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トゥースペドラー ハムスターアイドルが無茶な人たちに絡まれます  作者: 江保場狂壱
第三章 エスタトゥア、アイドル巡業へいく
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復讐者たち

「うわぁ、獣人ベスティアだぁ、獣人族が襲ってきたァ!!」


 オンゴの村は大騒ぎであった。まるで蜂の巣を突いたような騒動である。

 ラタジュニアとエスタトゥアは何事かとガトモンテスの店を飛び出した。

 すると目の前には異様な光景が目に入る。


 村が女たちに襲われているのである。大体九人ほどいた。

 その姿は異様であった。肌は黒く、髪は縮れて短い。そして額には緑色の鳥の刺青がしてあった。

 乳房と臀部は毛皮でまとっていた。手にはこん棒を持っている。


 さらに異質なのは女たちが頭部に丸裸のあかんぼうをくくりつけていたのだ。

 しかもあかんぼうはきゃっきゃと笑っている。

 女たちは乱暴に、肉食動物のように激しく飛び跳ねていた。なのに泣きもしないのだ。


「獣人か!! なんでやつらがこんな村まで入り込んでいるんだ!!」

 

 ラタジュニアが叫ぶ。それにエスタトゥアが質問した。


「獣人てなんだよ?」

「獣人は人間でありながら人間を喰らうようになった連中さ。

 普段は少数の旅人を襲撃する程度だが、こんな大きな村に襲撃するなんてありえない。

 そう、お前の村を襲った連中と同じだよ」

「まじでか?」

「しかも彼女らの額の刺青はパポレアルの一族を示している。あそこは長老以外人を口にしたことはないし、祭壇に捨てられた赤子以外手をかけない一族のはずだ。これはいったいどういうことだ?」


 ラタジュニアは信じられない表情を浮かべていた。

 だが現実では起きているのだ。なぜと問うより現状を打破することが大事である。

 ラタジュニアはすぐに気持ちを切り替える。獣人たちを一掃することを優先することにしたのだ。

 エスタトゥアを店に残し、ガトモンテスに任せて、自分だけ騒ぎの大きい方へ向かっていく。


 村の広場では女たちがこん棒を振り回していた。村人たちに対して暴行を働いている。

 だがけが人は少ない。女たちは奇声をあげ、こん棒を乱暴に振るっているが見た目だけだ。

 まるで目立つために暴れているように見えた。


 女たちはラタジュニアが到着するとぎろりと彼を見た。

 そしてにやりと笑う。頭部のあかんぼうもきゃっきゃと笑っていた。


「カピバラだ」

「あいつがおとうたちを殺したかたきだ」

「あいつのいったとおりだ」


 すると女たちは一斉にこん棒を振り上げ、ラタジュニアに襲いかかった。

 ラタジュニアは慌てず、両手を後ろに組み、トゥーススキルを発動させようとした。

 

 こん。


 ラタジュニアの頭部に石が投げられた。バランスを崩したラタジュニアに女たちが容赦なくこん棒を振るう。

 もっとも分厚い毛皮に包まれており、それほどの衝撃は受けなかった。

 ラタジュニアは姿勢を低くし、一旦距離を取ることにする。

 

 だが子供くらいの身長しかない女がラタジュニアの腰にしがみついた。

 まるでネズミのような出っ歯で背中にあかんぼうを背負っている。

 そしてこちょこちょと脇をくすぐるのだ。とてもではないがスキルを発動することができない。


「こいつら! こいつらは知っている!! 俺がトゥーススキルを使うことを知っている!!」

 

 もちろんラタジュニアはスキルが人にばれていることは理解していた。

 そもそもスキルは見られても支障がないのが普通だ。あまり特殊すぎると対策を立てられるからである。

 それにしても獣人たちが自分のスキルを知っていることが意外であった。


「慢心か!? 慢心がいまの状況を生み出したのか!! 

 だとしたら俺はおおまぬけだぞ!!」


 ラタジュニアは自身を呪う言葉を吐く。ネズミ女はくすぐりをやめない。

 さらに背中の赤ちゃんがラタジュニアの顔にしがみつく。

 視界を遮られ、ラタジュニアは困惑した。


 しかし女たちはラタジュニアに対して襲ってこないのだ。

 ネズミ女を引きはがそうとすれば女がこん棒を振るい、邪魔をする。

 それだけだ。それに女たちに殺気が感じられないのだ。

 自分を仇といいながら、冷静に自分を邪魔しているのである。


「もしかしてこいつらは囮なのか、最初から俺を足止めすることが狙いなのか!!

