水上騎馬戦は18歳未満お断りです
「さあ勝負ですわ!!」
カンネは騎乗の上でエスタトゥアに人差し指を差す。
その姿は威風堂々としており、まさに王者、女王と呼ぶにふさわしい。
ヒールがあったら踏んでもらいたいと願う男たちは大勢いるだろう。
突きつけられた本人はうんざり顔であった。遊びに行こうとしたら母親に家事を手伝えと言われた子供のようであった。
こうして水中騎馬戦が始まったのであった。
本来はジライア村の勝利なのだが、カンネが納得しなかったからだ。
ライオンが死んだウサギを餌として与えられても意味がない。全力で狩ってこそ価値があるのだ。
この勝負にオロチマ村が勝っても変更されないのだが、あくまでおまけである。
「ああ、なんて面倒臭いんだろうか。もうやめたくてたまらない」
「仕方ありません。お嬢様は勝負に厳しいのです。こちらが不正をして負けても納得せねば気が済まぬのです」
「なら、なんでやったんだよ」
「よその大陸ならもしかしてと思いました。でも駄目でしたね」
ザマは半分あきらめ顔であった。人の話を聞かない親戚の叔父がいればこんな顔にもなるだろう。
エスタトゥアも同じ気分である。わざわざしなくてもいい苦労を無理やりさせられる感じだ。
カンネだけが盛り上がっているのだ。まるで収穫祭を楽しみにしている子供みたいに。
アマとルナはすでにやる気が起きない。イノセンテだけが同調していた。
「どんなことも勝負事は真剣にやらないとね。手抜きをしたら怒るのは当然ことよ」
「私としてはもう勝敗は決しているのでどうでもいいですが……」
「だからといって手抜きはだめよ。結果がわかっていてもそれを理由に投げ出すなんて村長の身内としてしてはいけないことだわ」
「それはそうですが、水泳大会は正直どうでもいい気がしますが……」
ヘンティルとアオイの空気も違っている。盛り上がっている一方で、片方は冷え切っているところだ。
それでも大会は続く。面倒でもやるしかないのだ。
売り子たちは煎餅やまんじゅうを売りさばき、甘酒やお汁粉はまだまだ残っている。
それらをすべて売り切りたいので、大会が続くことを容認されたのだ。
「さあ最終決戦です! というか勝負はすでにジライア村の勝利ですが、あくまでおまけです!
さてこの水中騎馬戦、ルールは簡単。敵チームの水着をすべて脱がせば勝ちです!!
頭だけ集中してもだめですから気を付けましょう!!」
「いや、なんだよそのルール!! 水着を脱がすだけでもやばいだろうが!!」
「いいんです! ここにはフエゴ教団が使う映像を撮る機械はありません!! みんなのまなこを大きく見開き、脳裏に焼き付けましょう!!」
エスタトゥアの突っ込みはスルーされた。
ヘンティルとイノセンテはやる気満々だが、ルナの顔は青くなる。キノコの亜人特有の白い肌が病的なまでになっていた。
アオイとアマはやれやれと首を振った。ザマは苦い顔になっている。
「ふむ。お嬢様のあの立派な胸がさらされますね。恥をかくか、男たちを沸かせるか悩みどころです」
ザマの言葉は無視することにした。
彼女の言葉は呪いが含まれている。まともに聞けば寿命が削られるに違いないからだ。
こうして水中騎馬戦が始まった。
ジライア村はカンネがリーダーで、オロチマ村はエスタトゥアだ。
水中故に足が取られる。接近した後ヘンティルはイノセンテのブラをむしり取った。
メロンのような乳房があらわになるが、筋肉がほとんどなので揺れていない。まるでサンドバッグみたいな硬さであった。
「おおっ、お姉さまやるです~。では私も!!」
イノセンテは恥じらいもなく、逆に姉のブラを取った。筋肉が分厚いので乳首は目立っていない。まるで鉄の胸当てのような形であった。
ヘンティルは恥じらいで顔が赤くなった。ベニテングダケの傘よりもさらに赤くなっている。
それを見たルナは泣き出してしまう。もう夜泣きをする赤ちゃんの如くだ。
「いや~~~!! もう帰りた~~~い!!」
「せなやぁ。こんなら客にもっと銭を取らせればよかったわ。ただで見せるのは虫が好かんわな」
「え~~~ん! こんなの悪夢よ、悪夢すぎる~~~!! えーっへっへっへ!!
もうどうにでもな~~~れ!!」
ルナは悪酔いし始めた。エア酔っぱらいだ。だが酔いに逃げたくなる気持ちはわかる。
下手すれば自分の胸が公衆の面前で公開されてしまうのだ。
普通の女性なら逃げ出したくなる状況である。
観客たちはオロチマ村に声援が飛ぶ。カンネたちを脱がせと叫んでいるのだ。
男たちは興奮して目を血走り、よだれをだらしなく垂らしている。
女たちはそんな男たちに肘内したり、尻をつねったりと大忙しだ。
「……私たちの胸などどうでもいいようですね。許せません」
「いや、あとで男たちは女房に張り倒される未来が見えますが」
ザマは殺意を強め、アオイは終わった後のことを考えている。もう手遅れになっているが。
エスタトゥアはもう混乱していた。どうすればこの状況を解決できるのだろうか。
頭が痛くてかなわない。頭がパカッと割れて卵のように黄身が出てきそうだ。
「ですが、これはチャンスですね」
「チャンス?」
ザマの言葉にエスタトゥアが反応した。いったいどういう意味だろうか。
「エビット団ですよ。こういう時こそ彼らが襲撃するのにちょうどいい状況はありません。
エスタトゥアさんもかつてサルティエラの町でも同じことが起きたではありませんか」
なるほどとエスタトゥアは思い返した。
サルティエラの町でも町を四方から大型獣たちが襲撃してきたのだ。
町を守るためのガトリング砲が何者かに台無しにされたが、町長のイザナミとヨモツ、ラタジュニアやカンネのおかげで助かったが。
「いや、いくらなんでもそんなことは……」
「天災は忘れた頃にやってくるといいます。もしかしたらもうすでに……」
ザマが言いかけると湖の中心から水しぶきが上がった。
それは巨大なビッグヘッドであった。
その頭のてっぺんには一人の男が立っている。
悪い予感は現実となって現れたのであった。
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