第3話
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鍛冶屋を出たスグルたちは遺跡のモンスター掃討の依頼をしていた若い考古学者の下へ向かった。
その考古学者は街のはずれの小さな家に住んでいた。
「どちら様でしょうか」
スグルがノックするとしばらくして扉が開けられ、中から無精ひげを生やした青年が出てきた。髪はボサボサ、メガネをかけた目元にはすごいくまができている。おまけにヨレヨレの服装のせいで5歳はふけて見える。
「こんにちは。えーと、いきなりですみません。オレたち先日の遺跡のモンスター掃討の依頼を受けたクランなんですけど……」
スグルが少したじろぎながらあいさつをすると若い学者は笑顔になり、
「あなた方が依頼を受けてくれたクランの方でしたか。いや~、どうもお世話になりました。見ての通り貧乏なんでたいした報酬も用意できなくてすみませんでした。散らかっていますがどうぞ、あがって下さい」
と言ってスグルたちを招き入れてくれた。
家の中はまさしく本で埋まっていた。本棚が部屋を囲むように隙間無く置かれ、その中にぎゅうぎゅうに本が並べられている。本棚に並べられている本だけでも何百冊という数だが、その上、部屋中に本棚に入りきらない本が散乱していた。
「いやー、お恥ずかしい。家に人を招くことなんて無いものですから」
アハハハ、と笑うと考古学者は本をどかしてスペースを作り、奥から椅子を出してくる。
「今お茶を淹れるので少し待っていてください」
そういってキッチンにお湯を沸かしに消えた。
「か、変わった方ですね」
琴葉が苦笑いしながら、とりなすように言った。
相変わらずエバーランドのNPCは表情豊かである。
「でもよ~、これだけ本があるし、あの文字についても何か知ってる可能性は高いんじゃねーか」
龍司の言うとおりだ。これだけの資料があるならあの文字のことも分かる可能性はかなり高いはずだ。スグルは龍司にうなずくと黙って椅子に座ってお茶を運んでくるのを待つ。
少しすると湯気の立つティーカップをお盆に載せて学者が戻ってきた。スグルたちの前にあるテーブルにカップを置き、自分は向かいのいつも使っているだろうデスクに座った。
「さて、自己紹介がまだでしたね。私はサム・コールドウェル。あの遺跡について研究しているものです」
「はじめまして。オレはクラン〝天空を護る者〟のメンバーでスグルといいます。こっちが龍司で、もう一人が琴葉です」
スグルの紹介にあわせて二人が軽く会釈をし、コールドウェル博士がそれを返す。
「今日、突然コールドウェル博士のお宅にお邪魔したのは――」
「博士だなんて。サムで結構ですよ」
サムが照れたように頭を掻きながら言う
。
「わかりました。サムさん、実は今日お邪魔したのはあなたに見ていただきたいものがあったからなんです」
そういうと、スグルはメニューウィンドウを操作して例の〝勇気の教義〟を具現化した。
「このアイテムなんですが、あの遺跡でのクエストの際に知らないうちにオレたちのアイテムに紛れ込んでいたんです。見たことのない文字が書かれているんですが……。あの遺跡について研究されているあなたなら何か心当たりはないかと思って伺ったというわけです」
「見せてもらってよろしいですか」
スグルが渡したアイテムをサムはフム、とあごひげをいじりながら数秒眺めた。
「どうやら、この文字はあの遺跡を使っていた古代人の文字のようですね」
「解読することはできるでしょうか」
琴葉がおずおずと聞く。
「今すぐに、というのは無理ですが一日これを預けていただけるなら明日までには解読できると思いますが……」
少し困ったようにサムが答える。あの遺跡を調べる考古学者として調べたいのだが、貴重なアイテムを得体の知れない自分などに預けてくれるか心配なのだろう。
スグルが龍司と琴葉に視線を向けると、二人は構わないとばかりにうなずいてくる。このまま自分たちで調べようにも、どうすることもできないのだからここはサムを信用しようということだろう。
