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どうしてエスタトゥアは水泳大会に巻き込まれたのか?

「ついに決着をつけるときが来たようですわね!!」


 ライオンの亜人カンネが叫ぶ。彼女は黒いスリングショットを着ていた。

 十二歳だがメリハリの利いた身体で、乳房は大きく、腰は括れ、臀部は引き締まっていた。

 ここはある湖の真ん中にある小島である。島というより大きめの岩が水面に出ている程度だ。

 その上に木製の鳥居が建てられており、しめ縄が飾られていた。


 彼女はその小島の近くで三人の女性に支えられている。水の中に立っていた。

 ひとりはヤドクガエルの亜人で、青色のおかっぱ頭に黒い肌だ。白のタンキニを着ている。

 背は低く寸胴だが胸は水風船の如く膨らんでいた。


 もうひとりはツキヨダケの亜人で赤いセパレーツを着ていて紺色のパレオを腰に巻いていた。キノコの亜人は肌がつやつやで、豊満な胸の持ち主であった。

ただなんともやる気のない表情である。

 最後はサシハリアリの亜人であった。褐色肌で短く刈った銀髪にメロンのような胸の持ち主だが、妖艶さは感じない。どことなく幼さを残している。白いビキニを着ていた。


 一方でゴールデンハムスターの亜人であるエスタトゥアは青いモノキニを着ていた。十歳故に胸は平らで寸胴であった。

 彼女を支えるのは黒豹の亜人ザマと、アオダイショウの亜人だ。頭部には白い髪の毛が短く生えていた。

 最後はベニテングダケの亜人がいた。赤い毒々しい傘を持ち、男と間違えそうな筋肉の持ち主である。れっきとした女性だ。


 ザマは黄色いビキニを身に付けており、青みの強いアオダイショウの女性は水色のビキニを身に付けていた。ベニテングダケのほうは赤いマイクロビキニだ。

 こちらは四人ともスレンダーな体つきである。悪く言えば洗濯板のような貧乳の持ち主であった。


(どうしてこうなった!?)


 エスタトゥアの心中は荒れていた。なんで自分はこんな目に遭っているのだろうか。

 とても面倒臭い状況にうんざりしていた。

 それをザマがわざと空気を読まずに囃し立てる。


「エスタトゥアさん。この勝負絶対に勝利しますよ。私とあなた、そしてアオイさんの怨念をお嬢様たちにぶつけましょう!!」

「確かにうちと向こうは因縁がありますが、私個人に怨念などありませんが……」

「何をおっしゃいますか!! 向こうにいるアマさんを見てください。

 あなたより年下なのにあの巨乳!! ゆるせると思いますか!!」


 アマはヤドクガエルの女性である。


「いや、個人の体型など興味はないのですが……。そもそも授乳の必要がないのに胸の大きさを気にしても仕方がないと思いますが……」

「そうよね~。あたしは脂肪より筋肉を鍛えたいですわ~。キノコの亜人だと女性は筋肉を求める傾向がありますから~」

「かといってヘンティルさんのように筋肉質にはなりたくないですね」


 アオダイショウの亜人、アオイは困惑していた。蛇の亜人は表情が読みにくいのがあきらかにザマの言葉への返答を悩んでいる。

 ベニテングダケの亜人であるヘンティルは空気を読まず、筋肉の話しかしていない。

 一方で興奮するザマは初めて見た。特に胸の方を見て敵意をむき出しにしていた。


 彼女らの周りは木造の観客席が四方を囲んでいた。

 東側はカエルの亜人が多く、西側はヘビの亜人が多かった。

 南側はなめくじの亜人で、北側は人間や様々な亜人が混じっている。

 多いと書いたがどちらの方も異なる亜人がちらほら座っていた。

 

