脅迫状の犯人をカンネとエスタトゥアが探すことになった
「さぁいらっしゃいませ。エル商会のハンバーガーが二百テンパでございます」
ソルトコロシアムの入り口近くには多くの屋台が並んでいた。
その近くに椅子やテーブルが百近く並んでおり、大勢の客でにぎわっている。
エスタトゥアとカンネはいろいろ見回っていた。
「さあ、熱々のおでんだよ。ブラックバスとブルーギルで作ったちくわに、リンゴスグミガイの煮物もあるよ。
大根にこんにゃく、インドクジャクの玉子もあるよ」
「こちらはソバだ。きつねにたぬき、月見におろしと豊富だよ。
それにアメリカザリガニの天ぷらもあるよ。こちらは百テンパで追加だよ」
「おっとこちらは生寿司が食べられるぜ。スサノオ水産から取り寄せた冷凍の魚介類がたっぷりだ。イカにタコ、いろんな魚が食べられますぜ」
とある一画には変わった食事が売られていた。どれも聞いたことのないものであった。
エスタトゥアはもののためしとおでんを注文する。初めてなので店主が適当に見繕った。
大根にがんも、こんにゃくが紙の皿に載せられ、味噌なるソースをかけられる。
エスタトゥアはそれを頬張った。熱々の大根は汁気をたっぷり吸っており、渋い味がする。がんももこんにゃくも不思議な食感であった。
さらに味噌の味も甘辛く、とてもいい味である。
「うまいな。これ。手間はかかってないように見えるがなんとも深い味わいだな」
「ほほほ。当然ですわね。ここサルティエラはワショクと呼ばれる料理が多いのです。
イザナミ様が幼少時に食べた味を継承しておるのですわ」
カンネが高笑いを上げた。なぜ彼女が威張るのか理解できない。
エスタトゥアは無視して、おでんをたいらげた。
腹が満たされると、横から声をかけられる。
それは人間の女性だった。二十代で茶色の髪の毛におさげをした眼鏡をかけている。
「失礼いたします。私はフレイ商会の店員です。
あなたは今おでんを購入なさいましたね。
現在各お店で食事をなさった方には緑茶を一杯サービスしているのです。どうぞ」
そういって女性は紙コップの緑茶を渡してくれた。
それはエスタトゥアだけではなく、他の客にも配っている。
よく見ると店員は茶色いエプロンを付けていた。金字で猪のマークが入っていた。
「あれはフレイ商会のマークですわね。ワショクでは緑茶を。洋食ではコーヒーを配っておりますわ。もちろん子供向けのジュースのサービスを主なっておりますわね」
カンネが説明する。なんでわざわざ飲み物をただで配るのかわからなかった。
これは客の満足度を高めるためだ。飲み物一杯だけとはいえ、ただは嬉しいものである。
一杯分の利益は大したものではない。原価は十テンパぐらいだ。
だが客はサービスされると嬉しいのだ。
「あんたはすごい人だな。これで旦那様に関わらなければ感心するのに」
「おーっほっほっほ!! わたくしはエル様の正妻ですわよ。
これくらいのことは常識ですわ!!」
相変わらず高笑いを挙げている。周りの家族連れはひそひそ話をして、遠巻きで見ていた。
エスタトゥアは恥ずかしくなり、今度こそラタジュニアの方へ行く。
エル商会の屋台は人が多かった。こちらはハンバーガーを売る店なのだ。
客はお目当ての物を口にできてホクホク顔であった。
だがエスタトゥアは客の持つハンバーガーに目をやる。
それはいつものパンではなく、白い米で作られたものだった。
店はラタジュニアがすべて調理を担当していた。
あらかじめ用意したパンズにパテ、そして野菜を注文されるごとに調理していくのだ。
会計はザマが担当しており、手際よく接客をこなしていた。
屋台には張り紙があった。
『サルティエラで獲れたサルティエラ米で作られたライスバーガーを売ります。
小麦で焼いたパンもあります』
ライスバーガーという聞いたことのないものだった。
いったい何だろうかと、ラタジュニアの調理を見ていた。
パンズは米の飯を固めて焼いたものだ。それをパンの代わりにハンバーグとレタスを挟んでいる。
「あれは二百年以上前に作られたライスバーガーですわね。ニホンジンという種族が発明したものですわ」
「じゃあ、あいつの発明じゃないのか」
「確かにその通りですわ。ですがサルティエラはパンより米の飯が主食ですわ。
それに様々な料理が入り混じっており、ライスバーガーを受け入れられる土台はできておりますのよ。
みてごらんなさいな。ライスバーガーを食べるお客たちの笑顔を!!」
カンネは手を向ける。お客はみんなおいしそうにライスバーガーを食べていた。
「おいしいね。ごはんを使ったハンバーガーってゲテモノと思っていたけど悪くないな」
「むしろ米の飯でハンバーグとレタス、バランスのとれた食事ができるからすごいね」
「コミエンソでエル商会のハンバーガーを食べたことはあるけど、サルティエラならではのものを用意するとは。さすがライゴ村のラタの息子だな」
みんな感心していた。ラタジュニアは一心不乱にハンバーガーを作り続けている。
その眼は真剣そのものであった。
「すげぇな。旦那様は。調理もできるんだな」
「当然ですわ!! エル様はラタおじ様から商人として大切な技術を叩きこんでいたのですから!!
いつでも実家を出れるように鍛えぬいたのですわ!! ハンニバル商会の商業奴隷ですらラタおじ様のしごきに耐えられず泣き出すものが多くてよ!!
