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トゥースペドラー ハムスターアイドルが無茶な人たちに絡まれます  作者: 江保場狂壱
第四章 エスタトゥアにライバルができた
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塩山の責任者ヨモツさんは強い

「ここが塩の生産地さ」


 ある昼下がり、サルティエラの町の北部にエスタトゥアとラタジュニアは来ていた。

 そこは岩山で何十人もの半裸の男たちが汗水たらして働いている。

 地面にはレールがひかれてあり、トロッコを押していた。それが木造の家の中に出入りしている。

 トロッコには何か半透明の石が山積みされている。エスタトゥアはどこかで見た気がした。


 木造の家の周りにはヤギウマの馬車が数十台あった。それらに何かが詰まった麻袋がひっきりなしに運ばれてくる。

 そして鉄や銅、銀や金など様々な鉱石も運ばれていった。

 あの半透明の石から取れたものだろうか。


 なぜ二人がここに来ているのかといえば、エスタトゥアに見学させるためである。

 昨日町にやってきた二人に、サルティエラの町長であるイザナミが次の日に塩山に案内しようと勧めたのだ。

 もちろんラタジュニアは断らなかったし、エスタトゥア自身も興味があった。

 ちなみに夕食はイノブタの丸焼きに、野菜たっぷりのスープだ。デザートは山盛りの果物である。

町長とは思えないほどの豪快な食事であった。


「あれ? あの石どこかで見たことがあるぞ。

 確か、でか頭が涙と一緒に出す石じゃなかったのか?」


 エスタトゥアは思い出した。かつてプリメロの町にあるフレイア商会で商業奴隷になる訓練を受けていた時のことだ。

 黒猫先生から学んだことがあった。それはビッグヘッドという怪物は涙鉱石るいこうせきと呼ばれる石を涙と共に出すという話である。

 その中身は鉄であったり、銅であったりと様々な種類があるらしい。

 村の近辺では涙骨るいこつの山が築かれるとの話だ。ビッグヘッドにスマイリーという属性があり、そいつらが人を食べ、その骨が涙と共に流れ出るのである。

 ビッグヘッドは排出した涙鉱石を一か所にまとめる性質があるからだ。


「正解だよ。あれは涙鉱石だ。半透明な部分を砕いて中身を取り出し、残りは精製して塩として売るんだよ」

「あれって塩になるのかよ。というか気持ち悪くないか?」


 エスタトゥアは非難した。だがイザナミはまったく動じない。

 

「気持ち悪いなんて言ってられないよ。人は塩がなくちゃ生きていけないんだ。

 それに涙骨から獲れた塩は使わないよ。さすがに人の骨かもしれないから使えないね。

 もっとも中身の骨は利用価値があるけどな」


 イザナミは大きく口を開けて笑った。まるでスープに虫が入っても気にならない様子である。


「でもなんであの山にそんなものがあるんだろう? それに涙鉱石から塩が取れるなんて誰が教えたのだろうか?」


 エスタトゥアの疑問はもっともであった。そこを別の誰かが声をかけてきた。


「それはオルデン大陸に恵みをもたらしたミカエルヘッド様なのです」


 それは異質な女性であった。年齢は二十代前半で身長はすらりと背が高く、手は鞭のようなしなやかさで、足は身体の半分を占めているほどの長さであった。

 褐色肌で、乳房は豊満だった。身に付けているものは革製のビキニだが、乳首と大事な部分をかろうじて隠しているにすぎなかった。

 異形なのは頭部から眼にかけてだ。


 彼女は頭からすっぽりと灰桜色はいざくらいろのマントを被っていた。マントの裾は膝まであった。

 目元はマントで隠されており、帯で止められていた。とても前など見えそうにない。マントの中から短く切りそろえた髪の毛が見えているので、剃髪しているわけではなさそうだ。

 そして手には大鎌サイズを持っていた。まるで使者を迎えに来る死神のような恰好であった。


「くふふ。私の名前はヨモツと申します。イザナミ様の玄孫やしゃごです。この塩山の責任者であります」

「玄孫って、確か孫の孫だよな? あの人いったいいくつなんだ?」

「今年で百歳です。ちなみに私は二十歳はたちですね」


 エスタトゥアはイザナミを見た。とても九十九歳の老婆には見えなかった。

 なんとなくだが、彼女より自分が老衰で死ぬのではないかと疑うほどだ。


「おいヨモツ! 私はまだ九十九歳だぞ! 間違えるんじゃない!!