「都合が悪くないのでしたら、ぜひ調べていただきたいのですが」
スグルがそう返事をする。
「構いません。ぜひとも調べさせてください」
サムはうれしそうに満面の笑みを浮かべて、部屋のあちこちから資料であろう本を机に並べていく。もうスグルたちのことは忘れてしまったかのようだ。
「それではオレたちはお邪魔になると悪いのでこの辺で失礼しますね」
「あぁ、すいません、研究のこととなるとほかの事が頭から消え去ってしまうので……。たいしたおもてなしもできずに申し訳ない」
「いえいえ、お構いなく」
「明日までには解読しておきますので、明日、もう一度ここへ来ていただけますか」
「わかりました。では明日、もう一度お伺いします」
そういってスグルたちはサムの家をあとにした。
今日の目的は琴葉のレベル上げだ。話し合った結果、スグルたちは琴葉のレベルを上げるため〝死者の住まう洞窟〟と呼ばれるダンジョンに向かうことにした。
〝死者の住まう洞窟〟――サントラフォードの北に広がる岩山地帯の一角にある洞穴であまり広くはないダンジョンだがその名の通り出現モンスターがアンデット系統のモンスターばかりであまり好んで近寄るプレイヤーはいない。だが、体が骨で構成されているアンデットモンスターは、琴葉の装備している杖のような打撃系統の武器に弱いので、気は進まないがレベル上げのため、スグルたち三人は亡者がうごめく洞窟に足を踏み入れた。
「いーやー、もう無理ですぅ。助けてください~」
ジメジメとした肌触りの空気に満ちた岩だらけの洞窟の中を泣き出しそうな顔をしながら琴葉が逃げ回る。その後をゾンビのようなモンスターがのたうつように追いかける。〝這いずる腐肉〟と呼ばれるモンスターだ。
攻撃手段は肉弾戦による物理攻撃と腐食液を飛ばすだけで動きも遅いが、何よりも灰色に緑を混ぜたような気味の悪い色をした肉片が骨にこびりついているその外見が強烈だ。いつもは後ろで回復魔法を唱えるだけの琴葉にとって、スグルと龍司が弱らせたとはいえ、初めてタイマンで対峙するモンスターなのだ。女の子なんだし当然といえば当然である。
「大丈夫だって、琴葉。落ち着いてよく見れば動きも遅いし簡単に倒せるぞ」
「相手のLPもあと少ししか残ってないから一発入れればOKだよ~」
離れた場所からスグルと龍司がなだめるように琴葉に叫ぶ。モンスターは基本的に一番近い位置にいるプレイヤーに向かって攻撃を仕掛けてくるため、二人は琴葉とモンスターから離れた位置で見守っている。
「ふえ~ん。こっちに来ないでください」
モンスター相手にまで、ご丁寧に敬語で叫びながら、琴葉が振り向きざま杖の基本アビリティ、〝両手打ち〟を見舞う。野球バットのように振りぬかれた琴葉の杖が、クラウル・コロージョンの所々肋骨が見え隠れしている腹部にぶち当たり、そのまま数メートル吹っ飛び、敵のLPゲージが消滅する。バシィィッ、という音と共にクラウル・コロージョンの身体が光の粒となり消え去った。
琴葉がそれを見てへなへなと座り込んだ。
「お疲れ、琴葉」
スグルは龍司と一緒に琴葉の元へ戻った。龍司が差し出した手を握り、立ち上がった琴葉は恥ずかしそうに顔を伏せる。
「すいません、弱らせてもらったモンスター相手に逃げ回っちゃって」
「いきなりゾンビ相手に勇敢に戦えるわけないよ。俺だって最初はモンスターと戦うのは怖かったし……。でも、そのうち慣れるよ」
龍司が優しく慰める。
スグルも声を掛けようとした瞬間、視界の隅に3体のモンスターの姿を捉える。
「ま~た、お客さんだぜ、琴葉。クラウル・コロージョンが3体も」
「ふぇぇ、またさっきのやつですか」
琴葉が泣き言をあげる。
「リュウ、2体ひきつけとくから琴葉をフォローしてやってくれ」
「え、でもスグ、囮はいつもシーフの俺がやってるじゃん」
「あのくらいのスピードならオレでもやれるだろうからな。ま、囮の練習だよ」
屁理屈をこねてはみたがもちろん本心は違う。
「余計なこと考えてんじゃねーよ」
ばれていた。そうしている間にもゆっくりとモンスターが迫ってくる。
