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第7話

ちょっと刺激を受けたので、連チャンで投稿します


 祭壇の奥にあった解毒剤を何とか飲ませると、3人の麻痺は瞬く間にきれいサッパリ消え去った。3人が起き上がれるようになり、凝った身体を伸びをしたり、ストレッチしたりしてほぐしている間にスグルが報酬アイテムの回収をしておく。


「チェッ。いいなぁ~、スグルは上級ロールになって。俺だって上級ロールになりたいぜ」

「おまえな、麻痺から回復して第一声がそれかよ」


 龍司の言葉に思わず苦笑いしてしまう。


「とにかく無事でよかったです」

「そうだな。だが、またモンスターが出現しないとも限らん。ここでは回復することもできんからな。ひとまずサントラフォードへ戻ろう」

「先輩の言うとおりだな。アイテムを回収してサントラフォードへ戻ろう」


 そう言いながらスグルはウィンドウを操作しながら、アイテムを次々にデータに変換していく。エバーランドではアイテムは入手する際にウィンドウを操作してデータに変換することができ、必要なときにもう一度ウィンドウを操作すればオブジェクト化することができる。スグルがアイテムを回収していると龍司が声を掛けてきた。


「スグ~、アイテムがめるなよ」

「リュウじゃねーんだ。そんなことする……か……」


 そう言ってウィンドウを確認したスグルの手が止まった。


「どうしたんだ、スグル君?」


 動きをとめたスグルのウィンドウを椿たちが覗き込む。

 そこにあるスグルのステータスウィンドウに表示されているロールが剣士ではなくなっていた。

 

〝勇者〟


「フフ、画面を見てようやく実感がわいてきたかな」


 あまりに判りやすかったのだろう。スグルの胸中を読んだ椿が微笑む。琴葉も、さっきまで憎まれ口を叩いていた龍司も優しい笑みを浮かべている。


「オレ――まさか自分がこんなロールになるなんて思ってもみなかった」


 考えていることが周りに全部ばれているのが少し恥ずかしくて、照れながらスグルは言う。


「さて、このゆったりとした瞬間を壊すことは少々残念だが、幸せを噛みしめる事は街に帰ってからでも遅くはない。一度戻ろう」


 椿は祭壇の奥にある階段を上がっていった。龍司、琴葉とその後に続く。スグルもウィンドウを閉じ、後を追いかけようとして、ふと足を止める。


「じゃぁな、サムさん。あなたのおかげでオレは強く、勇気を持てたよ」


――強さも勇気も初めからあなたの中にあったものですよ。


 階段を上がろうとしたスグルの耳に優しく響いてきた声。ハッとして振り返ったがそこには誰もいなかった。だが、スグルはあれがサムの声だとしか考えられなかった。


「お~い、スグ。早く来てくれ」


 上のほうからスグルを呼ぶ声が聞こえる。もう一度、さよなら、とつぶやくとスグルは前を向き、階段を2段飛ばしで駆け上がった。


「遅~よ、スグ。これ見てみろよ」 


 ワルィ、と手を上げて謝りながら、スグルは龍司の示す方向に目を向けた。


「魔方陣か」


 龍司が指差した床には不思議な紋様(もんよう)が円の中に描かれている。小さな部屋の中には床に描かれた魔方陣以外に窓も扉も何もない。サムは祭壇の奥に出口があると言っていた。つまりはこの魔方陣が出口なのだろうが――。


「椿先輩はどう思います?」


 龍司の疑問は最もだろう。龍司たちはサムにだまされ、麻痺させられ、危うく何もできないまま倒されるところだったのだ。


「これは、おそらく移動系統の魔方陣だろう。この魔方陣の上に乗れば瞬時に別のところへワープできる。ただ、その行き先はここからでは――」


 すべてはサムを信用していいかどうかということにかかっている。サムがもしまたスグルたちを騙そうとしているならこの魔方陣で移動した先には罠が待ち構えているはずだ。サムにあんなやり方で麻痺させられた3人は信用することができないのだろう。

 しかし、スグルは迷わなかった。


「ちょ、スグルさん」


 琴葉が驚き、声をあげたときにはスグルは魔方陣の上に立っていた。魔方陣の紋様が青白く光り、シュッ、という音を立てると、スグルの目の前から龍司たちが消え去り、一瞬真っ白い光に包まれ、身体がまるで重さがなくなったように、ふわりと浮かび上がった気がした。再びスグルの足に地面の感触が戻り、視界がもとに戻ると、そこはサントラフォードにあるサムの家だった。

 主のいなくなった部屋を夕日がさびしげな光で照らし出す。少し感傷的な気分に浸っていると、後ろから龍司たちが現れた。心なしか顔が不機嫌のように見えるのは気のせいではないだろう。3人の意見も聞かず、一人で罠かもしれない魔方陣に飛び込んだのだから。