それにレディの年齢を暴露するんじゃないよ。恥ずかしいだろ?」

「ごめんなさい。イザナミ様。私が不躾でした」


 イザナミに叱られ、ヨモツは頭を下げた。


「つーか、恥ずかしがる歳かよ。九十九も百も似たようなもんだろう?」

「全然違う!! まったく似ていない!!」


 イザナミは大喝した。年齢はいくつになってもデリケートな問題であるらしい。

 これはエスタトゥアがまだピチピチの十歳であるからだろう。


「ところでミカエルヘッドってなんだよ。でか頭の親戚か?」


 話がズレそうなので修正することにした。


「その通りです。二百年前にオルデン大陸に様々な動物と植物をもたらした天使なのです。

 当時はキノコ戦争のせいでほとんどの生物は死にかけていたそうです。

 生き残った人間は亜人と化すことで人の肉を喰い、生き延びました。死んだ人の肉が主だったといいます。

 そして亜人になれなかったものも、人の肉を喰うことで生き延びたのです。こちらは生まれたての赤ん坊を絞殺し、塩漬けにして保存したとの口伝で語られていました。

 そう、各村でよそ者を嫌うのはそのためです。過去に忌まわしい悪行を知られたくないためによそ者を締め出すのですよ」


 ヨモツが説明してくれた。人間が亜人になっただの、各村がよそ者を嫌う理由だの一気に情報を与えられたために頭が破裂しそうであった。

 代わりにイザナミが説明してくれた。


「これは私のおじい様が話してくれたことだ。ミカエルヘッド様は初代町長であるサルティエラ様に命じたのさ。

 涙鉱石から獲れる塩を使って王になれとね。そして百年後に箱舟の子孫がやってくるから、その者たちと手を組めとね」

「箱舟の子孫てなんだっけ?」

「今のフエゴ教団本山、コミエンソに住む者たちの総称さ。もっとも各村の村長と婚姻を進めているから、もう血は混じりまくっているだろうがね。

 もっともよそ者と混血することに今でも忌み嫌う人間はあとを絶たないがね」

「なんでだよ。なんというかみんな同じことをしたんだろう? なんでよそ者と結ばれるのがそんなに嫌なんだよ」


 エスタトゥアの疑問はもっともだ。現在オルデン大陸で生き延びていた人間は大抵人間の肉を食べて生き延びた子孫たちだ。

 いわば似た者同士である。例え真相を教えてもらわなくても自分たちの立場を踏まえれば予測は付くはずだ。

 なのに、各村の人間はなぜよそ者を嫌うのだろうか。


「そりゃあ、誰にも口にしたくないからね。家族だけならともかく嫁とかはあくまでよそ者だ。

 負の資産をうっかり口にしてしまう恐怖は計り知れないからね。そして口を滑らせ村八分になる危険もある。

 サルティエラ様もその恐ろしさは知っていたが、ミカエルヘッド様の神々しさには消し飛んだようだよ」

「ちなみにミカエルヘッド様は空飛ぶビッグヘッドです。オルデン大陸だけでなく、人の足では踏み込めない土地に恵みをもたらしました。

 この岩山に涙鉱石を大量に持ってきてくれたそうです。今でも4年に一度は口いっぱいに頬張った涙鉱石を運んできてくれます。

 他にも人間たちに失った科学を教えるキングヘッド様もいます。

 そして七つの海をまたぎ、海を浄化するネプチューンヘッド様もいますね」

「ちなみに今の話はフエゴ教団の司祭以上の人に話しちゃいけないよ。

 知っていることがばれたら死刑にはならないけど、遠いナトゥラレサ大陸に飛ばされるからね」

「だったら教えるなよ!! 俺にとっては頭がパンパンになるほどの情報だよ!!

