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第1話

お久しぶりです


ご意見、ご感想頂けたらありがたいです。

 バシッ、という音と共に狼の姿をしたモンスターが光の粒となって消えた。

 手に残る確かな手ごたえを頭の中から追い出し、残ったもう1匹の敵に集中する。


 〝双頭の狼(デュアル・ウルフ)


 常に2匹で行動し、抜群のコンビネーションで襲い来るいやなモンスターだ。この遺跡の出現モンスターの中ではおそらく1番厄介なモンスターといっていいだろう。だが、1匹になればどうということもない。


 スグルは息を整えながら、もう1匹と向き合った。半身になり右手に握る片手用両刃剣の切っ先を空に向ける。その刀身に合掌するような形で左手を合わせるように添える。スグルの独特の構えだ。


 1匹になればたいしたことはないといっても油断はできない。こっちは連戦で少なからず消耗している。

チラリと左腕のブレスレットから浮かぶウィンドウに表示されているLPゲージを見ると、半分を下回っている。


「さっさと片付けて琴葉(ことは)に回復してもらうか」


 そんなオレの独り言を理解したのだろうか。

 1匹になったデュアルウルフが舐めるな、とばかりにナイフのような牙を光らせて、飛び掛ってきた。

スグルも同時に飛び出し、デュアルウルフの牙が右手に突き立つ瞬間、半歩だけ左に移動し、そのまま、開かれた(あご)を水平になぎ払う。

 ギャンッ、という悲鳴が聞こえた時には1匹になってしまったデュアルウルフは相棒のあとを追うように光の粒になって空に消えていった。


 キン、と剣を背中の(さや)に納刀する。クランメンバーであるシーフと回復魔導師(かいふくまどうし)の戦闘はどうなったかと見ると、向こうも戦闘が終わったようだ。シーフがこっちに手を振ってる。


「お~い、スグ。そっちも終わったみたいだな」


 空原龍司(そらはらりゅうじ)

 背が高く、つり目でさらっとした髪をジャケットと揃いの深い緑色のバンダナでまとめている。

 小さいころからの付き合いで、いわゆる幼馴染の親友だ。こいつの考えてることは顔を見れば大体分かるくらいに親しい。――まぁ、それは向こうも同じだけど。


 龍司のロールはシーフ。(ロールというのはこの世界、エバーランドでの職業のようなものだ)純粋な近接攻撃系のロールより戦闘能力はいくらか劣るが高い敏捷性を誇る。また攻撃時にモンスターの持つアイテムをランダムで盗んだり、モンスターを倒した際にアイテムを落とす現象、いわゆるドロップの確立が高くなるロールアドバンテージや、財宝を発見するのに役に立つアビリティを身に付ける。

 ちゃっかりしたところのある龍司の性格をよく表してると常々思う。


「スグルさん、LPは大丈夫ですか?まだ魔力(マナ)は残ってますから回復しときましょうか」


 控えめな口調で声をかけてきたのは夕上琴葉(ゆうがみことは)

 控えめでおとなしい感じの女の子だ。リスを思わせる姿で可憐、と表現するのがぴったりかも知れない。修道女が着るようなクリーム色のローブを纏っていて、見てると守ってあげたくなる。


 彼女のロールは回復魔導師。ヒール系の魔法アビリティを中心に習得する。パーティに1人は必須とまで言われるロールであるが、戦闘能力は驚くほど低い。魔法を使うロールに総じて言えることだが回復魔導師の物理的な戦闘力はその中でも群を抜いて低い。常に護衛が必要なほどだ。


 スグルと龍司は幼馴染だったが琴葉とはこの弥生(やよい)学園(がくえん)で出会い、偶然3人でクランを組むことになった。




 弥生学園。創設10年足らずの私立中学校だが、今世界で最も注目されている中学校といっていいだろう。

 この学園は「子供は冒険の中でこそ成長する」という理念を掲げる私立中学校である。


 要するに――

 かわいい子には旅をさせよ。

 獅子はわが子を千尋(せんじん)の谷に落とす、ということだ。


 とはいったものの、今は20XX年。科学技術の発達した日本では冒険などしたくてもできない。それこそ冒険などという言葉はゲームやアニメのなかの言葉だった。ならばゲームの中に入ってしまえばいい。とんでもない考え方だが、一流のゲームクリエイターだった学園長の元にプログラマーや脳、神経科学者のエキスパートが集い、人間の意識をヴァーチャルリアリティワールド内のインカーネーション(自分の化身)の中に直接コンパイルする技術を開発した。簡単に言えばゲームの中に入り込む技術を作ったということだ。