「どういうつもりだよ、スグ。1人でいきなり魔方陣に飛び込むなんて」

「そうですよ。私、本当にびっくりしたんですから」


 いつもは穏やかな琴葉まで声を荒げているのだから、相当慌てたのだろう

「ごめん、ごめん。でもサムさんはあそこに罠を仕掛けるような人じゃなかったはずだ」

「なんでそんなことわかるんだよ?」

「最後に穏やかな表情で、オレにありがとう、って。役目を果たせてよかった、って言ったんだ。なんとなくだけどあの言葉に嘘はなかったと思う。それからみんなにひどい目に遭わせてすまない、と伝えてくれって。自分が消え去るときにそんな事を言える人があの瞬間、オレたちをだますような真似しないと思って」


 スグルがそう言うと、椿と琴葉は表情を緩め、うなずいた。サムを許そうという気になったのだろう。龍司はまだ不満があるような顔をしていたが椿と琴葉の様子を見て、しょうがね~な、などと言っていた。


「さて、とりあえず酒場へ行こうぜ。よく考えたら昼飯抜きでずっと戦闘してたんだ。腹ペコペコだよ」

「そうだな。報酬もどんなアイテムがあったのか早く見たいし」


 そんなことを話しながらスグルたち4人は、主人のいなくなった部屋を出て椿の行きつけの酒場へと向かった。




 例によって酒場の奥の部屋に入り、昼飯を抜きにした分、豪勢(ごうせい)な夕食を食べた後、スグルたちはさっそくアイテムを分けることにしたのだが――。


「やっぱり、先輩もアイテムを受け取ってください」


 スグルたちのクランに助っ人として加わる間、報酬は受け取らないと椿は言っていた。しかし、あれほど危険な目に遭わせておいて何の報酬も支払わないのは、いくら椿が辞退してもスグルたちの気持ちはおさまらない。粘り強く、というよりは椿が根負けするまでしつこく迫り、やっと椿も報酬を受ける気になってくれたらしい。


「そこまで言うならありがたく報酬を受け取らせてもらおう」


 椿の言葉にスグルたちの表情は明るくなったが、そこで終わりではなかった。


「その代わりといってはなんだが……1つ頼みをきいてくれないか?」

「頼み?一体なんです?」

「大丈夫っすよ、先輩。スグなら先輩が頼めば何だって――」

「それでその頼みっていうのは?」


 龍司の言葉を無理やり遮ってスグルがもう一度椿に聞く。


「いや、無理な頼みかもしれないのだが……、私を……君たちのクラン〝天空を護る者〟のメンバーに加えてくれないか?」


 思いがけない提案。その提案にスグルたち3人は言葉を失い、固まる。


「やはり、だめだろうか?」


 スグルたちが固まってしまっているのを見て、椿が残念そうな顔でおずおずと確認すると、スグルたちの時が再び動き出した。


「だめなんて、そんな。椿先輩がオレたちのクランに加わってくれれば、すごく心強いです。……でもどうして?」


 椿ほどの実力ならば受け入れるクランはいくらでもあるだろう。それでも今までソロでの冒険をしてきたのに、なぜスグルたちの弱小クランに入ろうとするのか。スグルには理解できなかった。龍司と琴葉も同じ疑問を抱いているようだ。


「……疑問に思うのも当然だな。ソロで冒険してきた私がいきなりクランに加えてくれ、といっているんだから」

「そうっすよ。言っちゃぁなんですけど、先輩ほどの実力があれば俺らみたいな弱小クランでなくても、入ってほしいと思うクランはいくらでもいると思いますよ」


 スグルに代わって龍司が椿に尋ねる。琴葉もその通りだ、とばかりにうなずいている。


「……少し長い話になると思うが、いいかな?」


 椿の問いにスグルたちはもちろん、といった具合に頷いた。


「君たちが私のことを初めて知ったのは、おそらく昨日の鍛冶屋だろう?だが私はもっと前から君たちのことを知っていたんだ。いや、覚えていた、と言ったほうが正しいかな」

「先輩がオレたちを……ですか?でも、失礼ですけどオレ、先輩に鍛冶屋で会った日以前に、どこかで会った記憶がないですけど……」


 スグルは自分の過去を思い返してみたが、記憶にない。そっちはどうだ、と龍司と琴葉に目配せするが2人も覚えがない、と首を横に振った。


「ハハハ。君たちが知らないのも無理はないよ。言葉を交わしたりしたわけではないからな。ある事件がきっかけで私が君たちのことを一方的に知ることになっただけなのだからな。あれは、君たち1年生がこの世界に来て、エバーランドでの冒険をスタートさせてすぐのことだった。覚えているだろう?琴葉君が上級生に(から)まれ、それをスグル君と龍司君が助けたのを――」


 琴葉の身体がピクリと動いた。スグルも一瞬驚いたが、すぐに疑問がわいてきた。なぜあの日のことが関係あるのだと。スグルと龍司が琴葉と出会い、クランを組むことになったあの日の出来事が――


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