浮島戦でカンネ様がポロリをするよ!!
「なんなんだこれは?」
エスタトゥアは目の前の光景を見て茫然となっていた。
ちなみにここは三角湖のど真ん中にある小島である。
小島と言っても大きな岩のほうがしっくりくる。そこに木で作られた鳥居が立っていた。
その周りの木製の観客席が四方を囲んでいる。もし鳥にならば上空から見ると四角形のように見えるだろう。
大型船で見物人たちがやってきて、お気に入りの席についていた。カエルに蛇、ナメクジの亜人が多いが、猫や犬、ネズミに狸、狐の亜人もいた。
はるか昔に別の亜人の村から来た者たちの子孫である。
他にも旅人で突発的なイベントを見物している者もいた。
便所は大型船の中に設置してある。売店もそちらにあった。
ナメクジの亜人がせわしなく働いている。あくまでこの水泳大会はツナデ村の主催なのだ。
エスタトゥアは青いモノキニを着ていた。すべてツナデ村の職人が作ったものである。
初めて着る水着にちょっぴり恥ずかしいと思った。
そばにはアオダイショウの亜人であるアオイがいた。彼女は水色のビキニを着ている。
着慣れていないのか、エスタトゥアほどではないが体をもじもじさせていた。
「これが水泳大会の会場です。百年近く続く伝統なのですよ」
「へえ、そうなのか。なんとなくくだらなそうな感じだけど」
「はい。ものすごくくだらなく、女性陣には不評ですけど伝統でごり押しされて続いていますね」
アオイは不快そうな表情になった。地元でも女性には嫌われているようである。
今回この水泳大会が行われたのはエスタトゥアが原因であった。
彼女はクチナワ一家の客人でありながら、誤解からガマグチ一家の息子であるナガレを殴ったからだ。
さて小島にはいろいろなものが設置されていた。
浮島に木材で作られた足場など様々であった。
さらに大きなステージも設置されている。見た感じでは公園にある子供が遊ぶ遊具に見えた。
「あれは水泳大会の競技のためです。浮島戦や障害物競走に使うためですよ」
アオイが説明している。何度も見ているからすらすら言えるのだろう。
エスタトゥアは正直どうでもいいと思っていた。
けじめをつけるにしても、このようなわけのわからないイベントで決着をつけるのはどこか違うと感じていたのだ。
「オーッホッホッホ!! エスタトゥアさん! 今日こそ、どちらがエル様の正妻にふさわしいか勝負ですわよ!!」
カンネが高笑いしながらやってきた。黒いスリングショットを着ている。
体つきはグラマーなのでよく似合っていた。
後ろにはヤドクガエルの亜人であるアマとサシハリアリの亜人であるイノセンテがいた。
アマはぺこりと頭を下げ、イノセンテは好奇心からきょろきょろと見回している。
「いや、この勝負はクチナワとガマグチ一家の争いだろうが。俺たちは関係ないだろう?」
「関係なくなどありません!! 例えきっかけは別にしても運命がわたくしたちに勝負をしろとおっしゃっておるのですわ!!
そう、これは天が定めた運命なのですわ!!」
カンネは興奮していた。アマはどことなく諦めた空気になっている。イノセンテはあんまりよくわかってない様子であった。
これは思った。もう何を言っても無駄だと。
ちなみにルナは会場の端っこでエア酔っぱらい状態になっている。ストレスでエア泥酔してないと正気を保てないためであった。
☆
「さあ、三角湖名物水泳大会が始まります!! 司会はオンゴ村出身のニエベがお送りします!!」
司会は狐の亜人であるニエベだ。サルティエラのソルトスタジアムでも司会をしていた女性である。
関係ないがヘンティルたちとは幼馴染らしい。ルナも彼女の事を知っていたが、普段は幻燈屋で活弁の仕事をしているらしい。幻燈屋は映画みたいなものだが、規模の大きい紙芝居なものである。
フエゴ教団にも映画はあるがほぼ無声で、音声付きは製造していないという。
観客席は人がぎゅうぎゅうにつまっており、売り子が団子や煎餅を売り歩いていた。
村人はめったにない娯楽にわくわくしていた。
ちなみに開催式ではツナデ村の村長であるベンテンが挨拶した。
「今回はクチナワ一家とガマグチ一家の争いである。伝統ある三角湖で戦う女たちの雄姿をとくとご覧あれ」
そういって終わってしまった。詳しいいきさつは村人なら誰でも知っている。
早く水着美女たちの水着が濡れて、その身体に張り付く姿がみたいのだ。
亜人はかつて人間なので、どの亜人を見てもえっちな身体は興奮するものである。
「さて前座として村のアイドルグループ、月姫が歌ってくれます。どうぞ!!」
大きなステージの上で9名の少女たちが上がった。カエルに蛇、ナメクジの亜人が三名ほどに分かれている。
紺色と白、そして赤い色のワンピースタイプの水着を着ていた。なんでも年齢順で着る水着が違うのだろ言う。
「それでは聴いてください!! カブだいぶ好き!!」
そして少女たちは、歌い出し踊り出した。
「まるっこい~、カブは~、みんな大好き~、まっすぐなカブは~、ちょっと嫌かな~。
それでもカブの~、成長は~、抜き取るまでは~、わからないんだ~♪」
観客席の男たちは彼女たちが歌う姿を見て興奮している。
「コノカちゃ~~~ん! だいしゅき~~~!!」