 その技術力をもっと他のことに使えよ、という気も起こるが。まぁ、それはおいておこう。

 そういうわけでこの学園は放課後に、部活動を行う代わりに生徒全員がヴァーチャルリアリティワールドで冒険をしながら「友情や勇気とは何か」といういささか哲学的問題に向かい合っている。


 そしてその子供が成長するための世界を、学園長は子供のまま成長しない世界『ネバーランド』に対比させて、『創造の地球(エバーランド)』と名付けた。


 エバーランド内で生徒はクランと呼ばれる集団を組む。そして様々な場所で発生するクエストと呼ばれるイベントにクランメンバーで協力して挑戦しながら数々の冒険を経験しているのだ。




LP(ライフポイント)半分切ってるし、一応回復してもらっとこうかな」


 オレがそう答えると琴葉がニコリと笑い、詠唱を始める。


「風にただよう小さき光よ ここに集いて癒しとならん 〝癒しの(ヒール・ライト)〟」


 暖かいお湯の中に沈んでいくような感覚と共に、柔らかな光がスグルの体を包み込む。

 LPゲージを見ると、8割近くにまで回復している。

 LPとはこのエバーランド内での体力のことであり、このゲージが0になることはこの世界での死、つまりゲームオーバーを意味する。なので、LPを常に高く保っていることはこの世界の常識である。


「さて、クエストも達成したし、報酬をもらいに帰りますか」


 今回のクエストは遺跡に出現したモンスターの討伐。古代人の遺したこの遺跡を研究している若い学者からの依頼だった。ただこの遺跡は小さく珍しい発見などがあったわけではないらしく、訪れる考古学者も観光客はほとんどいなのでクエストの難易度も高くないものだった。


 急かす龍司を見てスグルはため息をつきながら言った。


「リュウ、お前モンスターのドロップこっそりガメようとしてるだろ」


 龍司の考えることぐらい簡単に読める。まったく、本当にちゃっかりしてるというか、抜け目がない。

 スグルに考えを見透かされて龍司はあわてて弁解する。


「い、いや別に隠してるわけじゃねーよ。今のモンスターが倒されたときにドロップしてさ。ちょっと預かっといて報酬の時にびっくりさせようかなぁ、なんて思っただけで」


 必死に弁解する龍司を見て琴葉があきれたように、だが、2人のやり取りを見るのが面白いのか、どこか楽しそうな表情をする。


「龍司さんはまたそんなこと考えてたんですか。でも、いつも思うんですけど2人ともお互いの考えをよく当てられますね」

「「だってこいつの考えることいつも同じだし」」


 スグルと龍司が同じセリフを同じタイミングで話すのを見て琴葉は吹き出した。


「まぁ、さっきオレを琴葉が回復してくれてる時に、リュウがコソコソとウィンドウを見てるのが見えたからな」

「ゴホン、そろそろ出発しようぜ。こんな辛気臭い遺跡にいつまでもいないでさ。うまい飯と暖かいベッドが俺らを待ってるぜ~」


 話を早く切り上げようと大袈裟に龍司がおどけて言う。

 クエストを達成した喜びのおかげもあって、3人は笑いながら帰路についた。



 サントラフォード。

 エバーランドの西側に位置する古風でレンガ造りの建物が並ぶ都市。

 大都市というほどの大きさではないが、西にある大都市とエバーランドの中枢の間に位置しており、交通の要所として発展した街だ。

 スグルたちはエバーランドの時間で1ヶ月ほど前からこの街を拠点に冒険をしている。


 エバーランドでの冒険はあくまで学校の教育活動の一環であるため、他の中学校が部活動をしている時間に弥生学園の生徒はエバーランド内で冒険をする。だが、部活動としての時間を当てるだけではあまりにも少ない。


 そこで弥生学園は生徒の意識をコンパイルする際にプログラム化された意識を高速処理することで現実世界の1時間をエバーランド内では1日に置き換えている。脳内の電気信号のやり取りを24倍にして1時間を1日に感じさせている訳だ。コンピュータの中での事なので身体に負担をかけることはない。現実世界で3時間、エバーランド内で3日経つと、その時点で学園のサーバに生徒全員の状態が記録され、次の日にまたその状態から冒険がスタートする。


