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トゥースペドラー ハムスターアイドルが無茶な人たちに絡まれます  作者: 江保場狂壱
第三章 エスタトゥア、アイドル巡業へいく
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はじめてのファン

あけおめことよろ。せっかくの元旦なので投稿することにしました。

「それでは失礼いたします」

 

 カピバラの亜人であり、エル商会の会長であるラタジュニアは目の前に立つ、山猫の亜人であるガトモンテスに頭を下げた。

 時刻はすでに朝の八時だ。ほとんどの村人は働きに出ている時刻である。現にここジョバンニ広場では仕事に出かけるキノコの亜人たちの傘が色とりどりであった。

 ちなみに時計は村長や教会、各商会くらいしか所持していない。製造はすべて職人の手作りであり、非常に高価だからだ。

 村の中央には時計台があり、時刻を知らせるくらいである。


 昨日は獣人族のフアナ一家が襲撃してきた。名目はかつてエスタトゥアの村を襲った男たちデスピアダドたちの復讐であった。

 だが彼女らは何者かに操られていたのだ。まるで夢遊病者のように起きたら別の場所にいたというありさまだったらしい。

 フアナたちは捕縛され、矯正奴隷としてナトゥラレサ大陸に送られる予定である。

 あかんぼうたちは商業奴隷として引き取られている。こちらは特例としてナトゥラレサにある商人が預かり、いつかは返す予定だ。

 獣人族にとってよそ者は捕食対象でしかないが、家族を大事にする傾向がある。下手にあかんぼうをひきはがすのは危険なのだ。

 ちなみに父親は兄弟たちだという。育成の責任は重大であった。


「いや、こちらも世話になった。また来てください」


 ガトモンテスは挨拶する。フアナの暴行されたが、気にも留めていない。あくまで興奮した犬にかまれたと思っていた。

 店は荒らされたが、ルナとエスタトゥアが一緒になって片づけたので店はきれいなものだ。

 それに肝心の食材や調理道具は無事であり、すぐにでも営業は再開できる。

 ラタジュニアは迷惑料を払おうとしたが、断られた。こんなことはよくあることなのだ。いちいち金をもらっているとゆすっているようで気分が悪くなるのである。


「それではまた会いましょう」

「またね」

 

 エスタトゥアがルナに頭を下げた。

 昨日の彼女の奮闘を見て、ルナは面倒なだけではないと理解している。

 それでもあのエア酔っぱらいがなければいいのにと思わなくはない。

 あるじのガトモンテスも同じ気分であろうと同情せざるを得なかった。


「さて、いくとするか」

「それではまた会いましょう」

「それじゃあね。またおいしい食事を楽しみにしてますよ」


 ラタジュニアはガトモンテスたちに別れを告げ、自分の幌馬車へ向かった。

 幌馬車は村にある教会へ向かっていた。いったい何の用があるのかとエスタトゥアが訊ねた。


「ああ、教会に用事があるんだ。電報が届いているかもしれないからな」

「電報……、ああ、フレイア商会で習ったな」


 電報とは発信者の原文を電信で送り、先方で再現して受信者に配達する通信のことである。

 モールス信号を受信し、それを職員が解読するのである。

 教会には電話がある。だがそれは緊急事態にしか使えないもので、普段は電報を利用していた。

 

 ラタジュニアは村を出るとき教会へ行き、電報を確認する。毎日朝の八時と決めていた。

 もしかしたら商会の留守を預かるブランコから緊急連絡が来るかもしれないからである。

 エスタトゥアが今初めて知ったのは、ラタジュニアが村を出る前に教会に行っていたからだ。

 今回は早めに出たため、気づいたのである。


「たいへんなのれすゥゥゥゥゥ!!」


 突如大声が上がった。声のする方向に向くとそこには茶色い毛玉がころころと転がってきたのだ。

 とてもふわふわしており、抱き心地は良さそうだ。

 それがラタジュニアたちの前に止まる。そしてすくっと立ち上がった。


 それはハムスターであった。茶色の被毛に顔全体が真っ白である。

 六才児ほどの大きさであった。エル商会にいるシマリスの亜人ポニトと同じくらいの背丈である。

 首には炎の紋章が模られた前掛けがつけられている。

 それは司祭の証であった。間違いなく亜人であった。


「おお、あなたがエル商会のラタジュニアさんなのれすね!!

 たいへんなのれす。たいへんなことがおきたのれす!!」


 ハムスターの亜人は興奮している。頭に血が上っているのか、なかなか本題に入らない。

 ぜぇぜぇと肩で息をしている。ふたりは落ち着くのを待っていた。 

 するとエスタトゥアに目を向けた。みるみるうちに目が明るくなり、彼女に歩み寄った。


「おお、エスタトゥアちゃんなのれす! ぼくはきのううたとおどりをみたのれす!!

 もうとってもすてきだったのれす、ぼくはひとめぼれしちゃったのれす!!

 ファンになったのれす、サインをくださいなのれす!!」

 

 すると毛の間から色紙とペンを取り出した。いったいどこから出したのか疑問だがそこにはふれない。

 エスタトゥアは困惑しながらも、色紙を受け取った。


「サインて、俺の名前でいいんだっけ?」


 一応ラタジュニアからはサインの意味を知っている。それにボスケやオーガイもファンからサインを求められたのを見たことがあるので理解できた。

 だが実際に自分がサインを書くことになるとは思わなかった。

 しかも自分のファンがサインをねだる。なんだかくすぐったかった。


 エスタトゥアは自分の名前を書くと、ハムスターに差し出した。

 ハムスターは大喜びして、ぴょんぴょん飛び回っている。

 お礼を言うと、ハムスターはホクホク顔で立ち去った。

 いったいなんだったのかと、二人は呆れている。


 さて幌馬車を走らせようとすると、また砂煙をあげながら毛玉が突進してきた。


「わすれていたのれすぅぅぅ、たいへんなことがおきたのれすぅぅぅ!!」


 ☆


「ぼくのなまえはラタジュニアれす。ロボロフスキーハムスターの亜人れす。

父親はトム村の村長の次男、ラタれす。

そしてぼくはオンゴ村の教会の司祭れす」


 ハムスターがぺこりと頭を下げた。先ほど司祭といったがとてもそうはみえない。

 なにしろエスタトゥアよりも背が低いのである。

 もしかして自称しているだけなのではと疑っていた。


「……本当に司祭なのか? とてもそうは見えないけど」

「失礼な!!ぼくはおとなれす!!