「人の好意が分からんやつだな」
スグルは龍司に向かってそういうと敵に向かって走り出した。向かって左の1体を残して2体をひきつけるように右に曲がり、2体が追ってきているのを確認して振り返る。ヴヴヴ、とうなりながら腐った体を引きずって2体のクラウル・コロージョンがスグルを挟み込むようにして二手にわかれる。
ったく、腐った脳みそしてるくせに一丁前の作戦立てやがって。
小さく舌打ちをするとスグルは背中の鞘から剣を抜いた。
「さて、こいつのデビュー戦だな」
碧い刀身が煌めく。
アズール・ブレードを握り締めると盾を前に出し、半身に構える。時折後ろに回りこんだ方をけん制しながら、間合いを取る。
2体は面倒だな。1体は倒して、もう1体のとどめを琴葉に譲ればいいか。
盾を前に突き出したまま前方のクラウル・コロージョンに突進する。相手も腐食液を飛ばしてくるが、スグルは落ち着いてサイドステップでかわすと、そのまま突き出した盾を相手の頭にぶち当てる。頭部を打たれ、よろめいたところに中段切りを左右から2発見舞う。
盾を攻撃に利用する攻防一体の片手剣技〝シールドスラッシュ〟。
スグルが気に入っているアビリティだ。
クラウル・コロージョンはスグルにとってはたいした脅威にはならない強さのモンスターである。盾と剣の3段攻撃で一気に敵のLPゲージが半分以上削れた。攻撃の後、背後から迫っていたもう1体のモンスターの腐食液を避け、蹴りで反対側へ吹っ飛ばす。
これで時間稼ぎになるだろ。そう思い、スグルはLPが半分まで減少しているほうのモンスターに向き直る。アンデット属性だからかダメージを感じないのだろう。身体が傷ついていることなど構わずに一直線にスグル目掛けて突進してきた。スグルは冷静に半歩だけ左に移動すると上段目掛けて水平に剣をなぎ払った。
片手剣の基本アビリティ〝水平切り〟がカウンターのようにヒットし一気にLPを消滅させる。ヴァァ、と断末魔の叫びを残しながらクラウル・コロージョンの身体が砕け散る。それを確認したスグルは休む間もなくもう1体と対峙する。今度は琴葉がとどめを刺すため倒さずに弱らせるだけに留めないといけない。相手の攻撃をかわしながらちくちくと弱い攻撃で相手のLPを削っていく。
クラウル・コロージョンのLPが2割ほどになったところで龍司と琴葉が駆けつけた。
「あ~、スグ片方倒しちまったな」
「しょうがねーだろ。強くないとはいえ、2体を相手にしながらぎりぎりまで弱らせるなんてしんどいまねできるか」
挟み撃ちされてたんだぞ。気を遣って二人にしてやったっていうのに、こいつは。
「琴葉、もう倒せるぞ。とどめ、頼んだぜ」
「わかりました。スグルさん、ありがとうございます」
そういうと琴葉は、スグルの前に出てクラウル・コロージョンと対峙した。さっきよりは慣れてきたのだろう。縮こまってはいるが逃げ出さずに向かい合っている。飛ばしてきた腐食液を避けると一気に間合いを詰め、杖を剣道の面うちのように相手の頭めがけて振り下ろした。スグルの攻撃によって2割にまで減っていたLPが0になり、モンスターのポリゴンが消滅した。
「何だよ、琴葉。もうスキルレベル上がったのか」
スグルが聞くと琴葉が笑顔で答えた。
「えへへ、さっきスグルさんと別々で戦った後、龍司さんに言われてウィンドウを確認したら新しいアビリティが増えてたんです。〝ハードスタンプ〟って技です」
「この調子ならあっという間に琴葉のレベル上がるだろ。どんどんいこうぜ」
「そうだな。クエストでもないしせっかくだ。探検がてらもう少し奥のほうにもいってみるか」
スグルの提案により、3人は洞窟の奥に向かって進んでいった。
3時間ほど進むと安全地帯となっている小部屋を見つけ、少し休むことにした。
入り口での戦闘を合わせると7~8回ほど戦闘を繰り返し、琴葉のロールレベルも14から16へ上昇していた。
「フー、さすがに疲れたな。琴葉、大丈夫か」
岩の上に腰を下ろした龍司が琴葉を気遣う。「平気です」などと答えてはいるが始めての前衛での戦闘を3時間も続けたんだ。疲れていないはずが無い。