 だとしたらこいつらの目的は何なのだ!? そもそもベスティアが復讐を望むなどありえない!!

 家族が死んでもすべては自然の導きで済ませるはずなのに!!」


 ☆


 エスタトゥアは店の中で待っていた。ラタジュニアが自慢の前歯で敵を倒してくるのを待っていた。

 敵を倒すだけでなく、家をクワガタのハサミの如く挟んで解体したり、重い荷物を軽々と持ち上げたりとなんでもできるのだ。

 そんな彼が負けるなど考えられない。エスタトゥアはガトモンテスが持ってきたデザートを食べている。


 ライスプディングという米を使ったデザートだ。

 米をヤギウシの乳と砂糖で煮込み、シナモンパウダーをふりかけたものである。

 レモンとシナモンの香りと甘さがとても美味であった。


「今頃旦那様がすべてを解決してくれるだろうな」

「もちろんさ。坊ちゃまは強い。獣人など一ひねりさ」

「……好事魔多しというけどね」


 エスタトゥアとガトモンテスが話をしている最中に、ルナが割り込んだ。彼女は遅い昼食を取っていた。

 二人は微妙な顔になる。

 するとコンコンとノックの音がした。ガトモンテスは扉を開ける。


「どーも。エスタトゥアさんはおられますか?」


 それは水牛のように大きな女だった。肌は黒く、髪の毛は縮れており、もみあげ部分は三つ編みになっていた。左右にあかんぼうがしっかりとしがみついている。

乳房はスイカのように大きく、胸の谷間にあかんぼうがちょこんと座っていた。

両手にはこん棒が握られている。どれも血を浴びて黒くなっていた。


「ぐふふ。おらはデスピアダドの妻、フアナだど。今日はおらの父ちゃんたちのかたきをうちにきたど」


 フアナは右手でこん棒を横に振った。ガトモンテスは吹き飛んだ。

 エスタトゥアは叫ぶが、ガトモンテスは大丈夫だと答え、逃げることを促す。

 その言葉に反応して逃げようとするが、すでに店の周りは女たちに囲まれていた。


「ぐふふ。おまえがエスタトゥアか。たしかにハムスターだと。

 おまえがとうちゃんたちを殺したと、おしえてもらったど。

 だからおらたちはかたきをとる。そしておまえの肉をくらうだど」


 フアナはのっしのっしとエスタトゥアの元に歩いてきた。

 さすがの彼女もあまりの恐ろしさに足がすくんでいる。ネコに睨まれたネズミのようだ。

 フアナは人間ではなかった。台風のような天災だ。来るのがわかっていても逃げることができないのだ。


 エスタトゥアは店内にある椅子を投げて応戦した。

 だがフアナはこん棒を手放し、椅子を受け取る。そして床に静かに置いたのだ。


「ものをそまつにしてはならないど。ものをつくるのはとってもたいへんなんだど」


 見た目は野蛮人に見えるが意外に知的であることに驚いた。

 だが彼女がエスタトゥアに対し殺意を抱いているのは明白である。

 例えるなら四方が石壁に囲まれた部屋に押し込められ、分厚い石でできた吊り天井がじりじりと下がってくるのを指をくわえて眺める絶望感と同じであった。


 エスタトゥアは恐怖に震えた。なんで自分がこんな目に遭うのかと。

 そもそもデスピアダドの連中が死んだのは自分のせいではないのだ。

 ラタジュニアは最初彼らを無力化し、拘束したのである。


 それが村にスマイリーというビッグヘッドなる怪物が来て彼らを食い殺したのだ。

 そいつらもラタジュニアによって倒され、木に変化している。

 復讐する相手はこの世にいないのだ。彼女たちは理不尽な怒りを自分に向けていることに腹が立った。


「やれやれ。店を荒らされると困りますね。後片づけをするのが面倒なのですよ」


 ルナが立ち上がった。けだるそうにフアナに近づいてくる。


「なんだぁ? おまえさんもころされたいんだか?