 ちなみにラタジュニアは北側の最前列の席に座っている。

 その表情は重かった。

 なんとなくエスタトゥアと同じように面倒ごとに巻き込まれて迷惑している感じである。


 さて彼女らがこうなった理由は三日前にさかのぼるのであった。


 ☆


「これで川を下るのか」


 エスタトゥアは大型の木造船を見て感動した。

 船はとっても大きくて数十人を乗せても余裕があるものだった。

 さらにラタジュニアの愛馬クエレブレを乗せられるのだ。その規模はかなりのものである。

 船体には『オロチマ水運』と書かれてあった。

 他にも『ジライア水運』と書かれた船もある。どちらも人夫が慌ただしく荷下ろしをしていた。


 ちなみにラタジュニアが選んだのはオロチマ水運の船だ。蛇の亜人たちが客を案内し、荷物を丁寧に運んでいる。

 すでにクエレブレは船内に入っていた。こちらも人夫が丁寧に扱っている。


「ああ、八蛇河はちへびがわだけでなく、大きな河は大抵ジライア水運やオロチマ水運を利用する。

 サルティエラでは大量の精製した塩を各地に運ぶ大事な船だ。

 昔は馬車ではいけない村もこいつを利用していたらしい」


 ラタジュニアが説明した。エスタトゥアもエル商会では会計のブランコからオルデン大陸の歴史などを教えてもらっていたので知っていた。

 もっとも実際で見るのでは話が違う。やはり実物を見てこそ身に付くものだ。


「ちなみにオロチマやジライアは村の名前だ。八蛇河の下流には三角湖トライアングルレイクがあり、不等辺三角形の形をしている。

 頂点のAを基準にすると、bの方はジライア村でカエルの亜人の元祖である村だ。

 cはオロチマ村でヘビの亜人、最後にaの村はツナデ村といってなめくじの亜人が住んでいるな。

 ちなみにツナデ村は職人が多く住み、細工物で有名なところだ」


 ラタジュニアが説明した。カンネは初めて見る水運業に関心を払っている。

 ザマはおとなしく後ろに従っていた。

 すでにイザナミやヨモツとは別れの挨拶は済ませてある。

 実はラタジュニアの父親であるラタも来ていたが、息子だけで挨拶していた。

 仕事が忙しいのですぐにコミエンソに帰ってしまったらしい。ちなみにフレイア商会の会長であるオロもヴァルキリエとともにその日のうちに帰ったそうだ。


 事件は一応解決したことになっている。数日前に起きた獣たちの襲撃と、防衛に使われるガトリング砲を使用不能にした犯人はエビルヘッド教団のスレイプニルの仕業として広報されていた。

 町の中では町を襲った不幸はすべてエスタトゥアのせいだと大声で言いふらしたものがいたという。

 そいつの容姿を聞くと、ぼろを着た汚らしい人間の男だったという。

 

 髭を生やしており、髪の毛はぼさぼさで悪臭を放っていたそうだ。

 そいつがスレイプニルである可能性は高い。だがなんでエスタトゥアたちには顔を隠していたかは不明だ。

 イザナミはすぐさまフエゴ教団に電話で連絡を入れた。通信費は塩山で働く人夫の日当分かかる。

 あとはフエゴ教団騎士団の仕事だ。自分たちは気を付けていればいい。


「おい、お前ら!! なんで俺たちの船を利用しないんだよ!!」


 男が絡んできた。カエルの亜人だ。シロアゴガエルの亜人である。褌一丁で、半被を着ていた。

 なんとも人相の悪そうな男で、やたらと威圧的な態度であった。

 周りの客たちは男の大声に怯えている。同僚たちも止められずにいた。


「悪いがもうオロチマの船を予約しているんだ。そちらの船はまた後日ってことで勘弁してください」

「んだとてめぇ!! そういってうちを利用したことなんかねえだろうが!! 

 俺様をなめてんのかよ!!」


 シロアゴガエルはラタジュニアに殴りかかった。

 彼は軽く躱し、男の拳は空を舞った。

 男はこけて、地面に倒れる。悔しそうに呻いている。


「何してやがる! シロアゴ!!」


 ジライア水運の方から男が走ってきた。ワライガエルの亜人だ。背中に黒い斑点がある。倒れたシロアゴと呼ばれた男の腹を蹴る。


「このトンチキが!! よくもガマグチ一家の看板に泥を塗ってくれたな!!

 いつまでも過去の栄光にしがみついてんじゃねぇ!! クソがッ!!」


 散々シロアゴを蹴ると、ワライガエルの亜人はラタジュニアたちに頭を下げた。


「申し訳ありやせんでした。あっしはワライガエルの亜人アチャコでございやす。

 ジライア水運はガマグチ一家の番頭を務めておりやす。

 あっしの監督不行き届きでございやす。許してくんなまし」


 アチャコはそういってシロアゴを立たせた。そして無理やり頭を下げさせる。

 シロアゴは口では謝罪したが、目は屈辱で赤くなっていた。


「アチャコの兄貴!! こいつはあのライゴ村のラタの息子ですぜ!!

