも手伝ってくれていた。
「……なんで俺がこんな目に」
「食事を用意するのがつらいのですか?」
ハンゾウがささやくが、エスタトゥア否定する。
「違うんだ。どちらかというとボスケさんが来たことだな。
正直なんであの人ここに来たんだろ?」
「来たかったからです。エスタトゥアさんはボスケ様が嫌いなのですか?」
「嫌いじゃないよ。でも苦手なんだな。ちょっとおせっかいだし、べたべたされるから」
「なるほど。あなたは親身にされることになれていないのですね。
言うなれば母親の様な愛情を受けるのが苦手なのでしょう」
エスタトゥアはハンゾウを見た。彼は中身のある方だ。皮だけのハンゾウはエスタトゥアが手に入れた野草や魚の調理をしていた。
「そういうハンゾウさんはどうなんだよ?」
エスタトゥアが訊いた。別に深い意味はない。なんとなく好奇心で訊いただけだ。
「普通、とはいいがたいですね。私は人間と亜人のハーフ。当時はコミエンソでも風当たりが強かったですね」
「そうなのか?」
「はい。私の両親はモルモット世代と呼ばれており、人間と亜人が結婚して子供が生まれたらどうなるのか調査されたのです。
私と同期の人はともかく、外部からは蛇に孕まされて生まれた子供だといじめられてましたね。
実際は父親は人間で母親は蛇の亜人ですが。そのせいで人間なのに脱皮ができると馬鹿にされていました。
そのおかげでスキルを発現できたのは皮肉ですが」
エスタトゥアは黙ってしまった。自分も人に誇れる人生を歩んだとは思っていない。
しかしハンゾウの過去を知り、他の人も同じような境遇ではないかと感じた。
衣食住に不便はなくとも精神をヤスリで削られたような毎日だったのだろう。
ラタジュニアでさえ小馬鹿にされているのだ。司祭たちがそれ以上に嫌われているのは想像できた。
「私には妹がおります。今は同期のロサ司祭と結婚して子供が三人おります。
姪のひとりがエスタトゥアさんの働いているブランコさんなのですよ。
そして英雄アトレビドとパートナーであるグラモロソもそうです」
「グラモロソ。確かシクラメンの亜人でしたっけ。もうひとりはどなたですか?」
グラモロソはラタジュニアの同期ということで有名である。
アトレビドはヨークシャー種の豚の亜人で脂肪の錬金術師と呼ばれていた。
「ヒマワリの亜人、ヒラソルですよ。今は結婚してある村の司祭をしています」
「ヒラソル……、最初に出会った司祭だな。なんか結構広くて狭い世界なんだな」
「そうですね。大抵はどこからか繋がっております。ハーフと結婚するのはハーフだけと言われてます。
ああ、フエルテやアトレビドのように村八分になった人も多いですね」
なんとも言えなかった。エスタトゥアは貧富の差で幸福が決まるものではないと理解できた。
「あら、エスタトゥアさん。ハンゾウさんとお話しているようですが、こちらにも加わりなさいな。
今はボスケ様がヒコ王国に来て海賊キャプテンプラタの騒動に絡まれたお話をしておりますのよ」
「そうですわ~~~!! カンネさんのお話も面白いですわよ~~~!!
ナトゥラレサの海で津波が来た時、ギルガメッシュ様の息子たちが気合で津波を打ち消したお話がありましてよ~~~!!」
「遠慮します。野菜が足りないので森へ行ってきます」
そういってエスタトゥアは逃げた。調理はハンゾウにまかせ、自身は籠を手に森の中に入る。
☆
「ふぅ、結構集まったな」
籠の中は野草でいっぱいになった。もともとエスタトゥアは山暮らしが長い。
どんな野草が食べられるか、毒を持っているか理解している。
村八分になっていたから村の人間と交流していなかったのだ。
精々行商人が壺一杯の木の実で塩と交換したくらいだ。
それすら村人は苦い顔をしていたようである。
「ふたりとも悪い人ではないんだけどな」
カンネもボスケも根は悪い人ではない。むしろ善人と言っていいだろう。
だが押しが強いというか、思い込みが激しいというか、人の話を聞かないことが多い。
人と関わることが少なかったため、あまり馴れ馴れしくされるのが苦手なのだ。
ポニトやブランコのように毎日顔を合わせているならまだ我慢できた。
「……」
エスタトゥアは茂みの中に何かを見つけた。それは巨大なマイタケであった。
しかしマイタケに顔があったのだ。その眼はエスタトゥアを見ていた。
だが彼女は無視して通り過ぎようとする。
「お待ちなさい!!」
エスタトゥアの前に地面がぽっこりと盛り上がった。
そこから先ほどのマイタケが飛び出してきたのだ。
それは踊り子で舞姫と名高いマイタケの亜人オーガイである。
「なぜ私を無視するのですか!!」
「いや、無視せざるを得なかったです。だってオーガイさんがこんな山の中で首だけになって埋まっているなんて」
「そうでしょうか? 私はマイタケの亜人ですよ。キノコなら埋まってて普通でしょう?」
「いいや、普通じゃありません!! というかなんであなたがここにいるのですか!!」
「ええ、ちょっとお散歩をしていたら偶然出会ったのです。いやー偶然は怖いですね」
「偶然じゃないよ!! というかこんな山奥まで散歩なんて無理がありすぎです!!
しかも埋まっている理由がわかりません!!」
「師匠として弟子に会うのにありきたりの挨拶は無粋でしょう?」
「埋まって会うほうがよほど無礼でしょうが!!」
エスタトゥアは息が切れかけた。あまりに突っ込みが多すぎて汗をかきすぎた。
オーガイは持っていた布で土を払う。肌がすべすべなのですぐにきれいになった。
「もしかしてハットリさんもいます?」
「もちろんいますよ。出てきてください」
オーガイがパンと手を叩くと、地面から何かが浮かんでくる。
それは見る見るうちに人の形になった。ナメクジラの亜人、ハットリである。
ハンゾウと同じ一週間の騎士であった。相変わらず巨体だが優し気な目をしている。
「ところでエスタトゥアさんはどうしてここに? ああ、私と同じ散歩ですか? もしくはハイキング?」
「そんなわけないでしょうが!! 山籠もりですよ。カンネと一緒です。
ちなみにボスケさんもなぜか来ていましたよ」
「まあ、カンネさんがここに? それとボスケさんも一緒だなんて!!
なんてすてきなのでしょう。こんな偶然はあり得ません。さあ会いに行きましょう。
今すぐ行きましょう!!」
オーガイは楽しそうであった。
エスタトゥアはうんざりした顔になっている。
ハットリが優しく彼女の叩いて慰めた。
「ありがとうございます」
にっこり笑うハットリはナメクジ特有のぬめぬめした肌だがほっとなる笑顔であった。
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