「ホトリちゃんも、きゃわゆ~~~い!!」
「何言ってんだ、マイちゃんのクールさも素敵だろうが!!」
男たちはステージの上に立って踊っている女性たちを押していた。
さすがにエスタトゥアはついていけなかった。
「あれ? あの人たちのやっていることは俺と同じアイドルじゃないか」
「そうですわね。三角湖名物のアイドルグループ、月姫は村の伝統行事ですわ。
わたくしも初めて見ましたが、なかなかのものですわね」
カンネが解説してくれた。騒いでいるのは村人くらいで、他所から来た者は彼女たちの行動が理解できずにいた。
エスタトゥアの活動と同じであった。歌と踊りを一緒にするのが理解できないのだ。
というよりも特定の女性を推すという行為が意味不明である。同じ村に住む女性陣は男たちの痴態に呆れていたからだ。
「かつてニホンではアイドルというのが流行ったとの話です。もっとも最初の百年はいきるために必死で娯楽などありませんでした。
ここ最近になってからアイドル活動が活発化しておりますね。
もっとも田舎の伝統芸能としか映っておりませんが」
アオイが説明する。あくまで三角湖だけの活動であり、さらに収穫祭にしか歌わないので知名度は低いという。
例外は水泳大会のみで彼女らは各村から代表三名を選抜され、スクールミズギというものを着せられて踊るのだ。
ただしこの水着は評判が悪い。身体の体形がもろにわかるからだ。ビキニのように露出の多い方がまだましだという。
エスタトゥアたちの水着は露出が多いのは、羞恥心を下げる配慮があったためだ。
ただし動物型の亜人は毛に覆われていたりと人間と身体が違うため、一概には言えないが。
さて歌が終わると彼女たちは下がっていった。
そして競技が始まる。
「さあ最初は浮島戦です!! 水面に浮かんだ浮島に何人乗れるかが勝負です!!」
湖には大きな浮島が浮かんでいる。エスタトゥアたちは島を囲んでいた。
「スタート!!」
ニエベの合図が出て、エスタトゥアは浮島に上がろうとした。
だが浮島はすべりやすかった。しかも水に浮かんでいるから不安定である。
島は激しく揺れ、上がることが難しいのだ。
その様子を観客席で男たちが大興奮していた。
中には「ポロリを出せ!!」などと意味不明な声援を送っている者もいる。
すぐに浮島に乗った人がいる。アマだ。彼女はヤドクガエルの亜人である。
カエルほどではないが、ひっつきやすい手を持っていた。
次にアオイが上に上がる。ヘビゆえに身体は柔らかくバランスを取りやすいのだ。
「アオイ姐さんやるやんか」
「うふふ、アマさんもなかなかのものですよ」
ふたりは争う相手ながらも互いに敬意を表していた。
その一方でルナとヘンティルは苦戦していた。傘のような髪型のせいで登りづらいのだ。
それ以上に運動神経が皆無なので、体を使うことは苦手なのである。
ちなみにヘンティルは水に浮かびづらい。ほとんど筋肉なので脂肪がないのである。
筋力があっても必ず登れるわけではないのだ。
「うう、登れない。というか面倒くさくてたまらない……」
「ああ、体が浮かばない!! 脂肪がないから身体が浮かびにくい!!」
次に登り切ったのはイノセンテであった。彼女の鋭い爪が浮島をやすやすと上がることができたのだ。
「やったです~」
イノセンテは無邪気そうに笑う。
一方でエスタトゥアとカンネ、ザマは苦戦していた。毛が水を含んでいるので登りづらいのである。
「うう、まさかこのわたくしが水の中で苦戦するとは!! かつてエル様に敵意を抱き、ナトゥラレサ大陸から地中海を泳ぎ切ってオルデン大陸に渡ったわたくしが苦戦するとは!!」
「つーか泳いで渡ったのかよ!!」
エスタトゥアが突っ込みを入れた。
ところがザマは後ろに回り、カンネの水着を両腕で左右に引っ張った。
おかげでカンネの乳房は丸出し。観客席は男たちだけが大盛り上がりである。
「? ザマさん。わたくしの水着をずらして何がしたいのですか?」
「いえ、単なる嫌がらせです」
「あらあら、嫌がらせより、競技に集中しなさいな」
カンネはザマの嫌がらせに気づいていない。あまりにも天然にスルーするのでエスタトゥアは怖くなる。
結局制限時間が来て終了した。
浮島に残っていたのは、クチナワ組ではアオイだけで、ガマグチ組はアマとイノセンテであった。
勝負はガマグチ一家の勝利に終わった。
「オーッホッホッホ!! 結局わたくしたちの勝利ですわ!!」
カンネは勝ち誇っている。自分は浮島に上がれなかったのに自信満々なのがすごい。
その上胸をさらけ出されたのに、気にも留めていないのだ。彼女にとって人前で胸を晒すなど赤ん坊におっぱいをあげるのと同じなのである。
一方でエスタトゥアはやる気がなかった。
「なんでだろう? 勝負に負けても悔しくないのが不思議だ」
「それはばかばかしいからです。普通にけじめをつけるならともかく、こんな色物企画で決着をつけるなんてね」
ザマの言葉にエスタトゥアは激しく同意するのであった。
この章だけ12話にまとめます。
これは私にとっても初めての経験ですね。
そもそもヘンティルとイノセンテは出す予定はなかったのですが、水上騎馬戦でミスをしてしまい、4人必要になったのです。