 おらたちはあくまでとうちゃんたちのかたきであるそこのハムスターをころしたいだけだど。

 じゃまするならころすだど」

「もちろん邪魔をしますよ。そして私は殺されない。

 あなたは私には絶対に勝てない。太陽が東から昇ることがないように、ありえないことなのです」

「? おまえなにいってんだ? むつかしいことはわからんだど」


 フアナはルナに対してこん棒を振り下ろした。

 こん棒がルナの頭部に迫ってくる。このままではルナの頭はざくろの実の如く爆ぜてしまうだろう。

 だがまったくルナは動じない。


 するとルナは軽く後ろに下がった。こん棒は目標を捕らえることができず、床に衝突する。

 そこにルナが身体を右回転させ、フアナの右わき腹に肘鉄を喰らわせた。

 ごふっと悶絶した。ルナは冷静なままである。

 まるで悪ガキが叫んでも無視している学校の先生みたいであった。


 フアナは興奮するとやたら滅多にこん棒を振り回してきた。

 だがルナは柳に風の如く、ひらひらと躱していく。

 その度にフアナのあごに打撃を食らわし、鳩尾を容赦なくついていくのだ。


 エスタトゥアはその光景を見て、悪夢だと思った。とても現実の世界とは信じられなかった。

 腕力がなさそうなルナが水牛のようなフアナの攻撃を躱し反撃するのである。

 そこにガトモンテスが叫んだ。


「酔拳だ!!」

「すいけん?」

「東にある古代大国に伝わる伝説のケンポーだ!!

 まるで酔っぱらいのような動きで相手を翻弄し、的確に反撃する技だ!!

 二百年以上前にジャッキー・チェンという映画スターなるものがいた。

 彼は作中では酒飲みだが、実生活は下戸だが酔拳の達人だったという。

 ルナも同じだ。エア酔っぱらいだからこそ、使いこなせたのだ!!」


 ガトモンテスの解説が終わると、フアナは地響きを立てて倒れた。

 ルナが彼女の急所を毒蛇の如く狙い続けたのである。

 ルナは当然の如く、ふるまっていた。まるでなんでもない風であった。


「かあちゃん!!」

「まけちゃった!!」

「どうしよう、かあちゃんがやられちゃったらどうしよう!!」


 店を囲んでいた女たちはパニックに陥っていた。あかんぼうたちも一斉に鳴き始めている。

 フアナが倒されたために混乱しているのだ。彼女たちは子供の知能で応用が利かないのだ。

 指揮官が倒れたためにまったく動けなくなるのは、問題といえる。

 女王蜂が死んでしまい、目標を失ったミツバチと同じであった。


 こうして女たちは投降することになったのであった。


 ☆


「おらたちはとうちゃんたちのかたきなんかどうでもいいだよ」


 村の広場でフアナたちは縄で縛られていた。がちがちに縛られ、あぐらをかかされている。

 周りはオンゴ村に滞在する騎士団に囲まれている。逃がさぬためと暴れたときに対処に槍を向けていた。

 そこでラタジュニアがフアナに尋問をしているのだ。

 エスタトゥアは彼の後ろに控えている。若干怯えているが怖いもの見たさで来たのだ。


「ひとはしんだらおしまいだど。なんでおらたちがこんなむらにきたかわからんだど」


 フアナが答えた。正気を取り戻したフアナは自分がなぜここにいるのか理解できなかった。まるで大麻を吸い、幻覚を見ていたが、いきなり目覚めた気分のようだ。

 女たちはラタジュニアによって無力化されていた。騎士たちの手助けによりなんとかできたのだ。

 女たちもなんで母親が家族の復讐をしにいくのか理解できない様子であった。そもそも家族が死んでも「ああ、死んだか」とあっさり返す性格なのである。


「おたくらの夫と息子たちは彼女の村を襲ったから倒した。

 そこにビッグヘッド、でか頭が襲ってきて食べてしまったのだ。

 だから家族の敵はすでにいないのだよ」


 ラタジュニアが説明した。

 するとフアナはすぐに納得する。彼女は単純だが素直な性格のようであった。

 他の女たちも得心がいったようである。もともと母親に命じられてきたのだ。彼女たちは抱えているあかんぼう以上に純粋であり、言いなりにある愛玩動物であった。

 彼女らにとって家族が死んでもそれは運命であり、誰かを恨むことはしない。獣と同じで自分たちの天命を受け入れているのだ。


 フアナたちは騎士団に引き取られた。彼女らはおそらくナトゥラレサ大陸へ矯正奴隷として送られるだろう。

 人食いさえ治ればどこにでも生きていけるはずである。

 新しい人生を歩んでほしいとラタジュニアは願わずにはいられなかった。

今年最後の投稿です。

当初ルナが活躍させる予定はありませんでした。

ただエア酔っぱらいという設定にしましたが、酔拳の達人になるとは思わなかったのです。

これがキャラが作者から手に離れたというものかと実感しました。

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