「しばらくここで休もう」
スグルはそういうとウィンドウを操作して緑色の液体が入ったビンを3つ具現化させ、龍司と琴葉に投げる。中身はトニックティーと呼ばれる回復薬だ。
「おっ、トニックティーか。気が利くじゃん、スグ」
「ありがとうございます」
龍司も琴葉もそれぞれビンを開けて中身を飲み干す。酸味が強いレモンティーのような味が口の中に広がる。
身体から少しずつ疲労感が抜けていく。
「ぼちぼち、琴葉も攻撃魔法を覚えるころじゃないかな」
「だよな~。もうレベルも16だぜ。そろそろ覚えてもいいはずだけど」
「すいません、私のせいで」
「だから、琴葉が謝ることないって。でもさ~スグ。魔法って、同じロールでも覚える魔法が違ったり、同じ魔法なのに違うレベルで覚えたりするよな。何でだろう」
「そうだな。ロールは個人の性格や特性で決まるって最初説明されただろ。それと同じでロールが一緒でもその人の性格や特徴によって差があるんじゃないか」
「……じゃ、私はやっぱり足を引っ張る、役立たずな性格ってことですね」
「違うよ~。琴葉は色々回復魔法を早いうちから覚えただろ。つまり優しい性格ってことだと思うぜ」
3人が休みながらそんな風におしゃべりをしていると――
ドオン。
すぐ近くで何かが岩壁にぶつかるような音がした。
「今の音は何でしょう」
「どうする、スグ」
少しの間スグルは悩んだが――、
「行ってみよう」
「そうこなくっちゃ」
龍司が先頭で飛び出していく。次いでスグルが続き、その後を琴葉が追う。
音がしたのは安全地帯を出て、左に曲がったところにある広くなっている空間からだった。昔は墓地として利用されていたのだろう。朽ち果てた墓石が不揃いに並んでいる。そしてその部屋の真ん中には腕が4本ある体長が2メートル以上もある巨大な骸骨の戦士が仁王立ちになっていた。〝4本腕の亡者〟。LPゲージの上にモンスターの名前が表示される。そしてその視線の先には――
「うっ……」
サントラフォードの街で会った2年の雪銀椿が壁に寄りかかっていた。かなり傷を負っているようだ。そこへクワトロデッドマンが追い討ちをかける。スグルは何も考えずに思わす、飛び出していた。
クワトロデッドマンの2本の右腕が握る2本の曲刀が雪銀椿に襲い掛かる瞬間、スグルが両者の間に割って入り、盾で斬撃を受け止める。ガアンという音と共にすさまじい衝撃がスグルの左腕を伝わってくる。休む間もなく左腕の片方が振り下ろされる。それをかろうじて右手のアズール・ブレードで受け止めるが――残った左腕が腕がスグルの胴めがけてなぎ払われる。
スグルは襲い来る激痛に備え、目を閉じたが剣がスグルの身体に触れることはなかった。代わりに、ギィン、という音が響いた。
「椿先輩の前でいい格好しようとしてんじゃねーよ、ったく」
龍司がダガーで最後の腕の斬撃を止めてくれていた。
「風にただよう小さき光よ ここに集いて癒しとならん 〝癒しの光〟」
琴葉の唱える回復魔法の光が椿をやさしく包み込む。
「君たちは――」
「話は後です、先輩。琴葉、先輩を連れて離れてくれ」
敵の4本の腕からくる斬撃を必死で受けながらスグルが叫ぶ。
「ちっくしょ、なんて攻撃だよ。反撃なんて全然できね~」
龍司も必死になってダガーで斬撃を受け止めている。
「スグが先輩の前で格好つけようと――」
「バカっ、リュウ。油断するな」
一瞬の隙をつかれ龍司がクワトロデッドマンの放った回し蹴りに吹き飛ばされ、スグルにぶつかり、二人で数メートル離れた壁に激突した。
「いって~」
「ばかやろう。やられるなら一人でやられろよな」
スグルが立ち上がり、クワトロデッドマンの方に向き直った時――
「危ないっ――」
椿の声がスグルの耳に届いた。ハッとしたスグルの目の前に肘の部分から切り離された骨の腕が2本、剣を握ったままこちらに向かって飛んできていた。1本はかろうじて打ち落としたが防御をくぐり抜けたもう片方がスグルの肩口を切り裂いた。
「ぐっ」
「大丈夫か、スグ」