 あいつらのせいでうちは冷や飯食いになっちまったじゃねぇか!!」

「やかましい!! そんなもん関係ねぇや!!

 てめぇみたいなクズがいるから、うちの評判はさがっちまうんだ!!

 飲む、打つ、買うしか能がねぇくせに、文句ばかりは一人前ときたもんだぜ!!」


 そういってアチャコはまたシロアゴを殴った。

 そして若手の人夫に引きずられていく。


「なんて人でしょう! 偉大なるエル様だけでなく、ラタおじ様に対しての侮辱!!

 到底ゆるされることではありませんわ!!

 すぐにでも向こうを訴えてあの男の首を飛ばしてやりますわ!!」

「その必要はない。あいつにそんなことをする価値などないんだ」


 カンネは興奮しているが、ラタジュニアは冷静なままであった。


「あの男、シロアゴは小物だ。小さい犬が自分の小ささをごまかすために吠えるようなものだ。

 俺に暴力を振るったのはふりだ。本気じゃない。やったらマジで首になるからな。

 俺をびびらせて、楽しみたいだけなんだよ。首になったらあの手の奴は何をするかわからないからね」


 ラタジュニアはカンネに説明した。カンネもそれに納得し、渋々と従う。


「ああ、なんてエル様は寛容なのでしょう。まさに神にふさわしい器ですわ。

 それに引き換えわたくしの心の狭さはなんということでしょう。

 自分の卑小さは反省しなくてはなりませんわ」


 相も変わらずカンネ劇場が繰り広げられている。

 正直毎回見せられると慣れてくるものだ。


 こうしてエスタトゥアたちは船に乗った。

 木造船に揺られて下流へ向かう。エスタトゥアは船外でぼーっと河の流れを見ていた。

 巨大なホシムクドリが水の中を泳ぐブルーギルたちを狙って急降下した。

 すると巨大なアメリカザリガニが水面から飛び出し、ホシムクドリの首をハサミで挟む。

 そして水の中に引きずり込み、羽根が水面に散らばっていた。

 それを見たエスタトゥアは自然の力を見せつけられた気がした。


 さらに川岸には猿の一団が魚を獲っていた。

 進化したカニクイザルが腰巻をつけ、打製石器で巨大なヌートリアを狩り、余りを川に捨てていた。

 彼らは亜人と違い、言葉が通じない。亜人でも意思の疎通ができないのだ。

 フエゴ教団も彼らとの接触は控えている。もっとも遠目で見る限りは無害なのでほうちされているそうだ。


 カンネも一緒に眺めていたが、ナトゥラレサ大陸ではよくある光景であり、向こうではキメラと呼ばれる怪物が徘徊しているという。

 アライグマなのに尻尾が蛇だったり、カエルの背中に鳥の羽が付いたりといろいろだそうだ。

 そしてそれらを狩るのが闘神王国ファイトキングダムでは勇者の証らしい。世界は広いなとエスタトゥアは思った。


 途中で港のある村により、宿を取る。食費は運賃込みで含まれており、各村の名物が食べられる。

 昼は弁当が出されるなど至れり尽くせりだ。

 他の客はオロチマ水運のサービスに上機嫌である。一方でジライア水運の悪口を言っていた。

 あいつらは傲慢で客を客と思っていないと不満げであった。


 流れる船に揺られ、エスタトゥアはのんびりとした気持ちになった。

 だが彼女は知らない。まさか自分自身が厄介ごとに巻き込まれるなど、神のみぞ知ることである。

やはりアイドル物で水泳大会は外せないでしょう。

もっとも26話で完結させていたら思いつかずにいたでしょうね。

今回のエピソードは本来水泳大会とは無関係で書く予定でした。

当初ラタジュニアは名前を隠し、親の七光りに頼らない設定だったのです。

マッスルアドベンチャーを執筆中にはすでにトゥースペドラーの設定は固まっていました。

実際はなんでアイドルを目指したのか、いまだ作者である私にも理解できていないです。

これが小説を書く面白さですね。終着点は頭にありますが、その過程を書くのが楽しいです。

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