表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トゥースペドラー ハムスターアイドルが無茶な人たちに絡まれます  作者: 江保場狂壱
第五章 エスタトゥアは始球式に参加することが決まりました
31/64

ボスケさんにオーガイさん、バットを振ってください!!

『それではエスタトゥアさんに歌っていただきましょう!!

 曲名は買いたかった、です!!』


 司会者は狐の亜人でニエベという女性だ。彼女の元気いっぱいな声が広がる。

 ソルトコロシアムでは大勢の客が鮨詰め状態であった。

 もういっぱいとしか言いようがないほどである。客席からの声はまるでやまびこのように響いていた。


 大勢の客に見守られている中、ゴールデンハムスターの亜人であるエスタトゥアは歌う。

 衣装はフレイア商会のチーム犬侍党レザボアドッグスが着る赤いユニフォームだ。

 ちなみに彼らはレフト側のスタンドにいる。全員犬の亜人であった。


 監督はトノサマガエルの亜人だが。名前はクエンティンというらしい。

 体色は背面が茶褐色で、背中線上に明瞭な白色の線がある。

 背面に黒い斑紋があり、斑紋同士がつながっていた。


 対するライト側はラタ商会のチーム鋼鉄の巨人スーパージャイアンツがいた。

 こちらはエメラルドグリーンのユニフォームを着ている。

 人間より大きな体を持つ巨人族の投手に、ヤマアラシの亜人である捕手など種族は問わないチームのようだ。


 こちらは玄武岩の亜人が監督だった。身体は黒っぽく、見た目は彫像のように見えるが、時折動いている。

 あんな種族がいるのかと感心するぐらいだ。


「買いたかった~、おかず一品、買いたかった~♪

 だけど亭主に銭はない~、堅い煮干しが関の山~♪」


 エスタトゥアはマウンドの周りを踊りながら歌った。

 演奏はサルティエラで活動する楽団だ。

 ボスケに鍛えられた喉と、オーガイに躾けられた踊りは見事である。


「変なガキだな。歌いながら踊っているぞ」

「なんというか三角湖トライアングルレイクで行われた祭で見たことがあるな」

「しかし斬新だな。とても気に入ったよ」


 観客の評価はまちまちであった。

 歌と踊りを同時進行することが理解できない者もいれば、面白がる者もいる。

 サルティエラは様々な文化が入り混じっており、エスタトゥアの行為はそういった珍しいものとして受け止められていた。


 そして歌い終わると、ぱちぱちと乾いた拍手が返ってくる。

 とりあえず拍手といった感じだ。大半はよくわかっていない様子である。

 とりあえず最後はボールを投げて終わるのだ。

 エスタトゥアはここに来るまでの事を回想する。


 ☆


「もともと俺はお前ではなくポニトをアイドルに育てるつもりだった」


 医務室でラタジュニアが告白した。これは驚かなかった。

 ポニトとは彼が経営するエル商会で働く商業奴隷でシマリスの亜人だ。

 六歳くらいで純粋な性格をしている。見た目も可愛かった。


「ちなみにお前は最初から商業奴隷にするつもりだった。ところがフレイア商会からとんでもない報告が来たときは驚いたよ。

 まさかお前の神応石が大きいなんて知る由などなかったからな」

「だからといってなんで俺をアイドルにしようと思ったんだ?

 意味が分からねぇよ」

「意味はある。アイドルとは偶像だ。そして偶像は人々に夢を与えるものだ。

 暗い人生に火を灯し、冷たい心を暖めてくれる。それがアイドルなのだ。

 お前にはスキルの才能がある。人々の心を癒すアイドルになれば、誇張なしでオルデン大陸を制覇できるだろう。

 お前はそんな存在になれるんだよ」


 ラタジュニアの表情は真剣そのものであった。

 エスタトゥアはそれを見て彼は本気だと確信する。

 

「もっともお前を引き取るのに苦労したよ。本当は嫌だったけど母さんの名前を出して渋々承諾させたのさ」

「母さんだって? 父親の名前は使えないのかよ」

「ああ、使えない。俺の母さんはフエゴ教団の司祭だ。それも神応石しんおうせきの研究が主なんだ。

 本当は俺の伯父夫婦の仕事だったが、不慮の事故で亡くなったために母さんが跡を継いだのだよ。

 もちろんフレイア商会にも協力してもらっているがね」


 エスタトゥアはよくわからなかった。だが神応石というのが重要なのは理解できる。

 そのために自分がエビルヘッド教団に狙われていることは納得しがたいが。

 そちらは後日に改めて話すことにした。


「とりあえず今日の始球式を終えたら、三日後にはコミエンソに帰る準備はする。

 帰りは八蛇河はちへびがわを船で帰るつもりだ。

 そこから下流を下り、黒蛇河を抜けていけば一週間でコミエンソにたどり着ける。

 まあ途中の港で宿を取るけどな」


 こうして話は切り上げたのであった。

 さてエスタトゥアは気持ちを切り替えて前を見る。

 バッターはなぜかボスケだった。ウシガエルの亜人の女性で、鋼鉄の巨人のユニフォームを着ている。ぴちぴちであった。

確か球団の選手が出るのではなかったのか?