糸で吊り上げてあるようにフワフワと浮かんだ骨の腕は持ち主の所へ戻っていく。
「くそ、遠距離攻撃もあるってことか。厄介だな」
「巻き込んで、すまない。大丈夫か?」
椿と琴葉もスグルの元に駆け寄ってきた。
「先輩、クランメンバーが見当たらないですけど、一人でやつと戦ってたんですか」
「そうだ。私はソロプレイヤーだからな」
それが本当だとしたら無謀もいいとこだ。
「だが、少し、無茶だったな。やつは身体の骨を飛ばして遠距離攻撃もできるから隙がないんだ。少しの隙があれば何とかなるんだが……」
「隙があればどうするんですか」
龍司がクワトロデッドマンの方を睨みながら聞く。
「やつに通常の斬撃は効きにくい。骨をバラバラにしても何もなかったかのようにくっついてしまう。だが私の最強の技を使えればあるいは……倒せるかもしれないが」
「わかりました。オレとリュウで時間を稼ぎます。長くは持たないと思いますが」
言い淀む椿に反論の隙を与えず、スグルはクワトロデッドマン目指して突進した。後ろには龍司がぴったりとついてくる。チラリと後ろを振り返り、敵の右手を指差し、龍司の目にアイコンタクトを送る。龍司がうなずくのを確認した後、スグルは気合を込めて敵の右手の2本の剣めがけて盾と一緒にアズール・ブレードを下から振り上げた。
ガキィンという音が響き、敵の右側に隙ができる。そこを目がけて後ろから龍司が間髪入れずに攻撃を仕掛ける。逆手に握ったダガーを蛇のようにしならせて放つ技〝奇怪なる蛇のごとき一撃〟がクワトロデッドマンの右胴部分を捕らえたかに見えた。
だが龍司の攻撃が当たる瞬間、クワトロデッドマンの身体の骨が、ガシャッとバラバラにバラけた。あっけにとられた二人に前後左右から4本の剣を持った腕が襲い掛かる。同時に他の骨も隙を見ては弾丸のごとき勢いでぶつかってきて、ジワジワとスグルと龍司のLPを削っていく。
「くっそ、このままじゃジリ貧だ」
「何とかならね~の、スグ――後ろ」
龍司の叫びでスグルが振り返るが反応が僅かに遅れる。足の骨がスグルの剣をはじき、できた隙に敵の剣が飛んでくる。
まずい。
スグルがそう思ったその時だった。
「運命に導かれし、古の十字架よ。魔を祓う聖なる光を放たん 〝運命の十字架の放つ光〟」
琴葉が呪文を唱え、空中に描いた十字架からまばゆい光が放たれる。
光をもろに浴びたクワトロデッドマンの腕はジュッ、という音を残して消え去り、カラァンという剣が落ちる音が響いた。
「あれ、私、今……」
「こ――琴葉」
「お前、魔法が」
驚きで立ち尽くすスグルと龍司。
クワトロデッドマンが骨を一箇所に集め、再び元の姿に戻る。だが、琴葉の魔法に消され、左腕が1本消えていた。虚ろなはずの両目に苛立ちが宿っている。
琴葉の魔法の威力を思い知ったのだろう。立ち尽くしているスグルと龍司の隙をついて、クワトロデッドマンが琴葉に襲い掛かる。
「きゃあぁぁ」
「やべっ、逃げろ。琴葉」
龍司が叫ぶ。
「ちくしょう。間に合え」
スグルが敵の後を追う。追いつけない。最悪のイメージが脳裏をよぎった時、
「待たせて、すまなかったな」
凛とした声が響いた。不意に椿が姿を現し、クワトロデッドマンの前に立ちはだかる。
「これが、私の最強の技だ」
構えた剣から白い冷気が零れ落ちる。
「舞い踊る雪の中、蘭乱と咲くは椿の花」
〝椿繚乱・雪演舞〟
冷気を帯びた椿の剣がヒュィィ、と空気すらも切り裂くような音と共に、目にもとまらぬ速さでクワトロデッドマンを打ち付ける。白銀の髪をなびかせまるで舞を舞っているかのような椿の攻撃に思わず見蕩れてしまう。
キン――と椿が納刀した時、敵は全く動かなくなっていた。全身がキラキラと淡く光を放っている。
「凍らせた。周りを薄いが簡単には融けない氷で覆ってある」
そういうと椿は腰を落として精神を集中させた。スグルが何をしているのかと声を掛けようとした刹那、腰の鞘から居合い切りを放ち、クワトロデッドマンの身体は凍ったまま真っ二つになり、そのままLPゲージが尽きると共に消え去った。