 スグルたちは報酬を受け取るため街の酒場に向かった。

 今日でコンパイルして3日目。左手に表示された時計を見ると、あと3時間ほどで再び現実世界にコンパイルされる。


「そろそろあっちに戻る時間だな。報酬を分け合って、ちょうどいいくらいの時間か。タイミングよく終わってよかったな」

「そうですね。無理してクエストを受けて、戦闘の途中で現実世界に戻ると、こっちの世界にまた来たときにいきなり攻撃を受けることもありますからね」


 フィールドには安全圏があり、クエストの途中で現実に戻るときは基本的にその安全圏で戻るのを待つ。なぜなら安全圏外で、しかも戦闘中で現実に戻ったとき、次の日にもう一度エバーランドにコンパイルした際、攻撃にとっさに反応できないことが多い。


 スグルたちも1度、残り時間が少ない中で、簡単なクエストだから問題ないだろうと無理をしてクエストに行ったときに痛い目にあったことがあった。ランクの低いクエストで出現モンスターが弱いものでなかったら、態勢を立て直すことができず、逃げるか全滅していたかもしれない。

 その時のことを思い出したようにスグルが言う。


「あのときの琴葉はすごかったよな、リュウ。回復魔導師がパーティにいて本当に感謝したよ」

「確かに、スグはコンパイルした瞬間にグリーンリザードにたかられて、一気にLP半分削られたからな。琴葉がすぐさまヒールしてくれなきゃさすがにやばかったぜ」


 そんな風に琴葉を二人で褒め称えていると、琴葉は恥ずかしそうに、


「そんな風におだてないでください。あっ、ほら酒場ですよ。早く報酬をもらいに行きましょう」


 と照れた顔を隠すため、小走りで酒場に入っていった。

 スグルと龍司も笑いながら後を追う。



 酒場で報酬を受け取り、この街に来てから使っている宿の近くのレストランで少し豪華なディナーを食べながら、報酬の分配について話し合った。

 報酬はエバーランド内でのお金であるゴルドと各種アイテムで手に入る。


 ゴルドは単純に3等分し、回復薬のような消費アイテムはクランで共有されるアイテムBOXに入れるので問題ない。装備アイテムは今回、龍司の手に入れたドロップアイテムも含め2つ。両手斧と盾だった。盾はロールが剣士であるスグルしか装備できないのでスグルが受け取り、だれも装備することができない両手斧は特に貴重なものではなかったので売却して、ゴルドを分けることにした。



 分配も終わり、食後のお茶を飲みながらなんとなくアイテムリストを眺めていると、見慣れない名前がリストに入っていた。

 ブ……ブレイブ ドグマ? アレ、いつの間にこんなもの手に入れたんだ? 

 訝しみながらも、リストをタップしてアイテムを具現化してみた。


「何、スグ? このボロボロの羊皮紙」

「いや、知らないうちにアイテムリストの一番下に入ってたんだよ」


 龍司の問いかけに、正直に答える。


「クエスト中にドロップしたんじゃないんですか?」


 琴葉の指摘にスグルは遺跡での戦闘から街に来るまでを思い返す。


 アイテムリストの一番下にあったということは、このアイテムは一番最後に手に入れたということだ。しかし、スグルが最後に相手をしたモンスターである双児狼を倒した後、ドロップの確認でアイテムリストを見たときは確かにこんなアイテムはなかったはずだ。

 その後、酒場に来るまでアイテムは手に入れてないし、報酬アイテムは全部クランの共有BOXに入れたはずである。


 つまり、スグルの記憶が確かなら、アイテムリストにこんな物が入ってるハズないのだ。それを二人に説明するのだが。


「スグの勘違いじゃね?」

「お前ならともかく、オレが間違えるはずないだろ」

「それは俺が馬鹿だって事か!?」

「その質問してる時点で馬鹿決定だろ」

「二人とも落ち着いてください」


 琴葉が間に入って言い合いを止める。出会ってすぐの頃はこんな言い争いがあるとオロオロしていたのに、これがいつものやり取りだと知った最近ではため息しかついてくれなくなった。少し面白くない。


「この文字の意味わかりますか?」


 琴葉の質問にスグルと龍司は揃って首を横に振る。インカ帝国の遺跡に彫られている文字だよ、と言われたら信じてしまいそうな感じの文字だ。


 …………ん? 遺跡?