『ここでボスケ様がバッター席に立ちました。なんとエスタトゥアさんはボスケ様の弟子なのです!!

 弟子の投球を師匠はどう受け止めるのか、刮目してください!!』


 エスタトゥアはボールを投げた。ひょろひょろと飛んでいく。

 だがボスケはバットを構えていない。逆に息を大きく吸い、声を出した。


 ボヘェェェェェェェェェ!!


 その瞬間、ボールは空中に止まった。そして勢いよく飛んでいく。

 ボールはソルトスタジアムの外へ飛び出したのだ。

 場外ホームランである。


『なんとボスケ様はバットを振らず、ホームランをかましました!!

 恐るべきは声の力!! 声だけでボールを飛ばすなどまるで伝説の魔女セイレーンの如きです!! まあ実際は歌声で船員を惑わすだけで、ボスケ様みたいな真似はできませんけどね。

 ですがルールを守ってバットを振ってほしかったです!!』


 ニエベの興奮する実況に客席も沸いた。歌姫ボスケの歌唱力はさることながら、声の破壊力もだんちがいであることを見せつけたのである。

 エスタトゥアもさすがは師匠だと小声で褒めた。


『次はオーガイ様です。彼女もエスタトゥアさんの踊りの師匠です。

 さあ、どんな技を繰り広げてくれるのでしょうか!!』


 今度はオーガイだ。彼女はマイタケの亜人で身体にエメラルドグリーン色の布を巻いているだけである。

 

「こういうのって一回で終わるんじゃなかったのかな?」

「ふふふ。特別に無理を言ってもらったのです」


 オーガイは頭を下げた。エスタトゥアはそれで納得する。

 先ほどと同じくボールを投げた。

 オーガイはバットを力なく振った。まったくかすらないと思われた。

 

 しかし彼女が身に付けていた布は腰の回転で勢いよく振られている。

 ボールは真っ二つになってしまったのだ。

 オーガイはごめんなさいと頭を下げるが、客席はどよめいた。


『なんとオーガイ様は身体に巻いた布で切断してしまったァァァ!!

 なんたる威力、ただの布が凶器と化しました!! まさに伝説の水の精アプサラスの如しです!!

 オーガイ様は体内の微量な電気を操り、布に瞬時で電流を流すことができるのです!!

 でもやっぱりバットを振っていただきたかったです!!』


 ニエベの実況はますますエキサイトしていった。

 客席もボスケとオーガイの技を見れて大興奮である。

 エスタトゥアのパフォーマンスなどみんな忘れてしまっていた。

 もっとも彼女は悔しいと思わない。自分はふたりにはまったく敵わないと自覚するのだった。


「まあ、なんということでしょう!! さすがはボスケ様にオーガイ様!!

 おふたりの妙技をこの目に焼き付けられる幸福はありませんわ!! 

 それ以上にエスタトゥアさんですわ!!

 今はまだおふたりの物まねですが、修業を重ねれば師匠を超えるかもしれませんわ!!

 そうなってしまってはわたくしの正妻の座が危うくなりますわ!!」


 来賓席でカンネはマウンドを見下ろしながら興奮していた。

 ちなみに隣にはラタジュニアが座っている。

 ザマはメイドとしてふたりの世話をしていた。


「いや、エスタトゥアはそういう関係じゃないから。

 というか君を正妻にする予定もないから」

「オホホホホ。何をおっしゃいますか。

 照れなくてもよいのですよ。わたくしはエル様のお嫁さんになるためにナトゥラレサ大陸から来たのですから」

「最初は私を殺そうとしたけどね。ライオンがネズミの嫁になるなど認めないって。

 そもそもハンニバル様の冗談を真に受けてわざわざこちらに来た君が恐ろしいよ」

「あらやだ。そんなにお褒めになるなんて。

 あの時のわたくしは何も知らなかったのですわ。あなたのトゥーススキルで地面に何度も叩き付けられ、顔面がボコボコになるまで打ちのめされたあの日は忘れられませんわ。

 ああ、今思い出しても濡れてきましたわ。

 エル様! わたくしもエスタトゥアさんと同じようにアイドルになりますわよ!

 そしてエル様の寵愛はすべてわたくしのものですわ。おーっほっほっほ!!」


 まったく話を聞いてくれない。さすがのラタジュニアも頭が痛くなった。

 ザマはそんな彼にコーヒーを差し出した。

 

「お疲れ様です。モテる男は大変ですね。チッ」

「ありがとうザマ。でも舌打ちはよくないな。カンネに聞かれたらどうするんだ?」


 ラタジュニアが注意するも、ザマはカンネの方を指さした。

 彼女は一人で悶えているのだ。


「……ああ、自分の世界に入り込んでるな」


 ラタジュニアは諦めた。ザマはお辞儀をした後部屋を出る。

 ラタジュニアはカンネの甘い声を隣で聞きながら、グラウンドを眺める羽目となったのだった。

今回で始球式編は終わりです。

次回はさらにはっちゃけた内容になるので期待してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