それに耐え抜いたエル様は最強なのですわ!! わたくしと間に子供を作ることを運命づけられているのですわ!!」
カンネは自分に酔っていた。エスタトゥアは呆れている。
ふと周りを見ると先ほどのフレイ商会の店員がライスバーガーを買った客に緑茶をふるまっていた。
「あれ? あんたはフレイ商会の人間だろ? こちらはエル商会だぞ」
「関係ありませんよ。ここでお店を開いた人はみんな仲間です。フレイ商会の関係者でなくてもドリンクサービスは行っておりますので」
店員は笑顔で返した。エスタトゥアは感心する。
「くふふ。賑わっているようですね」
後ろから声がした。まったく気配がしなかったので驚いた。
それはヨモツであった。灰桜色のマントを頭からすっぽりかぶり、目元を隠している。
その下は均整の取れた裸体が丸出しであった。
着ているものはビキニで大事な部分をぎりぎり隠している卑猥なものである。
「げっ、ヨモツさん!」
「くふふ。エスタトゥアさん。今日の始球式は絶対やりますので、ご安心くださいな」
エスタトゥアから離れるとヨモツはくんくんと鼻を鳴らした。
するとあるゴミ箱に集中する。
ヨモツは右手を上げると、黒色の鎧を着た兵士たちがやってきて、ゴミ箱を回収した。
「何をしているんですか?」
「あなたは知らなくて大丈夫ですよ。私がすべて責任を持ちますから」
兵士に命じて、新しいゴミ箱を設置する。
そしてヨモツはその場を立ち去った。
「なんだありゃあ?」
エスタトゥアはヨモツの後姿を見て呟いた。
気のせいか何か慌ただしいものを感じた。
「臭いますわね」
カンネが独語した。それは真剣な表情であった。
「なんとなくヨモツ様は焦っている様子ですわ。わたくしが噂で聞いたヨモツ様のイメージと剥離しておりますわね」
「いや、理想と現実は違うんじゃないのか?」
「いいえ。わたくしは初めてヨモツ様と会った時から理想と一致しておりましたわ。
それどころかわたくしの貧弱な予想をはるかに上回ったと言っても過言ではありませんわ。
そんな彼女が焦るなどありえないことですのよ」
カンネは真剣な目で、ヨモツの去った後を見つめている。
本当にラタジュニアが関わらなければすごい人なのだ。欠点ひとつで台無しになる残念美少女である。
「どうやら脅迫状が届いたようですよ」
いきなり背後から声がした。それはザマであった。接客を投げだしたのかと思ったが、屋台には品切れと張り紙が張ってある。
どうやら完売したようだ。周りには残念がる客が大勢いた。だが一向にその場を立ち去ろうとしていない。
それにラタジュニアの姿が見当たらない。どこへいったのだろうか。
「エル様は買い出しに行かれました。予定より商品が売れたためです。
ですがお客様の希望にこたえるべく、すぐに出かけたわけですね」
なるほど彼らしいと思った。だが話はザマへ向く。
いったい脅迫状とはなんのことだろうか。
「兵士たちの会話で知りました。どうやら今日の始球式を中止しないと爆発するとのことです」
「それでゴミ箱を回収したのですね。納得しましたわ」
「いや、なんで納得するんだよ。意味わからないんだけど」
エスタトゥアの疑問にカンネとザマは首を横に振る。
「ヨモツ様は臭いで知ったのですわ。あの方の嗅覚は常人のより高いのですのよ。それこそ犬と同じ能力ですわ。
あのゴミ箱に火薬の臭いがしたから回収したのですわ」
「……すごいな。あの人がいればもう心配いらないな」
するとカンネは表情を曇らせる。
「いいえ。おそらくはまだ解決できていないのですわ。でなければ焦る必要はありませんもの。
憶測ですが相手はヨモツ様の力を理解している。だからこそそれを逆手に取り、ヨモツ様を翻弄しているのですわ。
なんとも不届きな者でしょう。脅迫をしてイベントを中止にして楽しむ愉快犯など許せませんわ。
エスタトゥアさん、わたくしと一緒に犯人を捜しますわよ!!」
そういってカンネはエスタトゥアの右手を掴んだ。
「えー!? なんでだよ! それはここの責任者の仕事だろうが!!」
「甘いですわね。始球式を中止にすることはあなたを出すなということ。
すなわちエル商会が目立つことを許せない輩というわけですわ。
そう!! エル様を侮辱して楽しむということですわ。そんなことは断じて許してはならないのですわ!!」
カンネは独自の思考回路で激高していた。エスタトゥアは呆れている。
そもそもヒントなどないのだ。自分たちが脅迫者を探すと言ってもヨモツは一般人に漏らすことはないだろう。
だがザマは平然としていた。わがままなお嬢様の突飛な行動にも冷静であった。
「大丈夫です。私がある程度の情報を得ました。それを元に調査するといいでしょう」
ザマが自信ありげに答える。いったい彼女はどうやって情報を得たのだろうか?
「読唇術ですよ。遠くで兵士たちが口を動かすのを見て知ったのです」
読唇術とは唇の動きを読み、相手の喋っている内容を知る術である。
そんなことができるのかとエスタトゥアは感心した。
それをザマはエプロンから一通の手紙を取り出した。
「これは脅迫状です。ヨモツ様が持っていました」
「……一応聞くけど、本人が渡したのか?」
「いいえ。先ほどすり取りました」
泥棒じゃんか!! と心の中で突っ込みを入れた。
カンネは忠臣の手柄を手放しに誉めるのであった。
「違います。ヨモツ様には黙っているだけで、あとで返しますから」
ザマは心を読むかの如く、くぎを刺すのであった。