 から~~~いおとなのカレーライスも食べられるし、ミルクなしのコーヒーも飲めるのれす!!

 それにぼくは結婚しているのれす、子供はふたりいるのれす!!」


 なんとも面倒臭そうな性格だが、結婚と子供の単語が引っ掛かった。


「子供がいるって、あんたは何歳だよ」

「今年で四四歳れす!!」


 ハムスターは両手を突き出し、親指だけまげていた。

 四四歳。とてもそうは見えない。やたらと甲高い声で、声変わりなどしてないようだ。

 とても子供がいるとは思えなかった。そこにラタジュニアが彼女の耳元にひそひそとささやいた。


「エスタトゥア、お前ヒラソル司祭の奥さんであるペルラを覚えているか?

 この人はペルラの父親なんだよ」

「ええっ、こいつよりあの人の方が母親に見えるぞ!!」


 ラタジュニアの言葉にエスタトゥアは驚愕した。

 ペルラはジャンガリアンハムスターの亜人で、目の前のオンゴ村司祭よりはるかに体格は大きかった。肝っ玉母さんと呼んでも仔細なかった。

 こっちが息子といわれても違和感がないほどである。


「あれ、そういえばこの人、ラタジュニアって名乗ったよな?

 あんたと知り合いか?」

「直接の知り合いじゃないな。遠縁だよ。

 俺のおやじが住んでいた村はネズミの亜人を多く迎えていたんだ。

 トム村は猫の亜人が多く住む村だが、ネズミの亜人を嫁に迎えているな。

 大抵はコミエンソに住む亜人は村長の子供で、遠からず血縁関係はあるな。

 ちなみにネズミの亜人はラタという名前が多い」


 その話を聞いて違和感を覚えた。かつてロキという男が難癖をつけたときだ。


「じゃあラタって必ずあんたの父親と限らないわけか」

「その通りだ。フレイア商会の支店長にはラタという人はいるし、

 アラクネ商会の装飾デザイナーにもラタはいる。こちらは女性だがね。

 さらに枢機卿のひとりにもラタはいるな。こちらは人間の父親から跡を継いだ人だ」

「するとロキの言っていたことは無意味なんだな。親父さんより有名人がいるからな」


 するとロキはただラタジュニアに難癖をつけていただけだったのか。

 そもそも司祭の杖のことを全く理解せず、そのくせ自分の作った規則を押し通そうとした。

 結果は法に敗れ、強制労働刑となり、実家のウトガルド商会は潰れてしまったが。

 人に粘着し、嫌がらせを楽しんでいる様子を思い出し、腹立たしくなってきた。

 

「そうなのれす! そのロキが脱走したのれす!!」


 オンゴ村司祭は興奮していた。なんでも今朝電話で連絡が来たという。

 ロキを乗せた馬車が突如ビッグヘッドに襲撃された。そのせいでロキが逃げたのである。

 目下捜索中だが発見されていないという。


「あの男が脱走したのかよ。これは厄介だな」

「そうでもないぞ。あいつは脱走した。もうあいつはお尋ね者だ。

 騎士団に見つかればリンチに遭うだろうし、即犯罪奴隷として扱われるだろうな。

 それにフエゴ教団の情報網は侮れない。電話だけでなくファクスというものがある。

 すでに近辺では顔写真が送られている。もうあいつは終わりだよ」

 

 ラタジュニアが言った。もうロキなど眼中にない様子であった。

 だがエスタトゥアは不安である。

 ロキの蛇みたいな執念に寒気を感じるのだ。


 そもそもビッグヘッドが襲ったこと自体異常なのだ。

 人を喰いもせず、ただ馬車だけを破壊して逃げたという。

 この特別種のビッグヘッドがもたらした凶事はいったい何を示すか不明であった。


 あとラタジュニアは電報が来たかと訊ねたが、司祭は来ていないと答えた。


 ☆


 ラタジュニアたちが去った後、オンゴ村司祭は教会に戻った。

 すると信者の女性がやってきた。黒髪のおかっぱ頭の人間である。


「ラタジュニア司祭様。エル商会のラタジュニア様からの電報が来ました」

「あれ? そうだったれすか? もうかれらは村を出てしまったのれす」

「それは困りましたね。どちらに向かったかわかりますか?」

「確か塩の町へ行くといっていたのれす。ここから村を二つ経由するから、すぐ追いつくはずれす」

「それではすぐに追うように手配いたしましょう」


 こうしてラタジュニア宛の電報が騎士の早馬で届けられることになった。

 電報の中身はこうだ。


『カンネキマシタ ブランコ』

今年最初の投稿です。

オンゴ村の司祭は当初考えてませんでした。

それもペルラの父親にするとは思ってなかったのです。


あと26話で完結させるつもりでしたが、やめました。

完結にこだわらず書き続けたいと思いますね。

ちなみに次の更新は水曜日です。休みが取れたから一日一遍書き上げて予約投稿します。

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