 つーか、知りたくなかったよ!!」


 エスタトゥアは憤慨した。涙鉱石の話からビッグヘッドの話になるとは思わなかったからだ。

 ところが突如男たちが暴れ始めた。誰もかれもが恐慌しているのだ。

 ここで働く男たちは皆筋肉モリモリなので普通の人なら手で突いただけで吹き飛んでしまうだろう。


「ヒィィィィ!! オシマイダァァァ!! オシマイナンダァァァ!!」

「もう俺たちは助からないィィィ!! 食い殺されるゥゥゥ!!」

「死にたくない、死にたくないよォォォ!!」


 大男たちは暴徒と化した。何を恐れているのかはわからないが、彼らは怯えている。

 それも普段は臆病で大人しい熊のようだ。予期せぬ訪問者に衝撃を受け、興奮状態になっているのである。

 とても厄介な状況だ。男たちは殴り合い、略奪をしようと町へ向かおうとしていた。


「落ち着きなさい」


 男たちの前にヨモツがひらりと舞い降りた。

 男たちは津波のように押し寄せてくる。女ひとりでは太刀打ちできそうにない。

 エスタトゥアがあぶないと叫ぶが、後ろからラタジュニアが肩に手をやった。


「心配いらない。この塩山の責任者は血筋や七光りなど通用しないことを彼女が示してくれるだろう」


 ヨモツはまったく動じてない。目が不自由だからだろうか。

 いや、彼女の耳には男たちが踏み鳴らす大地の音が、楽団の如く響いているはずだ。

 そして男たちが生み出す怒りと恐怖の熱風を感じないわけがない。


「なんだ、あの女は!! エロい体をしやがって!!」

「おっぱいとお尻をこれ見よがしに見せつけているぞ。あれは誘っているぜ!!」

「よーし、どうせ死ぬならあの女を思いっきり犯してやるぜ!!」


 男たちの視線がヨモツに集中する。肉食獣が無防備な草食動物を見つけた心境だ。

 自然に腹が鳴り、涎が垂れる。自分たちが得る快楽を予測し、さらに脳内麻薬が分泌されていった。

 だがヨモツは身を悶えていた。まるで誰かに抱かれているような快感を得ているように見える。


「くふふ、見られている。みんな私を見てくれている。

 目は見えなくとも、みんなの視線は私にくぎ付け。こんな素晴らしいことはない!!」

 

 ヨモツは手にした大鎌を振るう。

 普通なら敵を切り裂くために鎌を振るうと思うだろう。だが女ひとりでは数人傷つけても焼け石に水のはずだ。


「知ってますか? 死神の鎌は人を切るのではない。

 この世の未練を狩るのですよ」


 ヨモツは口を大きく開いて笑った。その様子はまるで彼女が肉食獣のように獲物を狙う笑みだ!!


 ヨモツは男たちより高く跳びあがった。そして大鎌を振り回す。

 まるで竜巻のように鎌を振る様は、まさに天災ではないかとエスタトゥアは思った。

 もっとも鎌はきれいなままだ。誰ひとり傷つけていない。

 だが様子がおかしくなった。男たちの波を後方へ進んでいくたびに男たちはおとなしくなっていくのだ。


 そして最後尾にたどり着くと男たちはまったくおとなしくなってしまったのである。

 エスタトゥアは何が起きたのかと目を疑った。


「なっ、なんだこりゃあ!! 暴徒がおとなしくなっちまったぞ」

「ヨモツさんの力だよ。彼女は肉を切らない、精神を切るんだ」

「それってあんたみたいなスキルの力なのか?」

「それに近いかな。だが彼女の技は肉体的なものじゃない。長年サルティエラ一族が磨き続けた技の賜物だな」


 ラタジュニアが説明した。どうも要領を得ないが解決したからよしとしよう。

 先ほど荒くれていた男たちは幼児のようにしょんぼりとしている。

 ヨモツは興奮して両手で自分の乳房を揉んでいた。


「ああ、見てくれた。私のいやらしい身体を見てくれた♪

 でも私をめちゃくちゃにしてほしかった。でも町をめちゃくちゃにされるわけにはいかなかった。

 ああ、なんて二重拘束ダブル バインド!! 身体が火照ってきましたわ~~~!!」

 

 ヨモツは右足を天高く上げ、左手で恥部を撫でている。そして右手は左乳房を鷲掴みにしていた。

 まさに痴女である。あまりに卑猥な状況にエスタトゥアは正気に戻った。


「ちょっとまてよ! なんでこいつらが暴れだしたのか、理由を聞くのが先決だろうが!!」

「それは終わったよ」


 イザナミがあっさり答えた。見ると右手だけで男の頭を掴んでいる。

 男はぐったりとしており、べろんとだらしなく舌を出していた。

 イザナミはまるで枕を掴んでいるような感覚で、平然としている。


「別の男を尋問して答えさせた。落ち着かせるのに苦労したよ」


 イザナミはヨモツの方を向いてなかった。最初から彼女が解決すると信じていたのだ。

 いや、解決して当然と思っていたのだ。


「……で、なんで暴れだしたんだ?」

 

 エスタトゥアが絞り出すような声で質問する。

 するとイザナミの口からとんでもない言葉が飛び出した。


「この町に大型の獣の大群が迫ってくるってさ」

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