 その言葉が頭をかすめた時、スグルの思考を読んだように琴葉一つ頷きを作ってから、言葉を続ける。


「たぶん、これはさっきまでいた遺跡に関するアイテムだと思うんです」

「う~ん。手に入れた瞬間は分からないけど、クエスト前にはなかったのは絶対確実だし、たぶん琴葉の言う通りだろうな」

「雰囲気もそんな感じだしねぇ」


 龍司の言う通り、羊皮紙に書かれている文字はいかにも古代文明のものっぽい。


「消費アイテムでもないみたいですよね。つまりコレって……」

「なんらかのイベントアイテムだろうな」


 琴葉の言葉を引き取ってスグルが三人が同じように抱いているであろう予想を述べる。


「あのクエストって確か、この街に住む学者からの依頼でしたよね?」

「そうだな」


 確かあの遺跡を研究している学者からの、遺跡内に住み着いたモンスターを掃討してほしいという依頼だったはずだ。


「つまりその学者さんならこの文字も解読できるんじゃないかって事?」

「龍司さんの言う通りだと思います」

「んじゃ、この後その学者とやらのとこに行ってみる?」


 龍司の言葉にスグルは頷きかけたが、少し考えて思い直す。


「いや、もうすぐ学校に戻る時間だろ。話し聞いてる途中とか中途半端なところで戻るのも嫌だし、今度こっちに来た時にしよう」

「ん、そだな~」

「で、でしたら、あの!」


 龍司がスグルの言葉に同意したのを見計らって、琴葉が少し慌て気味に手を上げる。なんだか小学生を見ているみたいで微笑ましい。


「残りの時間で装備を見に行きませんか?」

「アリャ、琴葉がそんな事言い出すの珍しいね」

「あ、その……すいません」

「い、いや、悪い意味で言ったんじゃ――スグもホラ、何か言えよ」


 からかうような台詞にシュンとする琴葉。それを見た龍司が慌ててフォローしようと小声でオレを急かす。龍司の言い方もアレだが、琴葉もこんな事でいちいち落ち込まなくてもいいのに……。やっぱりまだあの事が引っかかって遠慮してるんだろうか。


「装備を見に行くのは賛成だな。それじゃ琴葉、二人きりでいこうか」

「わっ、ちょっ、テメ、スグこら!」

「そうですね、スグルさん。二人で行きましょうか」

「琴葉まで!? あ~、いいもんね! そんな事言うなら拗ねるもんね!」


 不貞腐れたように龍司がイスの上でソッポを向く。「イジイジ」と自分の口でわざわざ言っているのが微妙にウザい。


「冗談ですよ。龍司さんも一緒に行きましょう」

「いいのか、琴葉? 邪魔なだけだと思うぞ?」

「スグは黙ってろ! よしっ、琴葉今すぐ行こう!」

「アホ、飯の代金払ってからだ」


 店を飛び出そうとする龍司の背中を捕まえて、ため息をつく。そんな様子を後ろで見ている琴葉は楽しそうに笑っていた。




「それで、だ」


 武具やアクセサリーの店が並ぶ街の一角に向かう途中、スグルは話を切り出した。


「琴葉、欲しい装備って何なの? リュウみたいな無計画バンザイを地でいくアホと違って、琴葉のことだからある程度欲しい装備のめぼしはつけてあるんだろ?」

「なんなの!? なんでいちいち俺を罵倒しなきゃ気がすまないの!?」


 約一名が嘆いているが、そっちを見ることなく琴葉の方に視線を向ける。琴葉はチラリと龍司の方を窺ってから口を開く。


「欲しいのは回復力を高めるためのアクセサリーです。この街に来た時から欲しいなとは思ってたんですけど、なかなか必要なゴルドが貯まらなくて」

「アクセサリー……、ね」


 琴葉の言葉を聞いたスグルは言い淀むが、当の彼女は嬉しそうに話すあまりそれには気がつかない。


「私、まだレベル低くて回復魔法の効果が低いから、そのアクセサリーがあればもう少し役に立てると思うんですよ!」

「あ~、その……琴葉」

「なんです、スグルさん」

「まぁ、なんて言うかさ、もう一回よく考えてみない?」

「??」


 歯切れの悪いオレの物言いに、琴葉がキョトンと首をかしげる。彼女なりに考えた結論なんだろう。不満そうな表情こそないが、納得はいってないって顔だ。

 だが、店売りのアクセサリーというのは基本的に値段に対する性能がかなり低い。そのことを話すと琴葉は申し訳なさそうに俯いた。


「そうだったんですか……」

「いや、琴葉が落ち込むことはないよ。むしろ悪いのはオレとリュウなんだから」

「へっ!?」


 いきなり矛先を向けられ、龍司が素っ頓狂な声をあげる。


「な、なんで俺の所為なのぉ?」

「そうですよ、レベルが低くて迷惑掛けてるのは私なのに――」

「いや、オレらの所為だよ」


 強引に台詞を遮ったのだが、同情や憐みではなく厳然とした理由がある――そのことを読みとったのか、二人とも大人しくオレの話に耳を傾ける姿勢を作ってくれた。それを見て説明を始める。


