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意味なくキレてる人って絶対フラグだと思うよね?

「よし、さっそくジライア村に行こう」


 エスタトゥアはそう決意した。もうじき夜が明けようとしている。外は人一人出ていない。

 彼女のいる場所は木造の部屋だ。床は畳で、壁と天井は木造。そして出入りは襖という特殊な部屋だ。彼女はオロチマ村の村長であるクチナワの家に泊まっていた。

 昨日は主であるカピバラの亜人ラタジュニアと一緒だったが、暴漢に襲われ分かれてしまう。

 その際に自称婚約者を名乗るライオンの亜人カンネも一緒であった。

 ちなみにエスタトゥアはカンネのメイドである黒豹の亜人ザマがいた。

 彼女は暴漢の放った矢によって負傷している。今は一階の客間で養生していた。


 彼女はゴールデンハムスターの亜人だ。耳の位置は人間と同じで、顔はハムスター特有の模様が描かれている。

 喉から下腹部にかけて毛は薄っすらと生えていた。これは獣系の亜人にはよくある特徴だ。

 お尻にはぴょこんとかわいく短い尻尾がついていた。


 年齢は十歳故に乳房は膨らんでおらず、腰回りも寸胴と言えた。

 顔つきもどこか気の強さが目立っているが、人前では愛想笑いをすることを覚えている。


 彼女の普段着は革製のチューブトップビキニだ。

 獣系の亜人は全身毛で覆われている。犬みたいに皮膚呼吸が困難ではないが、それでも全身を覆う服は苦手だ。

 エスタトゥアは革ビキニに着替える。そして革のサンダルを履くと、すぐに家を出た。

 肌の露出が多くても色気を感じないのは、彼女に女の香りが漂わないためだろう。

 

「しっかし、歩いて半日でたどり着けるなんて珍しいな。

 普通なら丸一日はかかるのにね」


 話に聞けば三角湖トライアングルレイクは他の村と違って半日で反対側の村にたどり着ける距離だという。

 エスタトゥアはラタジュニアに拾われ、商業奴隷になる前は山で生活していた。

 彼女の母親は人間でよそからきたハムスターの亜人の男とできてしまった。

 そのためエスタトゥアたちは村八分になっていたのである。

 父親は彼女が生まれる前に村人に殺されており、母親はラタジュニアに拾われる前に病死していた。

 

 そのためか彼女は山の中で狩りをして生計を立てていた。それ故に山道はとても詳しかった。

 エスタトゥアはひたすら街道を進む。途中で馬車の音が聴こえたらすぐに街路樹の上に隠れた。

 こうしてエスタトゥアは日が昇り切ると同時にジライア村へたどり着いたのである。


 ☆


「ここがジライア村か。オロチマ村とあんまり変わらないな」


 ジライア村はほぼ木造の家でできていた。街道は石畳で、他の商店は石造りだが、一般の村人の家は木造であった。

 これは村の伝統文化らしい。フエゴ教団が五十年前にやってきたが特に問題は起きず、ジライア水運の運営には一切口を出さなかった。それどころか経営に必要な知識を与えたという。

 これは下手に経営に口を出すより、慣れた人間に丸投げして責任を回避するためだ。

 もちろん生活に必要な物資を取引するのも忘れない。


 三角湖の周辺に村を構えるのはジライア村とオロチマ村、そしてツナデ村の三つだ。

 それぞれ自分たちの役割を果たしている。

 ジライア村はカエルの亜人が多く、水運を担当している。

 オロチマ村はヘビの亜人が多く、漁業と水産加工を担当している。

 最後にツナデ村はナメクジの亜人が多く、かんざしや櫛などの工芸品を担当していたのだ。

 ちなみにフレイア商会で発行されたお札はツナデ村の職人が作ったものだという。


 彼らの先祖はニホンジンだという。かつて遠い異国から来た彼らはカンコウに来たと言われている。

 そしてキノコ戦争に巻き込まれたとき、彼らはこう願ったというのだ。


「ニホンに帰りたい」と。


 その願望が強く、しまいには帰りたい、かえりたい、蛙になりたいと願い、カエルの亜人に変化したという。

 ヘビとナメクジの亜人が生まれたのは三すくみが原因だというそうだ。

 カエルはヘビに弱く、ヘビはナメクジに弱い。そしてナメクジはカエルに弱いというらしい。


 これらは昨晩の食後にクチナワ一家の元締めであるアオダイショウの亜人、アオイが教えてくれたものだ。

 そんな言葉をエスタトゥアは思い出した。


「さっそく村長宅を探さないとな」


 さてエスタトゥアはジライア村の村長宅を探していた。今はヒキガエルの亜人、ガマグチ親分が支配しており、息子のナガレガマガエルのナガレが補佐しているという。

 

 さてエスタトゥアは一目を避けながら目的地を目指した。

 地理に詳しいわけではない。だがオロチマ村からでもジライア村を見ることができた。

 その中で一番立派な建物が港の近くにあった。

 たぶんそちらが村長の家なのだろう。その勘は当たったわけだ。


 すでに日は昇りきっており、家からは仕事に出かける男たちでにぎわっていた。

 ほとんどが着物を着ており、男は着流しであった。女はきちんと着物を着ている。

 外ではヘビの亜人が獲れたての魚を売り歩いていた。主婦らは魚売りを呼び止め、新鮮な魚を購入していた。

 

 エスタトゥアは目的の家にたどり着いた。クチナワ一家の家より立派な造りであった。

 外ではカエルの亜人たちが忙しそうにしている。

 かといってさぼって無駄話をしている集団もいた。


「おい聞いたか? 今朝土左衛門があがったらしいぞ」

「しかも相手はキノコの亜人らしい。これで三度目じゃないか」

「まったく引き上げたやつも災難だな」


 そんな中で港の方が騒がしかった。

 エスタトゥアはすぐにそちらへ向かっていく。


「てめぇぇぇぇ!! もう一片言ってみやがれェェェ!!」


 男の怒声が聴こえる。それはナガレヒキガエルの亜人であった。

 体格は大きく、ラタジュニアと同じくらいの背丈だ。力仕事をしているためか肉が盛り上がっている。

 腹はさらしを巻いており、褌を締めていた。

 おそらくこの男がガマグチ親分の息子ナガレなのだろう。

 怒鳴っている相手はラタジュニアであった。さらにカンネが右腕に組みついていた。


「……なんだ? 胸が締め付けられるぞ」


 エスタトゥアは遠巻きで見ていたが、ラタジュニアとカンネがくっついていることに胸の痛みを感じた。

 今まで経験したことのない痛みだ。これから彼女のすること以上の緊張感であった。

 ちなみにカンネはライオンの亜人だ。年齢は十二歳だがスタイルはよい。胸は豊満で腰は括れている。

 整ったヒップにはライオンのしっぽがゆれていた。

 彼女は革製のワンピースを着ている。胸は大きく開き、ヘソは丸出した。尻の部分は裾で隠れているが、ぎりぎりのラインである。


「てめぇ!! むかつくんだよぉぉぉ!! てめぇのしたことがどれほどうちを苦しめたかわかってんのかよぉぉぉ!!」

「わからないね。すべてはそちらが悪いんじゃないか? 自分たちを棚に上げて他者を攻撃するなど不毛だ。

 お客のためにサービスを向上することを目標にすべきではないのかね?」

「なんだとぉぉぉ!! 屁理屈をぬかすなぁぁぁ!!」


 ナガレは怒鳴るばかりであった。エスタトゥアは彼の様子を見て、思い出した。

 今まで自分に絡んできた相手は異様なまでに怒りっぽくなっていることを。

 そういうタイプがエビット団に操られていることを思い出したのだ。

 

「もうむかついた!! てめぇとは一対一で向き合わせてもらうぞ!!

 さあ、あの小屋に来い、来るんだ!!」


 そういってナガレはラタジュニアの左手を掴んだ。

 すると!!


 空からエスタトゥアが飛んできた。正確には屋根に上って飛び降りたのだ。

 そして木の棒でナガレの頭をしこたま叩いたのである。

 あまりの出来事にラタジュニアたちは茫然としていた。


「おっ、お前は何をしているんだ!!」


 ラタジュニアはものすごく怒った。いきなり自分の奴隷がナガレを意味なく殴ったのだ。怒鳴りたくなる気持ちはわかる。

 だがエスタトゥアは平然としていた。


「あんたのためさ。こいつはエビット団に操られている。

 自分たちの不幸をあんたの親父のせいにして、現実逃避をしているんだ。

 目を覚まさせてやらないとな。

第一、昔あんたの親父さんがクチナワ一家のアオイさんを救ったのが悪いなんてむちゃくゃな話はないからね」


 エスタトゥアの言葉にラタジュニアをはじめ、周りの男たちがきょとんとしていた。

 そして地面に倒れたナガレも痛みを抑えつつ、起き上がる。


「……おい、小娘。お前は何の話をしているんだ?」

「だからここの運営が悪いのはアオイさんのせいだって言いたいんだろ?

 昔こいつの親父さんがアオイさんを救ったのが悪いって。あの人が死んでりゃここは万々歳だったってね」


 それを聞いたナガレは烈火の如く怒りだした。


「バカな!! なんでアオイが関係あるんだよ!! 悪くなったのはこいつの親父のせいだ! 

 やつが人前でうちを一生利用しないと公言したからだ!!」


 どういうことだろうか? それをラタジュニアが補足した。


「親父がジライア水運を利用したとき、大切な荷物を三度もだめにされたんだ。

 だから思わず二度と利用しないと人前で怒鳴ったんだよ」


 ラタジュニアがやれやれと首を振った。おそらくちょうど別の商会の人間がそれを聞いていたのだろう。

 そのせいでジライア水運は閑古鳥が鳴き。オロチマ水運に客が来たというわけだ。


「あのラタが怒るなんてよっぽどのことだと。だからできるだけうちを利用しないと通告されたんだ!!

 それでうちは火の車になりかけているんだよ!! ちょうど奴の息子であるあんたが来たから話を付けてやろうと思っていたんだ!!」


 ナガレは頭を押さえながら怒鳴っている。言っていることは逆恨みだが、暴力を振るわれたのは別だ。

周りの男たちもエスタトゥアに向かって敵意を向けていた。

 わけのわからない理屈でナガレを殴ったことに腹を立てているのだ。


「いったい、アオイさんの話は誰から聞いたんだ?」

「クチナワ親分だよ。あの爺さんが俺に教えてくれたんだ!!」


 エスタトゥアが言い訳すると、周りの男たちはさらに怒声を上げる。


「クチナワ親分がそんなことをいうものか!!」

「第一オロチマ村は漁業が主流だ。水運業の権利はむしろうちに返したがっていたぞ!!」

「いくらボケても、そんなべらぼうなことをいう人じゃないんだよ!!」


 カエルの亜人たちは一斉に合唱を始める。別の村の村長でも多少は敬意を持っているようだ。

 いったいこれはどういうことだろうか?

 エスタトゥアは自分がしでかしたことを後悔するはめになったのだ。


「常識的によそ様をいきなり殴るなんてありえませんわよ」


 カンネに注意されてエスタトゥアは不機嫌になった。

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