「この世界ゲームの経験値ってどう分配されるか覚えてるか?」

「え~っと……」

「個々人の戦闘への貢献度に応じて振り分けられる、だったと思います」

「さすが琴葉。横のポンコツと違ってちゃんと覚えてるな」

「一言多いんだよ、スグは。大体、それが琴葉のレベルに何の関係が――って、ああそうか」


 龍司だけでなく、琴葉も理由がなんとなく理解できたらしい。

 一つ頷いてから、オレは説明を再開した。


「そう。琴葉のロールは――いわゆる職業のことだけど、それが回復メインの白魔導師だ。優秀な後方支援ロールだけど、近接戦闘能力は残念ながら皆無といっていい。それに攻撃用の魔導スキルもまだ覚えていないだろ?つまり戦闘に貢献する部分はパーティメンバーの回復しかない」

「でも、この世界では基本的に自分たちより格下の相手としか戦わないもんなぁ」


 オレの説明を引き継ぐように龍司が言葉を続ける。


「回復がメインの琴葉の経験値は必然的に少なくなるってことかぁ」

「役立たずですいません……」

「いや、そんなことはない。というか、回復役ヒーラーっていうのはどんなゲームでもパーティの生命線だからさ。一番重要なポジションなんだよ」

「そうそう、むしろ経験値の分配を考えずにモンスター倒しちゃってたオレらが悪いんだしさ。謝らなきゃいけないのはこっちだよ」


 と琴葉を慰める。


「でも、確かにこの先、もっと厳しいクエストを受けようと思ったら、琴葉のロールレベルは上げておかないときついかも知れない」

「スグルさんの言うとおりですよね。すみません」

「だから琴葉、落ち込むなってば。俺ら仲間じゃん。」


 龍司が明るく励ますと琴葉はうつむいていた顔を上げた。


「そんなことよりも琴葉――」

「ちょっ、スグ、お前そんなことって。せっかく俺がかっこいいこと言ってるのに」


 スグルと龍司のいつものやり取りをみて琴葉の顔に笑顔が戻る。


「琴葉、もしよかったらアクセサリーを買うのはちょっと待ってくれないか」

「え、もちろん構いませんが……でも理由ってなんですか」


 琴葉がスグルに目を向ける。


「うん。アクセサリーで上がる効果って、特にショップで売っているようなものだとそこまで高いものじゃないんだ。それこそ、レアドロップで手に入るようなものなら別だろうけど。だから、アクセサリーを買うよりも、そのゴルドで強力な装備を買ってモンスターを倒してレベルを上げたほうがいいかも知れない。もちろん琴葉のゴルドだからオレたちの意見を押し付けるわけにはいかないから、参考程度って思ってもらって構わないよ」

「で、でも私、怖くてモンスターと直接戦うなんて……」

「大丈夫、俺らもフォローするからさ。なっ、スグ」


 落ち込む琴葉を龍司が言葉をかける。どうでもいいけど、オレとはえらい態度が違うよな。

 そんな益体もないことを考えながら説明を続ける。


「そうだな。それにロールレベルが上がればソーサリー系の魔法もいくつか覚えるだろうし。

そうすれば、後衛からでもモンスターにダメージ与えられるようになる。遠距離からの攻撃が可能になれば戦闘もぐっと楽になるはずだ」

「そうですね。このままじゃいつまで経っても足手まといのままだし、がんばります」

「だから足手まといなんかじゃないって~」


 そんな話をしていると、コンパイル5分前のアラームが鳴った。


「琴葉、今日この後用事はあるのか」


 スグルが琴葉に尋ねる。


「えっと、と、特にはないですけど……」


 いきなりそんなことを聞かれてもじもじと琴葉が答える。


「それじゃ、向こうに戻って、飯食った後に3人で話し合いしないか。琴葉のレベルや装備についてと――あの謎の絵文字について」


 スグルがそう提案すると2人とも真剣な表情でうなずいた。


「それじゃ、また連絡するよ」

「わかりました」


 琴葉の声が段々と遠くなる




 頭の中に声が響いてくる。

 コンパイルを開始します。

 スグルは目を静かに閉じた。

 ゆっくりと水面に浮かぶような感覚が体を包み込む。

 目を開けるとヘルメットのガラス越しに第1コンパイル室の天井が見えた。


更新はかなりゆっくりになると思います。

週1でやれたらと思っていますが、どうなることやら。

できるだけ頑張ります。

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